帰るまでがクエストです
「疲れた......」
「お疲れ様。まあ、初めてにしては良くやったと思うわ」
「ですね」
あの後、特にハプニングもなくダンジョンを出た。
あ、ちゃんとファイトブルの美味しい部位は貰ったし、必要ない部位は買い取ってもらった。
なんと十数体で6王国銅貨!!
いやー、これだけで一人なら2日は三食食べられるだろう。まあ、ギルドとしては少ないけど。
でも、しっかりクエスト報酬も貰った。
2銀貨くらいかな?これでもかなりの大金。
うちのギルドなら一週間にも満たないけど
(いまいち王国貨幣の相場がわからんなぁ)
(まあケッコー複雑だからな。騎士王が作ったんだけど、王国貨幣のさらに下には王国紙幣があるし)
(ええ?)
王国紙幣は、10、50、100、500アーセンだ。
1000アーセンが1銅貨、1銀貨は10000アーセン。
1金貨は100000アーセンだな
(じゃあ結構貰ったんだね、報酬とか)
(田舎の......っていうか、アンリー村のレストランなら、パンとスープにサラダのセットが130アーセンくらいで食べられるからな。個人でクエストを受けたら大儲けだよ)
(その分リスクは高いでしょ?)
(死ぬ確率もあるからな)
特にファイトブルを何体もなんて、まず厳しいだろう。
ケイトさんは涼しい顔をしていたけれど、なかなか大変だ。特に群の長、お前ら容赦なさすぎ。
これを一人でケイトさんはやってたのか......
「あら、どうしたの?そんなに見つめて」
「え、あ、すみません。ちょっと見惚れてました」
「っ、そ、そう」
強い女性は綺麗だな〜(優雅的な意味で)
ていうかなんでわざわざ紙幣の方は50とか500とか微妙な数字にしたんだ、騎士王
(円とおんなじにしようとしたんじゃない?)
(えん?なにその単位)
(あー、昔の話)
(昔はそんな単位だったのか)
(今と違って統一されてないけどね。国ごとによって違ったんだよ!例えばー、ドルって言う単位もあるし)
(ややこしいな、それ。そう考えると世界共通のアーセンは良いものだ)
(にしても食事安くない?)
(リベリアウト王国は食べ物の生産が豊からしいからな。お隣のフラッグスって国はここで食べる三倍くらいするし)
ただ、リベリアウト王国にだって高いものはある。例えば鉄とかを使った物。
リベリアウト王国は鉱物を生み出すモンスターの数があまりいないので、鉱物があまり取れないのだ。
そのため、フラッグスに比べたらものっそい高い。
でも、少ない鉄で良い武器を作るため、剣とかの出来は凄く良い。それが値段にも影響してるだろうけど。
そう一人で考察していると、エレインに話しかけられた
「エルシアさん、そう言えばさっき言ってましたけど」
「なんだ?」
「ベルーカンプ湖に行ったことが、あるんですか?」
「ああ、もちろん。けど、オレが一人で行った時と、誰かと行った時とで全然違うんだよな」
「違う?」と、エレインは首をかしげる。
か、かわ......いい
「あ、ああ。なんていうか、一人で行った時は決まっていつも霧が凄くて」
「じゃあやっぱり、エルシアさんは泉の精霊と相性が良いですね!!」
「ん?」
「あら、知らないのエルシアくん?ベルーカンプ湖の伝説」
なんじゃそれ......そういう顔をしていると、ケイトさんが説明してくれた。それをわかりやすくすると
かつてベルーカンプ湖は、今とは違い霧が立ち込めるとてもとても静かな湖だった。
しかしそこに住む泉の精霊達は、静かな湖であるが故に人々に気付かれず、いつしか人々が湖を汚すようになった。
それを嫌った湖の精霊は、湖に生き物を生み出し、今のような賑やかな湖にすることで人々が湖を汚すのをやめさせた。
と言うものだ。
たしかにベルーカンプ湖は人気の崇拝スポットになってるし、魚釣りに来る人もゴミを残さず細心の注意を払っていた
「で、普通はそんなに霧の深いベルーカンプ湖は見れないってわけよ」
「つまり、エルシアさんはそこの泉の精霊に贔屓されているわけです!」
「なんとも言えない感じだな、それ。じゃあ......今度、挨拶にでも行こうかな」
近々アンリー村で伝統的な大きな祭りが行われる。
その時に必ず挨拶だ
「何人かは、エルシアさんについてきてますけどね」
エレインは苦笑いでそう言う。
や、やめてくれよ!怖いじゃんなんか!!
