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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 2: Reloading your Magazine
18/64

Act 18. Crash it

<海兵隊基地・訓練場>


 散らす火花。響き渡る鈍い音。斎は一体どれ程のこの轟音を耳にしただろう。目の前に迫る機械仕掛けの人間は、疲れを知らずに斎へ軍刀型の高周波ブレードを均一な力で振り下ろしてくる。これが生身の人間を相手にしていたら、間違いなく機甲兵が勝るだろう。それ程にプログラムされた動きは冷酷無比に剣を振り下ろし、斎の体力を刻一刻と削っていた。


「はァッ、はァッ……! 」


 幾ら四肢が機械(サイバネティクス)化されたといっても動かすのは斎自身に他ならない。胴体部分は生身の身体だ。故に、四肢を動かす度に蓄積された体力は失われていく。機甲兵のように無尽蔵ではない。その差を嘲笑うかのように人型機甲兵(マキナロイド)・ギルガメシュの隣にいた四足型機甲兵(アニマロイド)・エンキドゥが息切れした斎へ向かって行く。


『目標、消耗。このまま押し切れる』

『やれ、エンキドゥ』


 まるで狩人のようにギルガメシュの声帯スピーカーから冷たい声が響き、斎の神経を逆撫でした。不思議と故障しかけていた右腕が力を取り戻し、迫り来るエンキドゥの開かれた大口へ向けて拳を突き出す。複合型特殊柔合金(レアニウム)製の拳は易々とエンキドゥの牙をへし折り、そして顔を掴んで自身の眼前へ近づけた。


「消耗? 笑わせる……。案外人工AIというものは大した解析能力を持っていないみたいだな」

『損傷甚大。ギルガメシュ、救援要請』


 エンキドゥの声と共にギルガメッシュは対人自動拳銃の銃口を向け、片手で引き金を引く。斎は己の感情の赴くままに腕を振り回し、エンキドゥの身体を投げ飛ばした。その直後に斎は一度鞘に収納した日秀天桜の濃口を切り、一気にギルガメシュへ距離を詰める。


「人間を嘗めるなよ、鉄屑風情が」


 自分でも不思議なくらい、怒りを感じていた。機械が感情を持つなど笑わせる。それは単なる貴様らの身勝手な暴走に過ぎない。そう言い放つかのように斎は手の中にある愛刀を一気に引き抜いた。居合。樹が最も得意とする、必殺の剣。それでもギルガメシュの動きは冷静そのもので、斎の怒りを感じ取ろうともせずに身を逸らすだけで斎の一撃を肉薄した。瞬間、斎の腹部に鋼鉄そのものの打撃が命中し、思わず胃の中にあったものを全て吐き出すような感覚に襲われる。


『貴様たち人間はよく私達を鉄屑だの出来損ないだと吐き捨てる。気に食わん。元々は貴様らが作った存在だ。出来損ないなのは、貴様ら人間の方ではないか? 』

『……肯、定』

『それ見ろ。あの女科学者の手によって作られた身体など、私たちにとっては玩具同然だ』


 衝撃を殺し切れず、斎は後方へ吹っ飛ばされた。防弾ガラス製の柵に衝突するも、ヒビさえ入らないその景観に斎は苛立ちさえ覚える。防護柵の向こう側では相変わらず兵士たちが対機甲兵用の装備を整えたりと大忙しで、頼みの綱のミカエラもシステムを解除する事に集中していた。


「ちっ……おい、まだか。奴ら、想像以上に厄介だ」

『今やってるであります! リュディ、解析をこっちに! 』

『分かってるって! イツキクン、もう少し耐えられる? 』

「無理難題を言いやがる……! 」


 インカムに響くミカエラとリュディ。機械が焦るなと言いたい所だが、生憎斎にもそんな暇と余裕は無い。荒げた息を肩で整えながら立ち上がると、左手だけで愛刀の柄を握り締める。生憎右腕の義手は反応が悪く、使い物にならないと判断した結果だ。


