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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 2: Reloading your Magazine
15/64

Act 15. 三刀一閃、瞳に宿るは鈍き輝き

<サンディエゴ・海兵隊基地>


 鞘の鯉口に手を置き、自身を囲む三体の対機甲強化素体(サイバネティクススーツ)を斎は見据える。四肢の感覚は無いが、まだ生身の身体である肩と膝にはピリピリとしたその場の雰囲気が伝わっていた。音にならない呼吸をしながら、両肩の力を抜いた斎は一陣の風が相手と自分の間に吹いた感覚を覚える。瞬間、斎は両膝に力を込めた。複合特殊柔合金(レアニウム)製の両脚が地面を蹴り、目の前にいた兵士へ一気に斎の身体を近づかせる。


「速ッ――――」


 最初に俺を見た者は、皆そう言う。そんな事を脳裏に浮かべながら斎は愛刀・日秀天桜を抜き払い、目の前に現れた片刃の得物と鍔競り合った。海兵隊仕様の強化素体にはMMR(対機甲)弾専用自動小銃(アサルトライフル)・GLK54の他に副武装(サイドアーム)には対機甲用の自動拳銃 GLS18が配備されている。今回の訓練ではこれらの銃器は使用せず、近接戦闘を主体とした実戦訓練となっていた。故に、3人の兵士たちが扱う得物は軍刀(サーベル)型・山刀(マチェット)型・騎士剣(ロングソード)型の高周波ブレードのみである。今回は全て高周波の刃を纏わない訓練モードとなっており、刀身を身体の一部に当てた時点で強化素体の機能が停止するようになっていた。


「こ、こいつッ! 」


 声を上げながら剣を振るうなど言語道断。そう吐き捨てるように斎は目の前の軍刀を弾き上げ、背後から迫っていたもう一人の兵士へ身体ごと視線を動かした。二振りのマチェット型高周波ブレードを手にした男が斎の視界に映り、彼よりも速く山刀の刃が動く。無論、高周波を纏った一撃ではないものの当たれば多少のダメージは生ずる。斎は目の前に迫った凶刃を捉えると左肩を動かす事で肉薄し、3人目の兵士へと視線を変えた。


「はァッ!! 」


 騎士剣型の高周波ブレードには二つ利点がある。一つは両刃である為、反撃に転じ易いという点。もう一つはリーチが他のものよりも長く、相手にダメージを加え易い点。しかし斎にとっては、些細な障害でしかなかった。切っ先を下げていた日秀天桜を振り上げる事で迫る両刃剣を簡単に弾き上げ、左手に握った日秀天桜を横一文字に薙ぐ。再度4名の間に距離が生まれ、斎は三人の兵士に取り囲まれた。


「…………」


 一瞬で三度の剣撃を経てなお、斎は息すらも上げずに三人を見据える。左肩と並行した日秀天桜の黒い刃が日光に照らされ、禍々しい輝きを放った。一体この剣でどれ程の命を、どれ程の鋼鉄を切り裂いて来たのか。その真実は、目の前の兵士たちに分かる筈も無かった。挑発するように斎は右腕を前にゆっくりと伸ばし、人差し指を前後させる。兵士たちを激昂させるには十分すぎる行動だ。


「嘗めやがって……! 」


案の定、斎の行動に腹を立てたのか騎士剣を持った兵士が真正面から斎に向かってくる。愚直で単純。されど、海兵隊に所属できるほどの実力を以てすれば常人には十分速い剣速だ。それでも、斎の速さには到底追い付けない。平行に構えた状態から横殴りに日秀天桜を振るい、突き出された両刃剣の鋭い切っ先を肉薄する。そのまま両手で柄を握り直し、腰を落として刀を兵士の右肩目掛けて振り下ろした。


『アルヴィン・オルロフ。戦闘不能』


 騎士剣型を所持していた兵士――――アルヴィンの纏う強化素体から無機質な電子音声が周囲に鳴り響き、項垂れるようにアルヴィンは両膝を地面に着く。普段剣を使用していなければ腕の立つ剣客に勝てる道理もあるまい。彼が銃を持っていたなら、話は別だが。戦闘不能になったアルヴィンを一瞥し、斎は日秀天桜を握っていた両腕を腰まで落とす。正眼の構え。剣術を嗜む上で最も基本とされる型だ。


