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Killer's Blade   作者: 旗戦士
Chapter 2: Reloading your Magazine
13/64

Act 13. Weapon's Deal

<銃器店 Jaeger Bomb>


 武器を手に入れるのは何時の時代も苦労する。たとえ2070年代になろうともそれは変わらず、この合衆国でも弾薬の購入でさえ銃所持の免許を携帯していなければならない。では、斎たちのような裏社会に通ずる人間がどうやって武器を手にいられるのか。その答えが、彼らの目の前で優雅に煙草を吹かす50代の女だった。


「なんだい、アンタらか。また(おもちゃ)が壊れたってのかい? 」

「手厳しいな、シヴ。壊れないようにするのがあんたの役目だろ? 」

「質問に質問で返すんじゃないよ、馬鹿たれ。まあいい、とにかく入りな」


 武器商人(ウェポンディーラー)、シヴ・ローレンスバイク。彼女は斎とグレイを室内に招き入れると、カウンターの向こう側に置かれた椅子に腰かける。咥えていた煙草を口から離し、黒い灰皿に灰を落とすと二人へ視線を向けた。


「それで? 今日はどうすんだい」

「こいつを頼む」

「……グロック34を見てくれ」

「はいはい。じゃあとっとと貸しな」

「どのくらい掛かる? 」

「すぐ済むよ。適当にその辺で銃見てな」


 そう二人に告げるとシヴは黒い自動拳銃(オートマチック) グロック34 TTIカスタムと銀色の回転式拳銃(リボルバー) S&W M686 6インチを受け取り、作業台の上に置く。ロス市内にある合法的な鉄砲店では全て整備を機械に任せているが、シヴの場合は自らの手作業で全て行っていた。まず彼女はグレイの愛銃を手に取るとサムピースを手前に引き、6つの穴が空いたシリンダーをスイングアウトする。


「グレイ。一体どんな使い方すりゃあこんなになる? 酷い有様じゃないか」

「ごめんよママ。取っ組み合いになって銃でぶん殴ったらこうなっちまったんだ」

「誰がママだよ。アンタみたいなロクデナシ、産んだ覚えはないね」

「そりゃまた辛辣なこった。……パーツ交換が必要なら金なら出す。それでいいか? 」

「……まあ、それなら文句はないけど」


 何処からともなく取り出した作業ゴーグルを掛け、先ずはシリンダーの穴にブラシを突っ込むシヴ。こびり付いたスス汚れを忌々しそうに一瞥するとフレームが歪んだシリンダーを足元のゴミ箱に投げ捨て、作業台の引き出しから真新しい銀色のシリンダーを取り出した。その後シヴは6インチの銃身(バレル)に目を向ける。フォーシングコーンと呼ばれる銃身の根元部分を覗き込み、再び訝し気な声を上げた。


「これで良く生き延びれたもんだ。悪運だけは一級品さね」

「お褒めに預かり光栄、ってね。で、俺のカワイ子ちゃんはどうだ? 」

「銃身自体には其処まで問題ない。ただ前みたいな使い方をしてたら確実に整備不良起こしてお陀仏、なんてことは十分あり得るよ」

「御忠告どうも。支払いはカードで良いか? 」

「あいよ。で、次はイツキの方かい」


 斎はシヴの言葉に頷く。彼の扱うグロック34には通常のものとは異なった部品(パーツ)が使用されており、肉抜きされたスライドの隙間から金色の銃身が露わになっているものだ。また手から滑り落ちないように黒いグリップ部分にはダイヤモンドテクスチャが施され、弾倉(マガジン)が落ちないように固定するマガジンバンパーなど、彼の細かい性格が愛銃から滲み出ていた。


