秘密
「やっぱエルシアくんは中距離でエレインちゃんは遠距離が良いわね」
「私もその方が色々とやりやすいです」
「ですね〜」
現在、会議室的な場所でオレとエレインにケイトさんは明日の初クエストに向けて三人で最終調整をしている。
具体的には、フォーメーションだったりクエストで出現が予想されるモンスターごとの対応の確認だ。それを、ケイトさん主体で進めている
「まあ、エルシアくんとエレインちゃんの経験を積むために、私はガツガツ行かないわ」
「じゃあ、ケイトさんとサポートを?」
「ええ。予想外の強敵だったりが現れた時は先ほどのようにするけれど、大体はエルシアくんが前。その後ろに私とエレインちゃんが並ぶわ。そうすれば、魔法を使うエレインちゃんを守りつつエルシアくんの援護もできるしね」
「確かに。そういえばエレインは強化系の魔法ほ使えるのか?」
「はい。付与もできます」
「へぇ、すごいな!」
魔法の付与はかなり難易度がいる。
何故なら常に集中する必要性があり、少しでも集中力を切らして送る魔力の量を間違えれば、受けていた人は爆発だ
(ゲームみたいにはいかないねぇ〜)
(ゲーム?なんそれ)
(昔あった娯楽の一つだよ)
(へえ)
(やり過ぎて廃人になる人もいたみたいだけど)
(危ないな)
今のが危ないよ。魔法あるし
そうエストールが言い終わったころ、ケイトさんが話しかけてくる
「エルシアくんは魔法を使えないのかしら?身体強化とかは使えると便利よ」
「やったことないのでわかりません......そもそも、やり方もわかりませんし」
「身体強化は魔力を身体に纏わせることで筋力だったり視力、聴力を底上げする魔法です。便利なものだと、治癒の魔法も身体強化の一つで、傷の治癒力を上げているんですよ」
「さすがエレインちゃん、良く知ってるわね。ちなみに、エルシアくんの目指している騎士団の団長、クワイット・アーサーが持っている聖剣は持ち主を自己治癒するそうよ。だから不死身だとかなんとか」
「なんか、理不尽ですね。その聖剣」
「エストールも理不尽よ?」
マジですか?そう聞き返すと、ケイトさんは足を組みこう言った
「ええ。たしか、所有者に精霊王の力を与えるらしいわ。それはつまり、神のようなものよ」
「たしかに私達もそう聞いてます。聖霊王はエレメンタルと言う、四大精霊を生み出した根源であり、全精霊の統治者だそうです。......あれ、じゃあエストールを持っているエルシアさんは私のマスター......」
なんかエレインが、ダメです!とか言って体クネクネさせてるけど良いや。
てかエストール、今の話は?
(まあ大体は本当かな〜。一つ間違いがあるとすれば、精霊王の力を与えるんじゃなくて、私が精霊王なんだよ)
(え、どゆこと?)
(んー、なんて言うのかな。まあ、剣としてのエストール......私が生まれた話をするよ)
(むかーしむかし、あるところに精霊王と呼ばれる一人の超絶美少女がおりました。その超絶美少女は、部下である優秀な泉の精霊に一つの命令をしました。
「永久に不滅であり、一つの希望を作れ」
するとその泉の精霊は、何も言わずに一本の剣を作りました。その剣は、万物を切断し、決して折れることのない剣でした。それを見た超絶美少女はこう考えました。
「この剣とともに在らば、私の願いは叶うだろう」
そして超絶美少女は、部下である泉の精霊にあとを任せ、反対を何とか押し切りその剣に霊魂として宿りました。
そしてその剣は超絶美少女の名前を取りエストールと呼ばれるようになり、数千年後、かの騎士王に王たる力を与えました)
おしまいおしまい、と言うエストール。
いやいや、話が色々とヤバイ
(エストールって元々は精霊王だったのか)
(そだよー。でもってね、本当に擬人化できるんだよ?しかもー、超絶美少女!!)
(だから超絶美少女の部分を強調してたのか。じゃあ、騎士王と話したことはあるのか?)
(ないよー)
(えんでだよ)
(良い人だなーって思って、話したかったけどさ。まだ自我を表すやり方がわからなくて)
......待てよ、まさかエストールの願いって......
(うんうん、エルシアが思ってる通り。ズバリ、寿命のない剣になって運命の人を見つけることだ!!)
(いや、精霊王なら寿命無限でしょ。剣になる意味)
(......あ)
(はぁ......)
(で、でもでも!剣に入れば役に立てるし!!現にそれで騎士王くんのサポートしたしぃ!!)
(いやいや、超絶美少女だったら普通の状態の方が良いんじゃ?)
(それだとさー、体目当ての男しかやってこないし運命感ないじゃん?)
(まあ......で、騎士王はどんな人だった?)
(んー、なんていうか普通?取り柄も何もない感じ。でもね、底抜けの優しさと覚悟があってすごい良い人だったよ)
(そっか。騎士王は何歳で世界を救ったんだ?)
(世界を救ったのは、30くらいだったっけ。それで、1600歳くらいかな。私に言ったんだよ。もう、オレは十分生きさせてもらった。世界は昔に比べ圧倒的に変わったし、過去を知るものも少なくなった。そして、ありがたいことに一生できないと思った妻や子供とも巡り会わせてくれた。だが、もう良い。眠らせてくれ、ってね)
(......それで、どうしたんだ?)