『今すぐこのクソッタレの防護壁を退かせ! イツキを死なせるんじゃねえ! 』

『ルイスさん! 準備はまだなんスか!? 』

『分かってる! 対機甲兵部隊、応答しろ! 』


 珍しいグレイの怒号と、慌てふためくリンの声。防護壁の外で騒がしく駆けまわる彼らを一瞥し、斎は愛刀・日秀天桜の切っ先をギルガメシュに向ける。


「……玩具か。案外合っているかもしれんな。このように俺は貴様らの同族に手足を捥がれた。こうして生き永らえているのも、貴様の言う玩具のお蔭かもしれん」


 だが、と斎は付け加えた。


「気に食わん。たかが人間の真似事をし始めた鉄屑如きが、人間に歯向かうつもりか」

『傲慢とも言える台詞だ。だから人間は醜い』

「ほざいていろ。それに俺は、貴様らに個人的な恨みがある。そのツケを返す為にも――――」


 斎は両太腿に力を入れ、地面を蹴る。大地を揺るがす程の力強さと共に、斎はギルガメシュに急接近する。隣に鎮座していたエンキドゥでさえも反応できなかった程の速さに驚きを見せたのか、アイカメラに若干の揺らぎが見えた。


「――――俺の糧になって貰うぞ。鉄屑」


 鍔競り合った高周波ブレードを弾き上げ、空いた右腕を薙ぐ。使い物にならなくなったと言えど殴る用途で使えば役には立つだろう。斎の義手はギルガメシュの顔面部分を捉え、体勢を崩すまでに至る。すかさず斎は日秀天桜を握っていた腕の力を敢えて弱め、僅かばかり後方へ退くと身体を捻転させた。その勢いを伴って繰り出される強烈な回し蹴りは、人間の底力を見せるに値する。


()()()()()の一撃は効くだろう。それが貴様の嘗めている人間の成し得るものだ」


 追撃するように斎はもう一歩前へ踏み込み、愛刀の柄頭をギルガメシュのアイカメラ目掛けて突き出した。予測された攻撃であったのか首を傾げてその一撃を回避するギルガメシュへ向けて、斎は似合わない笑みを浮かべる。遅い。そう嘲笑うかのように斎は再度使い物にならない右腕をギルガメシュの腹部に叩き込んだ。想像を絶する衝撃にギルガメシュの纏っていた機械装甲(サイバネティクスアーマー)が歪み、鉄片が周囲を舞う。


『ギルガメシュ』

『来るな、エンキ――――』


 既に斎から受けたダメージを受けても尚、エンキドゥは反撃の牙を斎に向けて彼に飛び掛かった。対する斎は敢えて身体を動かさずに迫るエンキドゥを見つめ、牙が眼前に迫った所で愛刀を振り上げる。高周波を纏った日秀天桜は機甲兵の装甲を易々と貫き、まるで鮮血のように褐色の液体が噴き出した。更に、動きを停止したエンキドゥを地面に叩き付け完全に機能停止させると斎はエンキドゥの首目掛けて愛刀を振り下ろし、完全に機能を停止させた。


「頼みのお友達とやらはこの手で葬った。後は貴様を殺す(機能停止)だけだ」

『貴様、貴様――――! 』

「機械が怒りを覚えるか。ハッ、完全に暴走しているな」


 挑発するかのように斎は両手を広げ、肩を竦める。彼の挑発に乗るようにギルガメシュは怒りを露わにし、斎の下へ駆けた。


『私の友を、侮辱するのか――!!』

「……沸点が低い奴ほど、自分が侮辱されると怒り狂うんだよ」


 斎は微動だにせず、迫るギルガメシュを見つめる。抜き身の日秀天桜を左手に握りながら、アイカメラを憤怒の色に変貌させるギルガメシュへ一歩前に踏み出した。相手の高周波ブレードが身体に触れるよりも早く、斎は愛刀を力のまま振り上げる。スパーク音と共に、斬り捨てられる機械の腕。当然痛みなど感じないだろうが、失った右腕を憐れむかのように腕の付け根をギルガメシュは手にした。


「貴様も俺の友を侮辱した。――――特に俺の恩人へは、言葉を選べ」


 地面に膝を着くギルガメシュの首元へ愛刀を突き付け、そう言い放つ。ようやく自分の怒りの正体が理解出来た。斎を死の淵から救った科学者――――ミカエラ・ウィルソンへの侮蔑の言葉。それこそが引き金だった。目に殺気が宿り、体の端から殺意が滲み出る。


「さらばだ、人間の心を持った人形よ。せめて魂だけは、地獄に落ちろ」


 冷たく重い刃が、機械の首を刎ねた。

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