ダンジョンに行く
「んー、非常食良し、ナイフ良し、寝袋良し、防寒着良し、ランプ良し、パスポート良し......完璧かな」
今日はいよいよ初クエスト。
今回はダンジョンと呼ばれるモンスターが多く出る場所に行く。
集める素材は主に防具などに使われることの多い、ファイトブルだ。
名前の通り、好戦的であるがために皮がしなやかで強靭らしく、初級者から上級者の冒険者、騎士などの戦闘系職業の人に好まれている。
そのためかなりの量がいるらしく報酬も中々だし、ファイトブル自体が個体数が多く、害獣認定されているため心置きなく倒せる
「うむ。出発前に全てを確認するとは感心じゃぞエルシア」
「フェイさん。いえ、当然ですよ。特にパスポートを忘れたらみんなに迷惑がかかりますから」
「そうじゃな」
「ところで、数年前までパスポートなんて無かったみたいですけど、どうして導入されたんですか?」
「まあ、それはパスポートと言ってもただの紙ではない。ほれ、特性の現れる手に当ててみい」
フェイさんに言われ、右手にパスポートを当てる。
すると紙が青色に光り、名前やらなんやらのかなり細かい情報が紙に浮き出た
「すごい......」
「そうじゃろう?それは本人証明の役割も果たしているんじゃ。もしお主のパスポートをワシの手に当てると」
フェイさんがオレのパスポートを右手に当てた。
だが赤い色の光が現れただけで何も起こらなかった
「こうなる。本当はただの紙じゃったが、数年前ほどに盗賊の被害にあったものがいてな。襲ったものになりすまして色々とやっとったんじゃ」
「なるほど、それでこういう魔法を導入したんですね」
「うむ。ま、ワシらのギルドには関係ない話じゃったがな」
人数少なかったし......そう言って心なしかしょんぼりしているフェイさんを慰めていると、エレインとケイトさんがやってきた
「おはよう。フェイ、エルシアくん」
「おはようございます。フェイさん、エルシアさん」
「うむ、おはよう」
「おはようございます」
「準備が遅かったが、どうしたんじゃ?」
フェイさんが聞くと、何故かエレインは顔を赤くした。
そのうちにケイトさんがフェイさんに耳打ちした
「......下着が少しキツくなってたらしいわ。それで、調整を手伝ったのよ。まったく......そういうのはリナに頼んで欲しいわ」
「す、すみませんケイトさん。リナさん忙しそうで......」
たしかにリナは今朝、忙しそうだった。
初クエストということで成功を祈ってたり、帰ってきたときの食事を準備してたりその他諸々
「嫌ってわけじゃないのよエレイン?ただ、私は初めてで勝手がわからなくてね」
「確かにお主は下着の調整など必要ないからな。まないたぁぁぁぁぁぁっ!?」
「余計なお世話よ。エレイン、このクエストの報酬で下着を買いに行きましょうか。私の知り合いに腕の立つ洋裁が居るから、紹介するわ」
フェイさんの頭をぶん殴り、手とフェイさんの頭から煙を出してそう言うケイトさんだが、エレインは少しも驚いた様子はなく、はい!と返事をした
(さすがエレイン。適応能力高いね〜)
(天然なだけかもな)
(あはは!確かに〜)
さて、とフェイさんが話し始める
「今日はエルシア、エレイン。お主らの初クエストじゃ。クエストの内容と相手からして、難しくはないじゃろう。じゃが、くれぐれも油断はせぬように。わかったか?」
「「はい!」」
「私も肝に命じておこっと」
「よし。さあ、見送りじゃ」
フェイさんに言われ、ギルドの出口に向かう。
するとそこには、馬車が用意されていた
「これは?」
「それはギルドに支給される、魔法の馬車よ。まあ、主な使い道としてはダンジョンまでの送迎や他のギルドに対しての伝達。いわゆる足ね」
「そんなものまで支給されるんですね」
「んー、一応国としては活発なギルドが増えれば色々良いことがあるしね」
他国との競争力も上がるし。
そうケイトさんは言い終わると馬車に乗り込んだ。
魔法の馬車と言っても、馬が特別らしく馬車は至って普通だった。
いや、初めて乗ったんだけど
「気をつけてくださいませ、ケイト様。エルシア様。エレイン様」
「ええ」
「もちろん、リナ」
「はい!」
「さあ、しっかりと成果を握ってくるんじゃぞ」
リナは微笑み、フェイさんはそう言って笑う。
すると馬はいきなり動き出した。
フェイさん達はオレ達が見えなくなるまで腕を振ってくれた
(馬に魔法でルートを仕込んでるのかぁ)
(そういう仕組みでダンジョンまで行けるのか)
(みたいだね。それに、ここのギルドは馬に休息を与えてるみたいだよ。ちゃーんと馬が活き活きとしてる)
(ホワイトギルドだからな)
移住食を提供してくれて、ギルドのマスターともこんなに距離が近いギルドはそうそうないと思う
(ギルドによっては捨て駒みたいな扱いをするらしいからね)
(ああ。特に有名どころにはそういうのが多いらしいぞ。風の噂で、国立のギルドのお偉いさんが夢見る冒険少女にしてはならないことしたって話もあるし)
(あれね、ギルドに入れる代わりに体を〜ってやつ?)
