第19幕What color is your soul?その10
いや、ちょっと待て。
私は中山に命を狙われてるんじゃないのか?
それに何だ、急にプロポーズって。
飛びすぎだろ! いろいろと。
「あ、あのぉ……ちょっと言ってることが理解出来ないんですけど」
「そうか……そうだよね。まずは説明からだよね! そう……あれは説明会のあった時だった……」
「いや…そういう事じゃなくて……」
私の反論も虚しく、中山はまさに恋焦がれる乙女のような。ミュージカルか演劇か何かで語るかのように、先程の言及について述べ始めた。
桜も散り、蝉が泣き始めた初夏のこと。
僕はいつものように、アイドル研究部に顔を出し語り合っていたんだ。
アイドルは僕にとって太陽。
進む道を照らし、立ち止まった時には暖めて勇気をくれる存在。
彼女たちが必死に頑張っている姿、ステージ上で楽しそうに踊っているのを見ると、僕も頑張らなきゃって思えるんだ。
僕は同じように、そんなアイドルが好きな人を集めて部活を作った。
アイドル研究部は僕を含めて5人。
僕以外は皆1.2年生だったけど、そんなのを気にせずに自分の好きなアイドルのことを語り合える、とっても素敵な場所だったんだ……。
そんなある日のこと。
僕達はすごい些細な。それでも、決して理解し合えないことで喧嘩をしてしまった。
「香音ちゃんの凛々しさ。それでいて少しドジだけど、一生懸命頑張っているところ。
やはりBlossomのなかで1番可愛いですよ〜」
5人の中で1番背の小さく、少し中性的な1年生はアイドル系雑誌を開き僕ら4人に見せびらかす。
「いやいや、イリナちゃんの大人っぽさには適わないでござるよ〜」
1年生から雑誌を奪い、速攻でページを捲って見せつける。
「何を言うんだね、美久ちゃんの可愛さには敵わんよ……」
「お前らの目は節穴でゲス! 奏ちゃんの 歌声はダイヤモンドよりも美しいでゲス! 」
部員達4人はそれぞれ推しのアイドルについて醜い争いを繰り広げていた。
好きなものを語る、これは僕の求めていたユートピアであり、夢だ。
でも僕は自らその場所を壊してしまう。
それは人にとっての武器であり、枷でもある諸刃の剣だった。
「みんな落ち着いて! 」
僕が机を叩き立ち上がると皆黙り込んだ。
ピリピリとしだした空気の中、僕は続ける。
「……僕は香音ちゃんも、イリナちゃんも、美久ちゃんも奏でちゃんも大好きさ!
皆だってそうだろ? 」
「あぁ……確かに」
「その通りでござる」
「言い返す言葉もないでゲス」
「僕もだよ……」
4人は熱を冷まし、自らの愚かさを見つめ直したようだった。
しかし、それで終わればよかったのだが僕はつい余計なことを言ってしまう。
「てもまあ、1番可愛いのは桜ちゃんだけどね!! 」
「「「「…………ふざけんな! 」」」」
そう言って5人は狭い部室の中で掴みかかり、時には殴り合い気が付けば全員部室から出て家に帰る。
それ以来、僕達5人が部室へと足を運ぶことは無くなった。
のちのち、僕は気が付く。僕のとった行動は良くないもの。人間として最低なことをしてしまったと。
そのせいで、僕にとってのユートピアを壊してしまったのだと。
そんなある日、運命の時か訪れた。
いつも通り、広場の端のベンチに座って物思いにふけている。
僕はこれからどうすればいいのか。でも何をすればいいのか分からずに日暮れまでぼーっとする日々の中に光見つけたんだ。
二階の窓をふと見ると、二人の女子生徒が何やら真剣な顔で話しているのを発見し話の内容を聞こえるはずもなくただ見つめていた。
そのうち、1人がその場から涙目で飛び出しどこかへと向かい走り出す。
その場に残った1人は、心配そうな顔で彼女を見送り見えなくなるとほんの一瞬。
瞬く間にとても幸せそうな顔をした。
僕には何が幸せなのかは分からなかったが、その姿はどんな有名な絵画より。
美しいと讃えられる彫刻よりも美しかった。
僕は一体どれだけそうしていたのだろう。
日が暮れ、見回りの先生に帰れと言われるまでずっと誰もいない校舎を見つめていた。
何かを奪い去られたけど、何か大切なものを貰ったような。
無気力と充実感に溢れていた。
そして、僕は決めたんだ。
あの時の幸せそうな彼女を。
あの彼女からどうすればそんなに幸せになれるのか。
そして、全てを僕のものにしたいって……。
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そろそろ中盤……




