ギルド入団
「おはようエルシアくん。よく眠れたかしら?」
「おはようございます。はい、よく眠れました」
階段を降りてリビングに行くと、ヴィヴィアムさんに挨拶をされたので、自分も返し椅子に座る。
するとヴィヴィアムさんが朝食を出してくれたので、ありがとうございますと返す
「いただきます」
「......?」
いつも通りに食べようとすると、ヴィヴィアムさんがまるでキチガイを見るようなおかしそうな目でこちらを見てくる。
な、なんでい
「ど、どうしたんですか?」
「いえ、食事前の合掌が独特だと思っただけよ」
「そうですか?ロード家では普通にしてましたよ」
文献にも残されてたし、普通にやることだと思った。まあ、初めてここに来た時はすっかり忘れていたけれどさ
「へえ......ねえ、それはどう言う意味があるのかしら?」
ヴィヴィアムさんは興味深そうに訪ねてくる
「意味、ですか?えーと、確かいただきますは、食事に携わってくれた方々と、素材に対してのお礼だったと思います。それで、食べ終わった後にごちそうさまでしたって言うんですけど、それは作ってくれた人に対してのお礼......だったと思います」
「なるほどね......騎士王の持ってきた数千年前のしきたりかしら......」
ヴィヴィアムさんが何か呟いていたが、聞き取りずらかったので気にせず出された朝食を食べ続ける。
パンに目玉焼きとベーコン、そしてサラダにスープだ。どれも味付けが適度であり、飽きなく食べれるようになっていた
「ふぁ......おはようございます......」
「あら、おはようエレイン」
「エレイン、おはよう」
朝食の感想を一人で考えていると、エレインが起きてきた。
髪の毛はすこしボサボサで寝癖が付いていた。が、それも良い
「......」
ふと見ると、エレインは手を合わせて何かを念じるだけだった。なるほどー、家によってこんなにも差が出るのか。なんか面白い。
そんなことを思っていると、朝食を食べ終わった。
ごちそうさまでしたと言い、食器洗いをしようとしたが、ヴィヴィアムさんに
「貴方はこれから大事な用事があるでしょう?大妖精ギルドはそこまで厳しくはないけれど、しっかりとしておきなさい」
と言われたので、「わかりました。ありがとうございます」と返して部屋へ戻った
「うん......これで荷物は全部かな」
まあ、そうは言ってもバックパックとその中身に、にエストールしかないけど。
それまで使っていた剣は、どうやらドラゴンスパイダーの一撃を受けた際に折れてしまったようでヴィヴィアムさんが引き取ってくれたから
(鎧の類はないの?)
エストールがそんな話をしてくる
(鎧を買うお金なんてないよ。それに、あまり鎧とかの自分の身を縛る物は好きじゃなくてさ)
(へえ。まあ私を扱うのに邪魔になるからいらないよね!)
そうだな〜、と返す。鎧が好きじゃないのは事実だから。
実際騎士団の入団テストの際につけた鎧が邪魔すぎて、鬱陶しかったから「オレにこんなものはいらん!!」って言って投げ捨てたけど
(......多分、落とされた原因はそれにもあるんじゃないかな?)
(そうか?機転が利くと思ったんだけど)
(いやいや、今は意外と厳しいんだよ。そういうの)
窮屈な世の中だな、と毒づき下へ降りる。あれ、でもたしかに投げ捨てた時にガチーン!って誰かの頭に当たったみたいな音がしたな。
しかもそのあと、ハゲの試験管は包帯巻いてたし。あれハゲ隠しじゃなかったのか......?まあ良いか。
下ではすでにエレインが準備を終えていた
「ごめんエレイン。ちょっと時間がかかって」
「いえ、大丈夫ですよ」
そう言いはにかむエレイン。
うん、かわいい。
するとその後ろからヴィヴィアムさんがやってきた
「あ、エルシアくん。これ、貴方の折れた剣を再利用したわ」
ヴィヴィアムさんは鉄製の籠手......というより、革製のオープンフィンガーグローブに鉄の装甲が付いたものをくれた。
「貴方は鎧が嫌いだってぼやいているのを聞いてね。さっき作り直してきたわ」
「え、まじですか......?」
あの短時間で......!?
もしかしなくてもヴィヴィアムさん、すごい人?