(エルシアはお化け苦手なのね......)
(当たり前じゃん!)
これだけは絶対に怖い。
怒った母さん......には負けるけど
そんな事を話しながらギルドへ戻った
ーーーーー
「クエストご苦労!報告を」
「ええ。まず、予定通りファイトブルを討伐し、報酬と食べられる部位を貰ってきたわ」
ケイトさんはそう言い、貨幣の入った袋と、ファイトブルの肉の入った袋をリナに渡した
「あら、こんなに......!今晩はお肉料理にしましょうね♪」
こちらは塩漬け、こちらは......と、リナは楽しそうにファイトブルの肉を使ったレシピを考えている
「あ、報酬もしっかりありましたよ」
......こんな時でもしっかりと受付嬢兼ギルドの管理というの仕事は果たしているあたり、流石だ
「うむ。しっかりと帰ってきてくれたようだな。クエストは帰るまでがクエストじゃ。よし、ならば今夜はパーティーじゃ!」
「パーティーですか?」
「そうよエレイン。フェイはクエスト毎にパーティーと称して大食いするわ」
「まあまあ、良いではないか。アルも楽しんでいたしのう」
「あ......」
フェイさんが父さんの名前を出すと、ケイトさんは何かを思い出したようで、一瞬悲しい顔をした
「......そうじゃ、エルシア」
「はい」
「お主に会いたがっているものが居るんじゃが......」
「オレにですか?」
誰だろうか。知り合い?かな
「うむ。まあ、向こうの予定が合わないらしいがな」
「わかりました」
忙しい人なのだろうか
「さて!では冒険者諸君。良くやってくれた。今日は休みたまえ」
「「はい」」
「......ええ」
部屋に戻り、最近始めた日記を書く。
今日ははじめてのダンジョンへ行った。
二人との連携はうまくいったし、ケイトさんのお陰で自分の課題も見つかった。
途中、見たくない顔を見ることになったけれど、自分は変わった。そう思えるようになった。
仲間と、家以外の帰る場所。まさか騎士団に入団できずに冒険者を始めて、それらを得られるようになるなんて思わなかった。
今は未来のことを考えず、ただ今を楽しむ。
そして、エストールに使わされるのではなく、いつか絶対エストールを使ってやる。
「......こんなもんかな」
(私を使うなんて......いやん♪)
日記見えるんかい
「キモいぞ。折るか?」
(ひど!?ねえ、なんでそんな毒舌?優しくしてくれても良くない!?)
「調子に乗らせないためだ。うるさいし」
(ひどい扱いされてもうるさくするよ!!)
「どうぞご勝手に」
そう言い、ベッドに横になる。
すると、力が抜けて疲労感が襲ってくる。
まるでベッドに体が沈み込んでいくような、そんな感覚を覚える
(ぶー......いいもん、私も寝る!)
エストールがそう言った瞬間、エストールの柄に埋め込まれている宝石が輝き、浮き始めた
「なんじゃこりゃ......」
(エルシアの体を動かせるんだもん、これくらいできるよ)
するとエストールはオレのベッドに入ってきた
(んー、あったかい!ねえねえ、これからは毎日こうやって一緒に寝ようよ!!鞘に入ってても、案外寒いんだからね?)
「そうか......それは悪かった。そうだな、布団用意しておくよ」
(......人の話聞いてた?まったく、こんな超絶美少女と一緒に眠れる機会なのにさ?)
「剣じゃん」
(とーにーかーく!これからは私も寝るから!じゃあおやすみ!!)
少しするとエストールから寝息が聞こえてきた。
といっても、オレの脳内に直接
「いや、リンク切ってくれよ......」
うるさいなと思ったが、今はそれが心地よかった。
そして、気がついたら眠りについていた