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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 3. Finding your Revenger
24/64

Act 24. Killing Cowards

<サウスロサンゼルス・倉庫街>


 夜が更ける。あれだけ人通りの多かった町は一瞬にして黒の静寂に包まれ、日中に姿を隠していた者たちの時間となる。イースト60番通り周辺の地域は多くのギャングがその息を潜めており、お世辞にも治安が良いとは言えない。暴力、薬物、金。この町はそんなものに支配される。


「こちら斎。作戦ポイントに着いた。そっちは? 」

『バッチリだ。リン、移動するぞ』


 マクレーンたちと行動を別にした後、斎たちは各々の準備を終えてこの廃品回収を行っている倉庫街へと足を運んでいた。捕らえた人質が言い放った、支援者(イネイブラー)という暗殺組織のアジトがこの近辺であるという事。それだけを頼りに、彼らはここを訪れた。


「リュディ、デバイスに地図を表示してくれ。ミカエラ、グレイたちにも頼む」

『りょーかい! 』

『はいであります』


 明朗快活な少女の声がインカム越しに響いたかと思うと義手の腕に装備された長方形型の端末が起動し、空中にホログラム上の地図を表示する。斎のいる南側正門の入り口が赤い点で記されており、グレイとリンのいる反対側の裏口は青い点が表示されていた。今回の作戦では狙撃できるような高所かつ見つかりにくい場所が少ない倉庫街を舞台としている為、グレイたち二人も斎のサポーターとして戦場に立つ手筈となっている。


『そっちの様子は? 』


 インカムにグレイの声が響くなり、斎は物陰に隠れながら頭だけを出して正門をのぞき込んだ。見張りの兵こそいないものの鉄の門は固く閉ざされており、周囲には監視カメラが多数存在している。ホログラムマップにも電子機器の反応を示す緑の点が幾つも点滅しており、斎は右腿のレッグホルスターに手を伸ばして愛銃・グロック34 TTI コンバットマスターを引き抜いた。TTIとはTaran Tacti

al Innovation社の略語であり、主に銃器のスライドやカスタマイズを生業としている企業だ。


「見張りは居ない。ただそれよりも厄介なものが多いな」

『カメラは壊すな。奴さんに警戒されやすくなる。監視ドローンも同じだ』

「だそうだ。リュディ、ハック出来るか」

『はいはーい! リュディちゃんにお任せ、ってね! 』


 瞬間、赤く点滅していたドローンと監視カメラのライトが青いものに切り替わる。TTI コンバットマスターの銃口にサイレンサーを取り付けながら斎は音を立てずに敷地内へと侵入し、廃材の陰に身を隠した。すかさず通信を起動し、義手のホログラムマップを表示する。


「侵入成功。よくやったリュディ」

『えへへ……』

『喜んでる暇はないでありますよリュディ。引き続きグレイさん達のサポートを』

『んもー、分かってるってば。ミカったらボクにだけ厳しいんだから』


 インカム越しに聞こえる和やかな二人の会話を横目に斎は錆びついたコンテナの陰に移動すると、倉庫の周辺が街灯によって白く照らされている光景が映る。こんな夜更けに誰も襲ってこないと見ているのだろう、二人の見張り兵が呑気に欠伸を掻いていた。阿呆が、と吐き捨てながら斎は暗闇に身を顰めながら愛銃の銃口を衛兵に向ける。


『こちらグレイ。位置についた。いつでも撃てる』

「見える。1、2、3の合図で行くぞ」

『ちょっと待った。3って言い終わった後に撃つのか? それとも3って言った同時にか? 』

「どっちだっていいだろう。今はそんな事に時間を割いてる余裕は無い。行くぞ、1、2、3」


 斎がカウントを始めようとした直後、インカム越しに銃声が聞こえる。斎は焦らずに一人目の衛兵の頭に文字通り深紅の花が咲かせ、コンマ数秒で気を取り直しグロック34の引き金をもう一度引く。二人目の兵士も同じように脳天が弾け、周囲に脳漿交じりの血泉を作り上げた。


「おい、こんな時に冗談は止せ。危うく外しそうになった」

『へへ、悪い悪い。算数は苦手なんでね』

『そういう問題じゃないっスよセンパイ。アタシもヒヤッとしたっス』

「リンの言う通りだ。今後は控えてくれ」

『はいはい。まったくお堅いんだからさ』


 さて、と斎は話を一旦区切った。腕から表示されているホログラムマップには倉庫内部の様子が映し出されており、外よりも圧倒的に敵の数が多い。支援者(イネイブラー)のリーダーが居座っている倉庫の事務室へ辿り着くのには骨が折れそうだ。