「――――」


 彼の纏っていた空気が、変わる。それを察知した二人の兵士――――アルマン・ビュイックとジャスパー・ベイトは大粒の汗が額から零れ落ちる感覚を覚えた。目の前に立つ銀髪の日本人は何故、これ程までの圧を放っているのか。自分たちよりも若く見える彼が何故、周囲が濁る程の異様な空気を漂わせているのか。二人の脳が、斎という男への理解を拒み始める。


「―――行くぞ」


 斎がそう言い放った瞬間に日秀天桜はその切っ先を側方に向け、アルマンとジャスパーの神経を逆撫でした。二人の身体が一瞬ビクついたのを見るなり斎は口角を吊り上げ、軍刀型高周波ブレードを握るアルマンへ身体を倒す。捻転させた勢いで刀を振るうと軍刀の細い刀身と火花を散らし始め、顔面が露出したアルマンと視線を交わした。


「良い反応速度だ」


 それだけ告げると斎は軍刀を弾いてアルマンの胴体をがら空きにし、その拍子に背後へ振り向く。二振りの山刀型のブレードを握ったジャスパーが迫っており、斎は蹴りを浴びせる事で彼を無理やり距離を突き放した。それでもジャスパーは止まらず、右手のマチェットを斎目掛けて振り下ろす。素早く愛刀を振り上げて山刀を防ぐと、手首を返してジャスパーの右手を狙った小手打ちを放った。しかしそれをもう片方のマチェットで防がれ、斎は僅かばかり感心を覚える。


「ほう――――! 」


 シラッド。東南アジア近辺に伝わる古武術の一つだ。ジャスパーの構えから斎は一瞬で彼がシラッドを会得している事を理解し、再度睨み合う。事実シラッドには二振りの得物を扱う型が存在し、攻撃速度・威力共にトップクラスを誇る。何故海兵隊に所属しているジャスパーがアメリカ陸軍式格闘術ではなくアジアの武術を嗜んでいるかは分からないが、斎に笑みを浮かばせるには十分だった。


「面白い」

「ッ――――!? 」


 荒波の様にジャスパーに押し寄せる殺気。ジャスパーは身体の力を抜いてしまい、斎が迫って来ている事を一瞬遅れて理解する。横一文字に振るわれた日秀天桜の一撃を防ぎ切れず、もう一方の山刀を突き出した。既にその行動を予測していたのか、斎は再度手首を返して二撃目を刀身で受ける。思わずジャスパーは「あっ」と声を上げ、自身の胴体に迫る黒い刀身を見据えていた。その隙を見逃すほど斎は親切な心の持ち主ではない。故に、斎は愛刀を振り払った。


『ジャスパー・ベイト。戦闘不能』


 そんな声を一瞥し、斎はアルマンへ視線を向ける。ジャスパーとの戦いぶりを見て腹を決めたのか、彼の双眸は妙に据わっていた。そんなアルマンを見るなり斎はゆっくりと両手首を自分の目線まで持ってくると、柄を握り締める。霞構え。相手に刀身と剣先を捉えさせない型。故に、その形は掴めない気体の名を冠する。


「アンタには勝てないだろう。何だかそんな感じがするよ」

「負けるのは初めてか? 」

「あぁ、恥ずかしながら」

「何事にも初めてはある。気にするな」


 戯言とも言える会話。数回だけ言葉を交わした後に斎は地面を蹴り、アルマンとの距離を一気に詰めた。アルマンの軍刀が刺突を防ぐが、斎の勢いが止まる事は無い。元の位置から少し離れた場所でアルマンはようやく斎の剣を弾き上げる事に成功し、追撃として袈裟斬りを見舞う。


「良い一撃だ」


 だが。斎は難なくその袈裟斬りを受け止め、身を屈めつつ一歩前へ踏み込むとアルマンの胴体へ刀身を叩き込んだ。その後素早く側面へ移動し、脇腹に一撃を加えて背後へ回り込む。直後アルマンへ愛刀を振り下ろした勢いで斎は背中を向け、手の中の日秀天桜を一回転させながら左手に握った鞘に納めた。


『アルマン・ビュイック。戦闘不能』


 三度目の無機質な声が、無慈悲にも晴天に響いた。

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