事後と未来
気がつけば、再びあの白い空間にいた
「やあやあ、お疲れかい?」
「みりゃわかんだろ」
「それもそうだね〜」
声が聞こえる。この声は......
「で、何の用だ?エストール......?」
「ピンポーン!いやー、焦ったよ。私がほんの少し力を出したら眠っちゃったんだもん。これからはリミッターが必要かなって」
「リミッター......いる、かもしれないなぁ」
自分でも体が追いついていないのがわかる。
あのよくわからない魔法を使ったと言うことは覚えている。
しかし、そのあとがどうしても思い出せないのだ
「ま、リミッターなんてなくても、エルシアは私の能力の少しも使えていないけどね」
「え、あれで少しなのか......!?」
微かな記憶の中、最後に見たものが確かならばドラゴンスパイダーは跡形もなく消えていた。
それで少しも使えていないというなら、百になったらどうなるんだ......
「うーん、まあ素振りで世界を滅ぼせるんじゃない?」
「ああ、聞こえてるのか......」
すこし理不尽に感じるなあ。
オレはエストールの考えがわからないから
「レディの心を読むなんて、朴念仁のエルシアには不可能だよ〜」
「はあ?うっさいぞ?剣のくせにさ」
「あー! もう!!なんだって!?それは聞き捨てならないなぁ!!私はただの剣じゃなくて聖剣!!それに、人になることもできるんだぞ!」
「へぇーーー」
まあ適当に流す。
「今に見ておけよ〜、絶対惚れさせてやるからね!」
「剣に惚れることなんてないぞ。絶・対・に」
エストールはそれを聞いて、このこの!とか言いながら、自分の柄頭でオレの頭をどついてくる。
いや、普通に痛いんだけど
「いい!?私の柄を握るってことは、超絶美少女と手を繋いでるのと変わらないんだからね!!......ああ、もうそろそろお目覚めかな。ん、じゃあまたね!」
「ん、ああ。起きたらな」
そこでオレの意識は覚めた
ーーーーー
「ん......」
目がさめると、辺りは暗くベッドの上にいた。
そして腹部が重い。
ただ、なんとなくベッドの感触や匂いからして、一夜を過ごしたエレインの家であると思った
「......」
やがて目が慣れてくると、オレの腹部に乗っているのはラブリーマイエンジェルエレインだとわかった。
目のあたりがすこし赤いため、恐らく泣いていたのだろうか。
まさか、こんなオレの身を案じて泣くなんてな...
「はあ。あんだけかっこ付けた事言って、完璧には守れなかったな......」
そう言いながら、ラブ(略)エレインのすこし焦げてウェーブがかった髪を手ですく。
サラサラで手触りが良く、手入れがよくされているのがわかる
「そんな事はないわよ?」
「!?」
突然聞こえた声に、思わず叫んで跳ねそうになる。
が、それを堪えて振り返った
「ヴィ、ヴィヴィアムさん......」
「時間的にはおはようかしら。エルシアくん、体調はどう?」
「だいぶ良い感じです。ありがとうございます」
「そう、お礼ならエレインに言ってあげなさい。この子、エルシアさんは私が責任持って家まで運ぶんだって、私が来ても貴方から離れなかったのよ」
「そう、ですか......」
ついエレインを見つめてしまう。
あの可愛らしい瞳は今は閉じられ、美しい緑色の髪。それに反射した僅かな太陽の光が彼女を照らし、まるで精霊のようであり、美しく思ってしまう。
ああいや、そういえば精霊だったか
「はい、紅茶よ」
「ありがとうございます」
「ふふ......ねえエルシアくん、どう?エレインを嫁にするのは」
「ぶふっ!?」
突然の提案に、もらった紅茶を吐き出してしまう
ちょ、何を考えているんだこの人!?
いやでも、エレインはラブリーだしマイエンジェルだけど、それは......
「私ね、貴方とエレインは相性が良いと思うのよ。だって、貴方の横にある聖剣エストール......それは、泉の精霊が持つ能力を持ち主に宿す。そしてエレインの話を聞いた限りでは、貴方はエレインの能力を使用したわ」
それにと続け、ヴィヴィアムさんはエレインの頭を撫でてこう言った
「エレインが男の子と話すの、見たことがないもの」
「え、そうなんですか?」
「ええ。自慢じゃないけれど、私達泉の精霊は見た目が良いわ。それが故に、美人になることを見越してエレインは今まで何度も婚約されてきた。まあ、全て無視だったけどね」
「まあ、確かにそうですね。エレインは綺麗だと思います」
これはお世辞でも何でもない、自分の本心だ。
彼女は太陽のように笑い、月のように優雅だ。
ラ(略)
「ああ、それとねエルシアくん。最初に言ったと思うけれど、エストールは貴方にあげるわ。それは選ばれし者が持つ剣。私たちが持つのは宝の持ち腐れだしね」
自分が選ばれた者だなんて思えないが、ヴィヴィアムさんが言うのならそうなのだろう
「そう、ですか。ありがとうございます」
「それともう一つ。貴方、ギルドに所属してみる気はない?」
「ギルドにですか?」
確かにギルドに所属すれば、冒険者としてやれることは増えるだろう。
ただ、ど素人のオレを雇ってくれるギルドなんて......