「手筈通りに行くぞ。俺は正面から倉庫を突っ切り、出来るだけ多くの敵を陽動する。リンとグレイはその隙に裏門側の事務室へと向かい、組織のリーダーであるブライス・ヘイブンの捕縛を行う。その後すぐにマクレーン刑事を呼び、彼を新しい容疑者として突き出す」

『完璧だ。ミカエラ、敵の数は? 』

『数はおよそ30人程度。メンバー全員が其処に居るわけではないみたいですね』

『気を付けてね、三人とも。相手は対機甲強化素体(サイバネティクススーツ)を装備してる連中もいるみたいだよ、3人程度だけどね』

「なら上出来だ。肩慣らし程度には丁度良い」

『アタシもそっちに行きたかったっスけど……ま、機械もどきがいるんならお役御免っスね。頼みましたよ、イツキさん』

「任せろ」


 それだけ告げると斎は通信を切り、腰に装着された高周波ブレード・日秀天桜の鞘に触れる。鯉口のすぐ傍にあったスイッチを押すと鞘全体に青い光の筋が走り、羽虫のような重い羽音を周囲に響かせた。通常のブレードよりも分厚い鞘を持つ彼の愛刀には単体で高周波の振動を促す機能を持っている。聞きなれた駆動音と共に斎は愛銃グロック34をホルスターに仕舞うと、深く腰を落とした。


「ミカエラ。合図を」

『了解であります。グレイさん達も準備はOKでありますか? 』

『今位置についた。いつでもやれる』

『では――――Time(仕事)to()Rock(時間だ)!! 』


 ミカエラの一声と共に斎は愛刀を握った手を一気に振り払う。居合の領域で引き抜かれた日秀天桜は振動の膜をその刀身に纏いながら鉄製の巨大な扉を易々と両断し、周囲に轟音を響かせながら倉庫内部を露わにした。中にいた支援者のメンバーの大半は何が起こったのか理解できていないようで、舞い上がる砂塵へ手にしていた得物の銃口を向けている。そんな光景を煙の中からバイザーを通して見据える斎は、似つかない笑みを浮かべて地面を蹴った。様子を確認しに来た3人の兵士を先ず斬り捨て、三つの首を転がす。


「っ!? 敵が――――! 」


 遅い。そう吐き捨てるように斎は砂塵の中からその姿を現し、バイザーを外してその場にいたメンバー全員を見据えた。ミカエラの情報通り、中には強化素体を装備している兵士もいる。だが装備はどれも型落ちしたモノや錆びついた状態の悪いモノばかりで、注意するほどではないと斎は判断した。


「お、お前は……! 」

「俺に見覚えがあるだろう? 貴様らが事故を装って殺そうとしていた男だ。生憎その目論見も無駄に終わったがな」

「……侵入者と話す口は持たん。それに依頼主の事は話さんぞ」

「ハナから話すつもりなんてないさ。俺が求めるのはただ一つ」


 瞬間、斎は手にした愛刀を目の前の敵目掛けて横に薙ぐ。新たな首が地面に落ち、斎の白い頬に深紅の液体が跳ね返った。その行動を境目に斎を取り囲んでいた他のメンバーたちは一斉に散り散りとなり、強化素体を装備した者だけが彼の前に立ちはだかる。口を開くと同時に斎は地面を再度蹴り、まずは真正面の男へ急接近した。


「――――貴様ら全員の命だけだ」


 同時、愛刀を横薙ぎに振るう。流石に読まれたのか、正面の相手は遅れざまに山刀型の高周波ブレードを抜き払っていた。二つの近接武器が振動と共にスパーク音を周囲に掻き鳴らし、斎はその剣を弾き返す。がら空きになった胴体へ袈裟斬りを叩き込むと複合型特殊柔合金(レアニウム)製の刃は易々と強化素体の鎧を切り裂き、生身の肉を抉り取った。それでも他のメンバーを守るという意思からなのか、致命傷を受けても目の前の男は決して倒れない。


「見事。せめて一太刀で葬ってやる」


 皮肉にも斎はそう言い放ちながら、男の首を落とした。痛みを感じさせない程の速さで先ず一人目を始末した斎は背後から向けられた殺気を感じ取り、能動的にしゃがみ込む。直後後ろから軽いタイプライターのような音が鳴り響き、振り向きざまに空いた左手で愛銃グロック34を引き抜いて引き金を引いた。機械装甲を身に纏っていないメンバーの一人の脳天を9mm大の鉛玉が撃ち抜き、脳漿交じりの血の花を咲かせる。