「それに、私達泉の精霊の加護付きの特別品よ。さあ、手を出して」
言われた通り手を出すと、ヴィヴィアムさんはそれを付けてくれた。
革がベースになっていて、その上に、元は剣だった鉄の装甲が付いている。それは指を動かす邪魔にはならず、快適な付け心地だった。しかもなんか宝石みたいなのが埋め込まれてて、とても......男心をくすぐられる。まるで何年も使用していたかのように手に馴染むのも完璧だ
「もし破れたらまたくると良いわ。いつでも直してあげるから」
「ありがとう、ございます......!これ、最高です!!」
(泉の精霊......やっぱり私を作っただけはあるね!)
エストールも賞賛する。
当たり前だよなぁ?
「ふふ、そう。ああ、そう言えばこれがクエストの報酬よ」
ヴィヴィアムさんは思い出したように袋を渡してくる。中を覗くと、王国金貨が......えーと、数十枚......
「って、いや!こんな量は貰えませんよ!それに、エストールをくれただけで十分ですし......」
「エルシアくん、受け取りなさい。これは貴方のものよ。それにエストールは私がただあげただけよ。ねえエレイン?」
「そうですよエルシアさん!」
「いや、でも...」
こんな大金、節約すれば半年......いや、それ以上のレベルだ。
王国銅貨、銀貨、金貨とレベルが上がる中での最も高いグレードだ。銀貨は一枚で銅貨10枚、金貨は銅貨100枚分と定められているのだから
「ほらほら、受け取りなさいって」
ヴィヴィアムさんは無理やりその袋をオレに握らせてくる。
ぐぬぬ
「......ヴィヴィアムさん、これはオレの金貨なんですよね?」
「ええ、そうよ」
「ならオレは、この金貨......自分の好きなように使っても?」
「もちろんじゃない」
だったらこっちにも考えがある!
「それじゃあ、この金貨は二日間過ごさせてくれた心優しい精霊さんに寄付しますね」
「へ?」
呆気に取られた顔をしているヴィヴィアムさんに押し付け、エレインの手を取り外に出る。
今のうちに!
「ちょ、エルシアさん!?」
「んじゃあヴィヴィアムさん!ありがとうございました!!」
そのまま走り出す。場所はすでに聞いていたため迷うことはない。多分。
ふと振り返ると、ヴィヴィアムさんはどこか満足げな顔をしていた
ーーーーー
「全く......困った子ね」
私は押し付け返された金貨の入った袋を見る
「まあ......騎士王様はこれくらい欲がないとなれないのかしらね?」
彼にあげた手の甲を守るためのグローブ。あれは私の最高傑作と言っても過言ではないものだ。
おそらく素人目に見ても良いものだとはわかるはず......
なのに彼には純粋な喜びしかなかった。私が注文を受けて武具を作った時のお偉いさんの反応とは違う、喜びが。精霊の能力を使えばわかる
「はあ......なんだか彼といると、私のペースが乱される気がするわ......」
でもそんなことも悪くはないかもしれない、と思っている。
ふと目に入った鏡の中の私は、すこしニヤついていた
「......楽しみね。彼が本当に騎士王になった時が......」
私は泉の精霊。永遠に等しい若さと命がある。それはエレインも同じだ。
もしもわがままを言うならば、彼には私という存在がいたことを覚えていてほしい。
そう思いながら、いつも通り注文された武具を作り始めた
ーーーーー
「ここが大妖精ギルド......」
「すごいですね!」
「ああ」
あれから記憶を頼りにハーミルフォレストを跨いだ大妖精ギルドへとたどり着いた。迷わなくて良かった......
パッと見はかなり大きく、最高ランクであるSランクのギルドであると言われても違和感はなかった。
少しの間その大きさに圧倒されていると、どこからか声をかけられた
「エレイン・ニアム様と、エルシア・ロード様ですか?」
「あ、はい」
声をかけられた方を見ると、同い年くらいの長い黒髪で紫色の瞳を持つメイド服の女性がいた。あら嫌だ、美少女じゃない。
すると彼女は大妖精ギルドの大きな扉を開けてお辞儀をし、こう言った
「ようこそ大妖精ギルドへ。私はメイドのリナ・ルルズと申します」
「ああ、オレはエルシア・ロードです。よろしくお願いします」
「エレイン・ニアムです。よろしくお願いします!」
「はい。それではこちらへどうぞ」
そう言われ、リナさんの後を追う。
すると、彼女はここで座ってお待ちくださいと言い、紅茶を出してくれた。
う〜わ、滅茶滅茶に美味いよこれ。お茶だけに。
(つまんな〜)
(っせい!)
その紅茶を楽しんでいると、どこからともなく青色の髪の毛をした若い女性がやってきた
「あ、フェイさん!」
「久しぶりじゃのうエレイン。大きくなったなぁ、ここも!」
「きゃっ!やめてください!!」
......エレインと目を合わせた途端、フェイと呼ばれた女性はエレインの胸を揉みしだき始めた。
良いぞ、もっとやれ!
