精霊魔法使いたい!
ブラッドベアと戦った後、ギルドに帰って起きていたエレインに怪我の治療をしてもらった。
まあ、消毒して魔法で傷を直してもらっただけだから大変ではないらしいけど。
そして今は、フェイさんにハーミルフォレストで起きたことを報告している。
「オレが交戦したのは、ブラックベアです。ただ、異常でした」
「異常とな?」
「はい。本来、ブラックベアは非常に単純な攻撃を仕掛けてきますが、オレが交戦したブラックベアは違いました。フェイントを織り交ぜ、スピードもパワーも異次元。また、知性があるのか勝負の中で数歩先の行動を取られる事もありました」
「ふむ。エルシアの数歩先を行く行動か......」
「はい」
それは興味深い、と呟くフェイさん。
顎に手を当て、なにかを考えている。
「......他に気づいたことはないか?」
「他に......そういえば、吠えませんでした」
「吠えなかった?それは本当か?」
「はい。しかも、いきなりそこに現れたかのように、足音もなく背後から襲われました」
「......テイマーの仕業かのう」
「テイマー、ですか?」
「うむ」
何だそれは。聞いたこともないけど......
ていうか、よくよく考えたらオレ、騎士になる気だったから他の職業とか調べてないな。
職業にあったかな?
「上位職でな、素質のあるものしかなれないんじゃ。基本的にはモンスターを味方にして敵を倒す。また、テイマーは魔法によって離れたところから自分のモンスターを呼び出せるし、モンスターに知恵を与える。足音もなく背後に現れ、通常ではあり得ない動きをするのであれば、ワシにはこれ以外説明がつかん」
「なるほど......それは一理ありますね」
「うむ。もしそうであればこれは罪じゃ。一応冒険協会に報告しておこう。なにか資料があれば......」
「あ、ありますよ」
とエレインが言う。
資料ってことは、多分オレを襲ったブラックベアの体の一部とかだろうけど、あるのか?
「これ、エルシアさんの血で傷口に張り付いていました。多分ブラックベアの体毛です」
「おお、ありがたい。これで調査も捗るじゃろう」
「流石だな、エレイン。まさかこれに気づくなんて」
「えへへ、たまたまですよ。消毒していたら見つけただけです」
エレインはそれをフェイさんの持ってきた小袋に入れた。
だがそれは、本当に注意深く見なければわからないほどの小さな体毛であり、片手で数えるほどしか無かった。
それはエレインがオレの事を思って丁寧に手当てをしてくれていた証拠である。
「ああ、可愛いなあエレイン。ラブリーマイエンジェルだよ......」
「か、かわっ!?」
あれ、なんかエレイン沸騰してる?
だ、大丈夫か!?
「......お主、息を吐くように女を口説くのをやめたらどうじゃ?」
「え?」
「はあ、気づいてないなら構わんが......刺されるなよ」
「ん??」
刺される?ああ、虫にとか?
確かに森に半袖で入ったから、虫に刺されて毒を貰ったら大変だしな。やっぱりセクハラ妖精でもギルドマスターでしたか、フェイさん!!
「なんか馬鹿にされてる気がするし勘違いしてるじゃろうが......まあ良い。他には?」
「あ、精霊魔法使えるようになりました」
「なぬ!?」
「本当ですか!?」
「は、はい」
何でそんなにがっつく?
あれ、もしかして言わない方が良かったやつなのかな、これ。
(精霊魔法を使えるのなんて結構一握りだしね。数が多くて加護を貰いやすいエレメンタル達の精霊魔法でも、使えるのは五十人に一人くらいかな?)
(ほえー)
(純粋な心を持つって、結構難しいんだよ?)
(え、良く加護を受けれたな、オレ......)
(確かに女の子を口説きまくるのは良くないけれど、それがなきゃエルシアじゃないしね)
(なんだその言い草)
ちょっと、いやかなり傷ついたやん。
まるで人のことを女たらしみたいに......オレはそんなことしてないのにさ......
(人たらしかな)
「そうか、精霊魔法が......ちなみに、どの精霊魔法じゃ?」
「森の精霊魔法です。なんか、森の精霊王様?から貰いました」
「も、森の精霊ですか......」
「?」
「森の精霊は人間に対しての敵意がかなり強いからのう。まあ、それは森を汚した人間が悪いとしか言えんが......しかし良かったな。かなり役立つであろう。よし、エレイン。エルシアに精霊魔法を教えてやってくれ」
「はい!」
「あ、エレインも精霊魔法は使えるのか?」
「エレメンタルの精霊魔法はかなり使えます。でも、それ以外はまだ......って感じです」
「へえ」
エレメンタルってことは、火の精霊、水の精霊、風の精霊、地の精霊、だっけな?
そんな数の精霊達から加護を受けるなんて、やはり天使か!この世に舞い降りた天使は、彼女だったか!!
