覚醒
「くそっ!動きが早すぎる!」
「凍てつくせ、氷の精霊よ!」
ドラゴンスパイダーとの戦闘は、予想通り苦戦を強いられている。
相手はこの洞窟という環境を駆使し、天井や壁を行き来し不規則な攻撃を仕掛けてくる。
いっぽうこちらはエレインの魔法しか遠距離攻撃はない
「ギィィィィ!!」
「今ですエルシアさん!」
「ああ!」
エレインの放った氷の中級魔法、氷塊波を受けた比較的小柄なドラゴンスパイダーは足を凍らせ動けなくなっていた。
そのすきに持てる技術を全て駆使して斬りかかる
「ぜゃあああああああああ!!」
多少雑な攻撃でも、ヴィヴィアムさんのお陰でダメージはかなり入った。
その証拠に、ドラゴンスパイダーは明らかに動きが鈍っていた
「スゥ......」
「!エレイン、避けろ!」
「ガァ!!」
「っ!」
突然のドラゴンスパイダーの炎により、多少反応が遅れたものの、エレインはしっかり避けた
「大丈夫か!?」
「髪が少し焦げたくらいです、心配いりません!」
すると彼女は続けた
「焼き尽くせ!炎の精霊よ!」
お返しと言わんばかりに放たれたのは、火球とは明らかに違う巨大な火の玉......いや、炎の塊だ。
それは今度はまっすぐ目標であるドラゴンスパイダーへ向かった
「オレも!!」
「ギィィィィヤァァァ!」
その炎の球を身を焦がしながら避けたドラゴンスパイダーだが、着地地点に剣を突き立てて滑り込む。
するとドラゴンスパイダーの弱点でもある柔らかい腹部を切り裂くことができた。
しかし、それでもドラゴンスパイダーは余裕のようだ
「やば!!」
エレインにターゲットしたのか、ドラゴンスパイダーはこちらに背を向ける
「んの野郎.....なっ!」
しかしそれは違った。ドラゴンスパイダーが蜘蛛の能力もあることを忘れていた
「ちっ!糸が!」
「エルシアさん!?」
エレインの声が聞こえたかと思った次の瞬間、腹部に衝撃が走った
「ぐふっ......!?」
動きづらい両手でを使い、なんとか剣で防いだが、そのまま壁に叩きつけられるような強い衝撃を背中に受けた。
気付けば、岩に刺さっている剣の側に自分は転がっていた
「エレ......イ......」
上手く声が出せない。
見れば左手は折れていた。
そして、呼吸をするたびにあばらが痛む。
恐らくだが、こちらも折れている
「う、嘘、エルシアさん!」
エレインが駆け寄ってくるが、ドラゴンスパイダーがそれを許すわけがなく糸で巻かれ壁に付けられる
「なんで、魔法が使えない......?」
エレインは魔法を発動させて糸を焼き切ろうとしたのだろうか。
しかし、魔法は発動しなかった。
まさか、魔封じの糸......?
「考えている暇はないんだ......今はこの状況をどうにかしなきゃ......!」
ふと、目の前の聖剣に目をやる。
まるで呼んでいるかのように、こちらを見つめていた。
剣に見つめられていた、というのもおかしな話だが
「......なんだよ、悪いか?騎士王になりたがっている奴がここで負けたらよ」
「......」
もちろん、喋るわけなどないし負ける気は無い。
しかし、その剣は輝いていた。まるで、自分を使えと言わんばかりに
「はあ、一か八か......!!」
後に巻かれた状態で匍匐前進し、岩に刺さった剣の柄を握った。
するとその瞬間......
景色が変わった
ーーーーー
「......お母さん......」
つい、母を呼んでしまう。
恐らく私は、ドラゴンスパイダーにこのまま食べられるのだろう。
そう思っていた
「え、エルシアさん......」
ふと、彼を見る。
彼は賭けに出たのか、あの聖剣に向かっていた。
そうか......まだ彼は諦めていないんだ。
なら、私だってここで諦めるわけにはいかない!!