(じゃあエルシアも混ざれば?)
(あはは、折るよエストール?)
それはオレが美少女との接し方に慣れていないのをバカにしているのか?
(きゃーこわいー♪)
なぜ嬉しそうにしているんだこの聖剣は......そう思っていると、青色の髪をした女性が話しかけてきた
「む、お主がエルシアか。私はフェイ、この大妖精ギルドのギルドマスターじゃ。よろしく頼むぞ」
「はい、よろしくお願いします。フェイさん」
「さんか......良いなぁ、さん付けかぁ......」
フェイさんはなぜか嬉しそうにしている。
いやいや、どしたスケベ妖精。
戸惑っているとメイドのリナさんがこう言ってくれた
「フェイ様はその性格からかなり舐められていて、さん付けされたりすることはないんです」
「そうなんですかリナさん」
まあ、たしかにわかる。
オレもこれがギルドマスターって信じたくないもん。
「はい。エルシア様、私のことはリナと気軽にお呼びください。敬語もいりませんわ」
「ああ、わかったよリナ」
(おっと〜?心拍数が上がってるよエルシア?)
(はは、黙れエストール。こちとら知らない女性......ましてや綺麗な女性と話すのはなれてないんだ)
未だにエレインやヴィヴィアムさんと話すときも少し緊張する。いや、割とマジで。
まあ田舎育ちだし仕方ないか。エストールがそう言った時、フェイさんが話しかけてきた
「よし、エルシア!これからはこのわしにどんと頼るが良い!なんでも教えてあげるわい!」
「フェイ様。それはケイト様の役割かと」
「ああ、そうじゃったな。......うむ、そうじゃエルシアにエレイン。このギルドのことを少し話しておこう」
「「はい」」
フェイさんが話した内容をまとめると、このギルド、大妖精ギルドに入る冒険者は先ほど話していたケイトという女性だけだそうだ。
複眼です......
して、かなり大きいのでランクは高いだろうと思ったが、ほぼ最低のEだった。
何故、と思ったが、過去の活躍を気にくわない他のギルドが、父さんを失ったことでバッシングしたため、それによって下げられたのだろうと、フェイさんは推測していた。
あれ、つまり政治的ななんか?
そして、そのケイトさん?は今クエストをこなしている最中で帰るのは夜になるだろう、とのこと。
ちなみにオレの指導をするのがケイトさんになるが、年は二つしか違わないから気楽で良いと言っていた。
そうは言われましても......
エレインは付き合いのあるフェイさんが指導をするらしい。そして人手不足で部屋が有り余っているため、オレとエレインは今日から大妖精ギルドで生活をする。
ああ、フェイさんの年齢?......リナさんからこっそり聞いたけど、3桁は超えてるかもしれないらしい。妖精恐るべし
「まあ説明はこんなところじゃな。とりあえずゆっくりするが良い。使うなら稽古場もあるがな」
「稽古場......フェイさん、それは使っても大丈夫ですか?」
「ほう......やる気があるな?」
「まあ、いくら良い剣を持っていても持ち主がダメダメじゃいけませんからね」
そう言ったところ、フェイさんは快く稽古場に案内してくれた。稽古場は室内と室外があり、まるでアリーナのようになっていた。でも、基本的には室外での稽古がメインになるだろう
「それではエルシア。わしは用事があるので抜ける。用事があったら呼ぶからな」
「はい、わかりました」
フェイさんが出て行ったのを確認し、型の練習から始める
(さあさあ、騎士王の使った剣技、この私が教えてあげよう!)
始めて稽古を受けるが、案外エストールは世界で誰よりも頼りになる師匠かもしれない。
何故ならわかりやすく、魔法か何かで時々姿勢を正してくれるからだ。
そんなことを思い稽古を続けた
ーーーーー
「全く、面白い男じゃ」
ついあの少年の未来性を考え爪を噛んでしまう。アイツはそれほどまでに貪欲だった
「あの目は......あの目はアルとそっくり?いや、それ以上だ」
アルも果てしない何かを求めた瞳をしていた。
だがあの少年はそれ以上に澄んだ瞳で、私達には見れないだろうものを見ようとしていた。
まさか、ギルドに入った初日、ゆっくりしていろと言われても稽古をするとは
「エルシア......お主なら、ケイトの心の闇を救えると、そう信じておるぞ」
ぎこちないが確かに才能と未来を感じさせる剣技を扱う少年を遠目に、そう呟いた