「......ともかく、今日は休め。いきなりの戦闘で疲労も溜まっているじゃろうし、幸いやらなければならないクエストもない。食費などもお主らのおかげでしばらくは持つであろうからのう」
フェイさんは何かを考えながらそう言う。
昨日リナから聞いた話、本来なら煙たがられているため、貰えないであろう協会からの支援金。
それがオレとエレインが入り、色々と整ったのと、協会内の友好者のおかげで貰えるようになったらしい。
つまりギルドの収入は増えた。
もっとも、リナが言うには、大罪が何とかで協会から貰えなくなったが、本来協会側が借金してるらしい。恐るべし。
「今日は暇人か......」
「なら、部屋でもできる精霊魔法の練習をしますか?」
「良いのか?エレイン」
「はい。エルシアさんさえ良ければ......」
上目遣いでこちらを見ながらそう言うエレイン。
その瞳は少し潤んでいて、とても......可愛い。
いやもうねー、最近可愛いって言葉はこの子のためにあるんじゃないかとさえ思えてきたんだよ。うん。
(なーに言ってるの、早く返事してあげな?)
おお、いけないいけない。
ありがとな、エストール。
「ああ、喜んで。よろしく頼むよ」
「はい!!」
そしてオレとエレインは、オレとケイトさんの部屋に来た。
ケイトさんはどうやら、アリーナで鍛錬しているらしい。
エレインはもう既に朝に鍛錬は済ませたとか。
「大事なのは、精霊さん達と交信することです。魔力を練るイメージではなく、精霊さん、自分と、その力の流れをイメージするんです」
「あー、イメージイメージ.......」
難しいな。
受け渡されてるってことだよな......
(伝言ゲームみたいな感じだね)
(伝言ゲーム?)
(うん。前の人が言った言葉を次の人に伝えるの。簡単に見えるけど、同じ考えとかがないと中々最初と最後で同じにならないんだよ)
(つまりあれか、気持ちと気持ちを一つにってやつ?)
(うん。そんな感じ〜)
森の精霊達と、気持ちを一つにするのか......
ううむ、一つに一つに、気持ちを一つ......
.......うん、イメージを変えよう。手を繋ごう。
「......どう、ですか?」
「ちょっと待って」
あと一つ、あと一つでいける気がしてきた......
そうだ、森の精霊王様をイメージするんだ。
どんな感じかな、エストール。
(うーんと、緑色の髪)
緑色の髪......
(黒色の瞳)
黒色の瞳......
(美形)
美形......
(ちょうど良いサイズ)
ちょうど良いサイズ......?
(手に収まるくらい)
て、手に収まるくらい......?いや、何が?
(胸)
む、胸が......
それを意識した途端、目を瞑っていたためくらいはずの世界に光が灯された。
「はあ、全く精霊王様は強引ですね......」
目を開けると、エレインといた部屋ではなく、エストールと始めて会話した時のような白い空間にいた。そこにはドレスのようなものに身を包んだ一人の女性がいた。
「.......緑の髪、黒色の瞳、美形、そして......」
「......?」
「手に収まるくらいの胸......!!」
ま、まさかこの方が!!
「森の精霊王様!?」
「はい、そうです。ところで精霊王様は?」
「え?あー、エストール?」
オレがそう呼ぶと、何ー?と言いながら、目の前の空間を引き裂いてエストールが現れた。
随分カッコいい登場の仕方じゃないかこんちくしょう。
「精霊王様?何故エルシア様に胸の話を?」
「や、そ、それはぁ......」
なんか、勿論剣の見た目なんだけどさ......
すっげえ焦ってるように見える。しかも刀身に冷や汗みたいなの出てきてるし......
「精霊王様?貴女、いつになったら胸の話をお辞めになるのですか?」
あれヤバくない?
だってエストールの事をめちゃめちゃ強く握ってるし......心なしかバキッて音も聞こえたよ?