(騎士王くんは私を岩に刺して、私を封印した。その瞬間に、私の能力を失った騎士王くんは、笑顔のまま目の前で灰になったよ。でもね、ちゃんと騎士王くんの魂の目印はつけといたから、大丈夫だよ。会えたから)
(不老不死も苦労するんだな)
(みたいだねー。愛する奥さんや子供が先に死ぬのは、やっぱり堪えたみたいだよ。ひ孫が成人したくらいからは姿を見せないようにしてたけど)
(まあ、だろうな。ところで、騎士王の魂につけた目印って、どんなんなんだ?)
(教えなーい)
(えー、なんだよケチだな)
まあいっか、そう思い、再びケイトさん達との会話に戻る。
エストールはまたも最後に何か言っていたが、集中していなくて聞き取れなかった
(黒髪にロードの苗字だよ、エルシア......今度は私がずっとずっと支えるから......私は死なないから、だから大丈夫だよ)
ただ、どこか声色は優しさに満ち溢れていた。
そんな雰囲気の声に驚き、聞き返すことはできなかった
「そう言えば騎士団団長のエクスカリバーとエストールは姉妹剣らしいわね」
「あ、確かにお母さんも言ってました。でも、エクスカリバーはエストールの代わりに作られた剣だから、エストールの劣化だって」
「へえ。じゃあエルシアくんは剣だけなら最強......最強の冒険素人か!!」
「ちょ、やめてくださいよそれ」
エクスカリバーの姉妹か
(私が姉だよ。でもアーサーの家系ほんと嫌い!エクスカリバーが可愛そうだよ!!)
(何かあったのか?)
(アイツら、騎士王くんのこと馬鹿にするんだもん!地位も何もないただの人間だった、それを私たちが騎士王になるまで育てた。とかさ!!自分らこそ何千年も前の王の子孫だからって、過去の栄光にすがってるだけのくせにさ!!本当に腹立つよ!!!)
(そりゃあ確かにひどいな......)
騎士王がいなければアーサー家も、っていうか世界が滅んでいたらしいし
(それにさ!勝手に神話を改変してるんだよ!?アーサー家は騎士王くんが立ち向かったとき、何もしてくれなかったのにさ!!)
(どういうことだ?)
(学校で教えられる神話でね。騎士王を助け、騎士王に国の未来を任された......なんて馬鹿みたいな歴史にしたからだよ!!ほんっと滅びろ!!!しかもそれで騎士団なんか作ってさ!!!実質この国の王だよ!!!!)
(つまり、嘘?)
(嘘だよ嘘!アイツらマジでクズだよ!?みんなそれを信じちゃってるもん!!そう教育されてるから!神が残した化け物相手に一目散に逃げていった癖にさ!!騎士王くんはそれのせいで片腕を失ったというのに!!)
(ふむ。つまり嘘の神話を広めたのか。じゃあ、オレの家に伝わっている神話は本物か?)
(うん。あれこそ本物で事実だよ。この目で見たもん!!)
いつにも増して感情をあらわにするな、エストール。
それだけ騎士王のことが好きだったのか
(そうだよ!ねぇエルシアぁ〜。エクスカリバーぶんどって二刀流にしようよぉ。それで騎士団の団長になろ?)
(いやいや、無理でしょ。世間が許さん)
(騎士王の子孫で全てを知ってる、とか言えば?)
(嘘は良くないぞ)
(嘘じゃないんだけどね)
(ん?)
(いいのいいの!)
エストールがそう言うと、エレインとケイトさんが何か不可思議な顔をしていた
「え?私が学校とかで教えられた神話だと、アーサー家が騎士王を助けたらしいわよ?」
「そんなの聞いたこともありませんよ?私の行っていた精霊学校では神話にアーサー家なんて出てきませんでしたし......」
「うーん。アルから教えてもらった話でも出てきてなかったわね......」
どうやら嘘の神話は人間にしか広まっていないのか。
じゃあ精霊達が教えてあげれば良いのに
(アーサーの作った条約で、この国の精霊は人間の教育とかには関われないしね。そもそも、精霊自体の数が少ないから)
(なんていうか、つくづくクズだな。アーサー家)
でしょでしょ!そう言うエストール。
取り敢えず、ケイトさんに話しかける
「オレは住んでた場所で差別されてて学校に行けませんでしたけど、父さんに教えてもらった神話でも出てきませんでしたよ。まあ、どっちが正しいとかなんて良いじゃないですか」
「そうね。なんならアーサー家が嘘の可能性もあるし」
意外と鋭いなこの人。
しかしその後ケイトさんとエレインさんが
「ところで住んでた場所で差別されてたって本当?」
「私も気になりました。それ」
「ま、まああれだよ。貴族が多かったし、農家のうちが気に食わなかったんじゃない?同世代に石ころ投げられたりしただけだから」
(あーあ、トリガー引いた)
「よしエレイン。貴方攻撃系の魔法は使える?流星とかの複合魔法」
「はい。何発でも打てますけど」
「ならやることは一つね」
ちなみに流星とは、土魔法で岩石を作り出し火魔法とかなんやらを加えて、まるで流れ星のようにえげつない大きさの岩をえげつない威力で飛ばし、えげつない破壊力をもつ上級魔法だ。それ一つで町を潰せるとか。
それを何発もとかエレインすご......っていや、呑気に考えてる場合じゃなくて!
「「倍返し♪」」
「許してあげてくださいお二方!!」
その後、優しいだとかなんとかでべた褒めプラス抱き枕の刑にあった
(鼻の下伸びてるよエルシア)
(黙れ)
(いや♪)