「これも随分と息が長いねぇ。グロックの最新版はお気に召さなかったのかい? 」

「……銃など撃てて当たれば良い。一番手に馴染むのがこれだった。それだけだ」

「これだけカスタムしといてよく言うよ。まあいい、分解してみる」


 銃身の下にあったリリースボタンを押しながらスライドを外すシヴを横目に、斎は壁に立て掛けてあったとある銃を見つめる。カーキ色のポリマーフレームボディに身を包む長大な小銃(ライフル)の名はRemington R11 RSASS(アルサス)。レミントンセミオートマチックスナイパーライフルの略称であるこの銃は2010年代に軍用半自動狙撃銃として製造され、本来なら民間で使用する事は不可能な一品である。しかし近年、人型機甲兵(マキナロイド)の暴走事件を経て民間・軍用として出回っていた銃が全て回収され、MMR(対機甲)弾との互換性を高める為に改良が施され、民間にも出回るようになっていた。


「そう言えば、リンの武器を買わなければな。グレイ、お前が選んでやれ」

「俺がぁ? つうかなんでこのタイミングなんだよ、あいつがいる時で良いじゃねえか」

「こういうのはサプライズが大切だ。特にお前からの贈り物になると喜ぶはずだぞ」

「人殺す道具をプレゼントって言えるのか微妙だけどよ……。まあいい、分かった」


 グレイは斎に言われるがままショーウィンドウを舐めるように見回し始める。回転式拳銃よりも自動拳銃の方が時間が掛かるのかシヴの方はまだ斎のグロック34の内部清掃に手間取っていた。二人の方を一瞥しながら、壁に立て掛けてあったRSASSを手に取る。


「ちょっと。銃に触る時は一言断り入れろって言ってるだろ? 何度言ったら分かるんだい」

「……それは謝る。少しコイツが気になったものでな」

「RSASSねぇ。またマイナーな銃を選んだもんだ」

「幾らだ? 」

「随分昔に仕入れたもんだから元値忘れちまったよ。1000ドルでどうだい? 」

「いいだろう」


 斎がRSASSの武骨なフォルムに見惚れているとグロック34の整備が終わったのか、シヴが彼の銃をカウンターの上に置きながら近づいてきた。手にした自動狙撃銃の会計を済まそうとすると、斎の隣にいたグレイが二人の間に割って入る。


「なんだいグレイ」

「この下にあるコイツ、ジェリコ941も追加で頼む」

「へぇ、アンタが自動拳銃(オートマチック)を? こりゃあ台風でも来るかね」

「馬鹿言え、俺が使うもんじゃねーよ。新しく入った新人に買ってやれとうちのボスが言うもんでね」


 IMI社製 ジェリコ941。イスラエルのIMI社が創り出した中型の自動拳銃だ。銃身を交換する事で9mm弾の他に.AE弾を使用する事ができ、近年MMR弾にも互換できるようになった代物である。20代半ばのリンには些か大きすぎるのではないかと斎は思ったが、グレイが選んだ以上口出しする事もあるまい。


「今日はとんだ客が来たと思ったけど、案外いい稼ぎになった。ざっと3000ドルでどうだい」

「安い方だな。……経費で落とすぞ」

「あいよー。後でミカエラ目ん玉吹っ飛びそうだけど」

「ミカエラに言っときな。次はお前も来いってな」


 斎は軽口を叩きながら自身のクレジットカードをシヴに手渡し、RSASSとグロック34をホルスターとガンケースに仕舞う。グレイの方もジェリコとM686を受け取ったようで、程なくして二人はシヴに別れを告げる事となった。雑居ビルの階段を下り、晴れた空の下グレイと斎は一度だけ立ち止まる。


「どうすっか、流石に銃持ってメシ食いに行く訳にもいかねえだろ」

「ロニのところはどうだ? あそこなら顔馴染みも多い」

「よしきた。早速ロニのとこ行ってメシ強盗しようぜ」

「……お前という奴は……」


 呆れながらもグレイと斎は並びながらロサンゼルス市街の奥へと向かって行く。初老男性の怒号が街中に響いたのは、割とすぐの事だった。

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