「あるのよ、そのギルドが」
「あの......心読むの、やめてもらって良いですか?」
ごめんね。と舌を出し、ヴィヴィアムさんは続ける
「私の知り合いにね、あるギルドのマスターがいるの。その人......うーん、人っていうか妖精なんだけどね。その妖精が貴方をスカウトしたいって言うの」
「なるほど......」
「ただ、問題としては圧倒的にそのギルド......大妖精ギルドは人手不足なの。冒険者は一人、あとはマスターの大妖精とメイドだけよ」
「それは......なかなかに過疎ってますね」
通常ギルドというのは五人ほどの冒険者が最低レベルだ。
それが一人だけなんて聞いたこともないし見たこともない
「ちなみに、貴方の父親のアルも所属していたわよ」
「父さんが......?」
「ええ。そこのギルドはアルのお陰でなんとかなっていたけれど、アルが居なくなってからは右下りの状態なの」
つまり、ギルドの維持に関わってくるレベルで過疎なのか。
ブラックかな?
「だから、ギルドの今後や若い貴方のことを考え、貴方を無理には誘わないらしいわ。どうかしら?エレインは、エルシアくんが入るなら入るそうよ」
「ギルド......そこに入れば......」
確実にエストールと上を目指せる機会が増える。
それに、ヴィヴィアムさんが言うくらいの人だ。
さっきはブラックかと思ったが、悪いギルドではないだろう。
そこで出世すれば、騎士団の入団も夢じゃない......!
なら答えは......
「やります。そのギルド、入らせてください!!」
「そう、わかったわ。だそうよエレイン、起きたら?」
「あ、バレてた......」
とたんにエレインは起き上がり、目をこする
「おはようございます、エルシアさん。ギルドでの活動、一緒に頑張りましょう!」
「ああ。これからもよろしくな、エレイン」
そう言い、どちらからともなく手を出して握手する。
彼女の反応を見る限り、あの結婚云々の話は聞いていなかったようだ
「とりあえず、太陽が昇って明るくなってから詳細を話すわ。エルシアくんは無理をしたようだし、それまでは休憩していなさい」
「わかりました」
「......エレイン?貴方は自分の部屋よ」
「うぅ......わかりました」
いつの間に布団に入り込んでいたのか、エレインは拗ねた顔で布団から出る。
いやいや、流石に一緒に寝るのはダメでしょう。
オレは構わないけどねぇ!!
(惜しかったね〜エルシア)
(......離れてても話せるのか、エストール)
もちろん!と返事が来る。
はあ、まったくうるさい聖剣だ
「それじゃあエルシアさん。また後で」
「ああ、後でなエレイン」
エレインはそう言うと、一足先に部屋を出て行った。すると残ったヴィヴィアムさんがこうつぶやいた
「あの子、自分の好きなものは何がなんでも手に入れたがるみたいね。あまり浮気はしないであげてね?」
彼女はそう言い残すと、部屋を後にした
「......」
ヴィヴィアムさんの言葉を考える。
エレインがオレを欲しがっている......?
いやまあ、ラブリーマイエンジェルだし嬉しいとは言えるけど
(あーあらら、エレインはメンヘラだったのかな)
(なんだそれ?)
(良いの良いの。何千年も前の言葉だし。とにかく、エルシアは私のものだからね!)
(オレは物じゃないぞ。剣の癖に生意気だ)
するとエストールは何かを言ってくるが、全て聞き流し再び眠りについた。
まあ、エストールが扱いやすくて良かった。色々な意味で
ーーー
「......そう。アルの息子が、ね。」
「主の後輩になるんじゃ。色々と教えてやってくれるか?」
ギルドマスターである大妖精のフェイに言われる。
アルの息子で、私よりも二つ下。騎士になる夢を叶えるため、冒険者で経験を積もうとしている
「考えておくわ。そいつがアルの息子としての実力があるなら、ね」
「はっはっは、硬いなぁお主は。そんなんだから彼氏ができないのじゃぞ?」
「うるさいわね。彼氏いない歴イコール年齢の妖精の癖に」
それは無しじゃろ!と言いながら反論するフェイ。
確かに私は堅物だと思う。他の人にはただ興味がないだけ。ただ、アルの息子には興味はある。少なからずは
「エルシア・ロード......ね」
ついでに聞いた聖剣エストールを使うと言う情報も合わせ、考える。恐らく騎士王になる......いや、なるべくして生まれたであろう少年。
そのポテンシャルはあるのだろうか。
もしぬかっていたら、私が叩きなおす。そう覚悟を決め、その少年が来るまで特訓に励んだ
ーーーーー
「へー、あの忌々しい聖剣がか」
「も、申し訳ございません!私達の実力不足で......」
「いーよ。ドラゴンスパイダーごときに手こずる雑魚は」
「な、ぶはぁ!?」
男は、跪くもう一人の男の首を黄金の剣で跳ねた
「ったく、気にくわないなぁ〜。まあ、男だと思うけど、あわよくば僕のハーレムに加えようか」
「......」
そう言う男の周りにいる女性達は皆、無表情であった
「楽しみだ」