(そんな感じだ)
馬車での移動の間、目を閉じてエストールと会話する。
馬車、というかは箱のような感じだ。
完全密室でスライド式の窓が付いている。
時間が気になったので聞いてみる
「ケイトさん、ちょっと」
「なにかしら?」
「ダンジョンまではどれくらいで着くんですか?」
「そうね......ハーミルフォレストからダンジョンのあるミケイル草原までは大体2時間だから、それくらいかしら」
「ありがとうございます」
気にしないで、そう言って微笑むケイトさん
(ダンジョンってどんな感じなの?)
(聞いた話だと、洞窟みたいな感じらしい。でも、そこには空もある)
(へー、不思議だね。世界事変の影響で出来たのかな)
(らしいぞ)
国の......というか、世界の研究では大規模な生態系の変化と、魔力の誕生によってモンスターが生まれた。
そしてダンジョンとは、いわばモンスターの生命の源とも言える魔力の密集地帯であるとのこと
「エレインはダンジョンは初めてか?」
ふと気になり声をかける
「いえ。何年か前ですけど、お母さんのお仕事のお手伝いでオーバングマウンテンのダンジョンに行きました」
「オーバングマウンテン......ということは、そこにいる鉱龍から素材を取るためかしら?」
「はい。私の初めての戦闘もそこでした」
「エレインは経験があるのか」
「その様子だと、エルシアくんは無いようね」
「ダンジョンなんてものがあること自体知りませんでしたし」
「勿体無いわね」
「そうですよエルシアさん!」
二人がものすごく熱心に語っている。
「ダンジョンはね、入り口からとても幻想的なの」
「そうですね!結界みたいになっていて、そこを潜ると......」
「「幻想的!!」」
そこまで言うと、二人は笑顔でハイタッチした。
ケイトさんとエレインは、タイプこそ違うが中々噛み合うらしく仲がとても良いみたいだ
「どんな感じ?」
「空の色が違ったりするわね」
「見たこともない生き物や植物もいますよ」
「出方も綺麗ね。何もないところにいきなり現れるんだもの」
「うーん、いまいち想像がつかない......」
どういうところなんだろうか
「見た方が早いわ。なんて言うのかしら......魔法で作った空間みたいなのよ」
「そうですね。確かにどこかこの世界とは違うような感じがします」
つまりあれか、異次元?
(そーだと思うよ。ま、これから行けるんだし良いじゃん!)
そうだな
ーーーーー
あれから時間が経ち、ようやくダンジョンについた。
と言うか、まるで神殿のようなところだ
「失礼、大妖精ギルドの者よ」
二人いる門番的な男の人に、ケイトさんが話しかける
「確認いたします。......はい、それではパスポートを」
その声とともに、ケイトさんはパスポートを手にかざす。
そして、オレ達も続いて手にかざす。
ダンジョンに入るのはパスポートさえあれば誰でもokらしい
「はい、それではゲートを繋ぎます」
その瞬間、魔法陣が床に現れた。
魔法陣は次第に光を放ち、真上の位置に渦が現れた
「よく見ておきなさいエルシアくん。これがダンジョンの入り口よ」
「すごい......」
それはまるで別の空間と空間をつないでいるようだった。
というか、そうだ
「これが......」
「どうぞ、お気をつけください」
男の人の声に促され、その渦の中心に現れた草原に向かって飛びこむ。
すると眩い光とともに、次の瞬間に、草原にいた。
辺りを見回すと、かなりの人数の冒険者達が狩りをしていた
「すごい......すごい!!」
「ふふ、やっぱり未だに気分が高揚するわ」
「んーっ!!この空気、久しぶりです......」
(うっひょーー!!すっごいねぇ!!)
そこはどこか今までの世界とは違う雰囲気であり、様々な生物がいた。
空の色は、綺麗なエメラルドグリーンだ
「ていうか、出るときはどうするんですか?」
「簡単よ、これに飛び込むの」
ケイトさんが指差したものは、青白い光を放つ魔法陣だった。
どうやらこれに飛び込むと、先ほどの場所へと飛ばされるらしい。
魔法陣は最初からそこにあったものらしく、破壊は不可能とのこと。
つまり閉じ込められることはない
「そういえば、ダンジョンに魅せられてダンジョンで生活している人もいるわね」
「そういう人たちはどう生活してるんですか?」
「大体は、自給自足です。ダンジョンの環境下で取れる美味しい作物を育てたり、モンスターを狩ったり」
「へえ、すごいな。でもオレは住もうとは思わないかな」
「ま、家とかを作らなきゃいけないからね」
なるほど......中々ハードそうな生活を送っているのか
まあ、とりあえず狩りますか!!