「ちょ、痛い痛い!折れる!!」
「そんな簡単に折れないですよね?ああ、へし折って中身を出すのも良いですね」
「か、勘弁勘弁!エルシア!!」
うおーい、珍しくエストールがやられてる。
このまま見てるのも楽しいけど、拗ねたらあとあと面倒くさそうだから助けるか。
「そこまでにしてください、森の精霊王様。このままじゃオレのパートナーが使い物にならなくなってしまいます」
「......そう、ですわね。わかりました」
森の精霊王様はエストール。話した。
するとエストールはすぐさまオレの背中に隠れ、ブツブツなにかを呟いていた。
「コワイコワイコワイコワイコワイコワイ......」
......しばらくは、優しくしてあげよう。うん。
オレはそう決心し、森の精霊王様に話しかける。
「あの、どうしてここに?」
「どうしてって、エルシア様が呼んだのでは?」
「え?あー、確かに心当たりが......」
「精霊魔法、使おうとしてくださったんですね。とても嬉しいです」
「あ、どうも......」
さっきまでの鬼のような雰囲気はどこにいったのか、ものすごく美しい女性が目の前に居た。
ていうか、森の精霊って耳が尖ってるのか。可愛いかも。
(森の精霊っていうか、実際は全員尖ってるけどね。ただ隠してるだけで)
(へえ、じゃあエレインも尖ってるのか。でもまあ、人間と同じ場所で暮らすのには隠してた方が良いしな。フェイさんも妖精だけど尖ってたし......あとで触らせてもらお)
エストールが話さないのが気になるが、多分まだ怖いんだろう。その気持ちわからんでもない。
オレも昔、母さんに怒られたその日は、怖くて顔も見れなかったもん。いや、今もだけどね。
「では、早速。失礼いたします」
「え?あ」
オレが考え事をしていると、森の精霊王様は手を握ってきた。
その手はとてもスベスベで柔らかく、握り心地......いや、握られ心地?が良かった。
「も、森の精霊王様......」
「どうぞ、気軽にネアとお呼びください」
「ね、ネアさん」
「さん?」
「う、ネア......」
「はい、なんでしょう♪」
精霊ってみんなこんなに強引なのか?
みんなって言うか、まだエレインでしか経験ないけどさ......
「な、何故手を?」
「これが力を送るのには楽ですからね。もっと送る力の量を多くするならば接吻などがありますが......」
「ゔぇ」
「ふふ、私は構いませんよ?」
「そりゃマズイですよ......」
「冗談です♪」
いや冗談かーい!
ちょっと期待したやん!期待返せよ!!
この人、案外愉快だ。愉快犯だ。エレインとかと違っていたずら好きな猫タイプだ!!
「まあ、それは置いておいて......どうですか?私たちの力、感じますか?」
「力......」
確かに、握られている右手から淡い力を感じる。
それはだんだん、腕へ、そしてほかの部位へと伝わっていった。
「左手を地面に置いてください。そして、そこから力を送り込み、木を生み出してみてください」
「木を生み出す、か」
それをイメージして地面に手をついた。
オレの左手の少し先の地面から木が出てきた。
うわ、すごいなこれ。
「では、次に手をかざして、その空間から木を放つイメージをしてみてください」
「放つ」
ビュン!という音とともに、鋭い矢のようなものが左手から放たれた。
おお、なんかカッコ良い。
「......やはり、エルシア様は精霊魔法がお得意のようですね」
「そうですか?」
「はい。すぐに出来る人なんて、そうそういません。それも想像力豊かなエルシア様と、精霊との調和性が高いからですね」
「いえ、そんな。ネアの教え方が良いだけですよ」
「ふふ、そうですか。にしても、なんだか呼び捨てに敬語は合いませんね......敬語もなしで構いません」
「わかったよ、ネア」
「はい」
自然に仲良くなれた、のか?
もしそうならば、話をうまく進めてくれたネアには感謝しかできない。
「では、私は失礼します。使う時は、私を頭の中でイメージしてください。必ず力をお貸しします」
「ああ、ありがとうネア。それじゃあ」
オレがそう言うと、ネアとともに白い空間は光に包まれ、また暗闇に戻った。
そして目を開けると、驚いた様子のエレインがいた。
「え、エルシアさん。これ」
エレインは鏡をオレに向けた。
そこには、完全なる黒髪ではなく、一部だけがネアと同じ緑色になっているオレがいた。
あ、結構緑髪似合うかも。オレ。
「すごいですエルシアさん!まさか、精霊さんとの調和が体に現れるくらいなんて!!」
「そんなにすごいことなのか?」
「はい!エルシアさんと森の精霊さんとの信頼関係が、ものすごく強いものになっている証拠です!!」
そう言われると悪い気はしない、むしろ嬉しい。
ネアのおかげだな、やっぱり。
(だいぶ気に入られてるみたいだからね)
(あ、復活したからエストール)
(うん。今日は一緒に寝よ?)
(......わかった)
優しくしないと、ってさっき決心したからな。
なんか、計画通りとか言う声が聞こえた気がしなくもないけど気にしないでおこう。うん。
「じゃあ、精霊魔法の方は......」
「ああ。エレインの助言のおかげで、感覚を掴めたよ。ありがとな」
「はい!良かったです」
うわあ......眩しい笑顔。
そして、守りたいこの笑顔......にしてもあれだな、一応証明のためになんか使おう。
「......これだな」
「?」
とりあえず近くにあった木製の椅子。
少し木にヒビが入っていて、もしも強い衝撃が加われば折れるのではないかと思ったのと、お手ごろだったから。
それに触れ、ネアと手をつなぎ、そこから力を送り込むイメージをする。
「すごい......木が......」
「いよし、成功」
木はだんだんと若返り、硬さとしなやかさを感じる、上質なものに変わった。
とりあえずはこんなものか。
「ま、まだまだ試したいことはあるけど」
楽しみだなぁ〜