「こ、このぉっ!! 」


 残り二人の強化素体を纏ったメンバーは既に離脱し、斎の視界には幾つもの銃口が自身に向けられている光景が映し出された。吐き出される5.56mmの凶弾が無数に斎へ殺到するも、彼は眉一つ変える事無く再度腰を深く落とす。抜刀と共に迫っていた鉛玉の数々を斬り落とした直後、空中を舞いながら身体を回転させた勢いで愛刀を振り回し、更に襲い来る銃弾を両断すると同時に愛銃をホルスターに仕舞った。


「銃弾を、斬ってやがる……! 」

「臆するなッ! 弾幕を張れっ! 」


 絶叫に近い会話を耳にしながら斎は着地と同時に地面を蹴り、まずは正面にいた生身の兵士二人の胴体を真っ二つにする。地面に落ちる寸前の自動小銃を空いた左手で掴み取ると狙いも定めずに四方へ引き金を引いた。飛び交う鉛玉に恐れをなしたのか僅かばかり弾幕の隙が生まれ、その地点へ駆ける。廃材の陰に隠れていた3人の若いメンバーは、斎が突然現れた事に驚きを隠せていないようだ。中には涙を浮かべている者もいる。それでも斎は、容赦なく彼らの命を奪い取った。


「くそっ! まだガキだっているんだぞ!? 」


 そんな声が聞こえる。声の主の下へ斎は銃弾を躱しつつ迫り、回し蹴りで地面に伏せさせると同時に両手の中にあった愛刀を脳天目掛けて突き立てた。倉庫内のコンクリート床にひびが入り、深紅の液体で染め上がっていく。


「だからどうした。戦場に引き込んだのは貴様らだ。武器を手に取った時点で、殺される覚悟をしておかなければならない」

「ぐちゃぐちゃうるせぇんだよぉっ!! 」


 痺れを切らした一人の強化素体の男が斎の下へと駆ける。挑発に乗ったであろう男の高周波ブレードを敢えて受け止めず、ただ身体を傾けるだけで斬撃を肉薄した。斎へ攻撃を加えるチャンスだと確信したのか、もう一人の強化素体も手にした得物を斎へ振り下ろす。二人の同時攻撃を涼し気な表情で躱しながら斎は再度愛銃をホルスターから引き抜き、無造作に引き金を引いた。グロック34から放たれる9mmパラベラム弾はいとも容易く他のメンバーの命を刈り取っていく。段々と得物を振るう手に焦りが見え始め、斎は不気味に口角を吊り上げた。


「呑気にチャンバラなんてしているから無駄な犠牲者が出るんだ」


 皮肉を口にしながら斎はついに袈裟斬りを避けた拍子に右手の日秀天桜を横に薙ぎ、山刀型の高周波ブレードを持っていた男の腕を切断する。斎の日秀天桜はたとえ特殊柔合金製の強化素体でも易々と切り裂く斬鉄の剣だ。人間の腕ごと斬り落とすことなど、容易い事だった。鮮やかな血潮が再び宙を舞い、斎の頬に付着する。その光景を一瞥しながら彼は、痛みに悶える男の脳天目掛けて刀を振り下ろした。


「ば、化け物め……! 」

「そうだとも。少なくとも俺は貴様らのような弱い人間じゃない」


 死んだ仲間のブレードを拾い上げ、二刀流と化した最後の一人は覚悟を決めたかのように斎へ向かってくる。散って行った仲間たちへの仇討ちのつもりなのだろう。実に感動的だ、と斎は皮肉の言葉を吐きながら左手の愛銃を向けながら一歩前へ踏み込んだ。生憎最後の男の頭は、正規軍の使用するような頭部を防御するヘルメットに守られていない。


「刀だけだと思ったか? 阿呆め。だから死ぬんだ」


 軽い炸裂音と共に男の脳天に1センチ大の穴が空く。硝煙と鉄のような血生臭い匂いが辺りに立ち込め、斎はしかめっ面を浮かべた。どうやら遊んでいる間に生き残りには逃げられてしまったらしい。軽い苛立ちを覚えながら斎は通信回線を開き、グレイたちへ口を開く。


「こちらは済んだ。そっちは? 」

『馬鹿野郎、陽動しろとは言ったが奴さんとビビらせろたぁ言ってねえぞ!? 続々と敵が増えてやがる! 』

『死にてぇ奴から掛かって来な、タマ無し野郎どもォッ!! 』

「……だいたい状況は把握した。そちらへ向かう」


 転がっていた死体からIMI社の自動小銃 タボール AR21とその弾倉を剥ぎ取ると、斎はスリングを肩に掛けながら倉庫の奥へと進む。奥から聞こえる無数の銃声に、斎は己の黒い意志が沸き上がってくるのを感じながら更に歩く足を速めていった。

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