「このっ!」
力を入れて身をよじる。
しかし糸はなかなか取れない。
だが、いきなり力が湧いてきた
「これは......!?」
光が見えたため、驚いてエルシアさんを見ると、彼はあの聖剣を握りしめ、こう叫んでいた
「泉の精霊よ!!」
その声に感化されるように、私の中で力が湧いてくる。
それと同時に、ドラゴンスパイダーは吹き飛ばされる
「っ、はああああああああ!!」
糸を破り、地に足を付ける
「エレイン!」
「エルシアさん......?」
彼の目は変わっていた。
金色から、泉の精霊である私達と同じように緑色に輝いていた。
「エレイン。力を貸してくれるか?」
「......もちろんです!」
「ありがとう。今なら......今ならなんでもできる気がするよ」
「ふふ、私もです。さあ、行きましょう!」
そう言い、ついエルシアさんの空いている左手を握る。
さっきは折れているように見えたが、どうやら平気なようだ
「よし、エレイン。行くぞ」
彼はそう言うと、私を左手で抱きしめた。
少しドキッとしたが、今はその時じゃない。
そして聖剣をドラゴンスパイダーに向け、こう言い放った
「泉の精霊よ、我が身に全てを授けたまえ」
まるで誰かに言わされているかのような不自然な詠みだったが、そこから私の体から力が抜けた
「これは......」
「エレイン。お前の力、ありがまく使わせてもらう」
「私の、力......?」
彼は頷き、私にはわからない未知の言語でつぶやき始めた。
その間に唸りながらドラゴンスパイダーが立ち上がり、こちらへ向かってくる
「すう......エス、トール!!」
彼がその剣の名前を口にした時、剣先から様々な魔法が現れた。
そしてそれらは一つに重なり、黄金に輝く
「これは......希望の......色......」
かつて騎士王が使ったと言う聖剣。
彼は人々の希望であった。
光属性の魔法の黄色ではない、黄金。
これは彼の、騎士王だけの魔法だろうか。
それはわからないが、ともかくドラゴンスパイダーを跡形もなく消すことは出来ていた
「エルシアさ......!?」
「すぅ......すぅ......」
彼は疲れ切っていたのか、眠っていた。
その辺にいた鳥さんに頼んででお母さんを呼び、それまでは彼の寝顔を楽しんだ
「エルシアさん......貴方は、騎士王に......いつか、アルトリウスさんを超える存在に......」
私と同い年で、まだまだ大人とは言えない顔立ちの彼。
いつか騎士王になる......いや、聖剣エストールを使ったんだ。
必ず騎士王になる彼のそばに、出来れば居続けたい。
そんな些細な願いと労いを込めて、彼のおでこにキスをした
ーーーーー
「ようやく来たね、エルシア!」
剣を握った瞬間、真っ白な空間になり、どこからともなくそんな声が聞こえてきた
「ん?あんたは......?」
「おいおーい、相棒のことを忘れちゃったかい?まあ、何千年も経つから仕方ないのかな?それに、生まれ変わりっぽいし」
「え?」
「いやいや、なんでもないよ!えーと、私が誰かだっけ?私は聖剣エストール!君を立派な騎士王にするためのサポート役だよ!」
「......うん。そう」
何言ってんだこの......剣?
「あー!今私のこと剣扱いしたでしょ!?まったく......いい?私はもうエルシアと一心同体、考えていること全てわかるんだからね?」
「なんか怖いです、それ」
「敬語なんて良いよ。堅物だなぁ」
「はあ......わかったよ。んで、どうすればあのドラゴンスパイダーを倒せる?」
ふと白い空間の壁に映し出されたドラゴンスパイダーを指差す
「簡単だよ、私達ならね。ほら、握って」
「?、ああ」
言われた通り、エストールの柄を握る。
すると身体中から力が溢れ出し、右手には特性の紋様が現れていた
「うーん、最高の気分だよ!!」
「......たしかに、そうだな......!」
折れていたであろう腕も、あばらも、全てが無かったことのように......いや、むしろ良くなっている気がする
「今回は私が手伝うからね!さあさあ、あの化け物くらい、あそこの泉の精霊と一緒なら倒せるよ!」
「一人じゃあ、無理か......?」
「んー、今のエルシアだとちょっと厳しいかな。まあ、私は泉の精霊の能力をエルシアに付与できるからね。多少は頑張れるよ」
「そうか......まあ良いや。これからさらに上を目指すだけだ!」
そう思い、エストールをさらに強く握る
「あん......うん、いいねぇ。いい感じ!さあ、あのゲテモノさっさとやっつけよう!」
......なんか、女性の声をしているエストールが出しちゃいけない声をしてた気がするが、まあ良い。
エストールがそう言うと、白い空間に穴が開いた
「いよし......行くぞ、エレイン!!」
そこから先は、疲労であまり記憶が無かった。
ただ一つ、見えたものがある。
それは、誰かはわからない男の人の、はるか前にある後ろ姿だ