無色のパラノイア第17幕〜What color is your soul?その8〜
午後の授業も終わり放課後。
私、花崎 楓は下校の準備をしていた。
(そういえば、朝の奴気になるな……)
教科書類を鞄に入れながら、今日の行動のプランを考えていた。
「……ぃ。お〜い、楓。聞こえてる〜? 」
「あ、う、うん! 何? 」
やはり少し気持ち的にも追い込みすぎだな。
全く聞こえていなかった。
流石にあんな奴に私は殺せないだろう。
まあ、念には念を入れた方がいいかもしれないが……。
「楓は今日の放課後用事ある? 皆とカラオケ行こうと思うんだけど 」
このまま友人達と遊びに行った方が安全か。
その方が攻撃される心配も殆どない訳だし……。
いや、このまま追跡される方が面倒だ。
速いうちに手を打った方が。相手に余裕を与えない方がリスクは少ないだろう。
「ごめん、今日先生から進路で呼び出されてて……」
「あ〜、大変だね。分かった! 次行こうね〜」
「う、うん! 」
いつも絡んでいるグループとはそこで別れを告げ、私はとある場所に向かった……。
──────
私はとある教室の前に来た。
そこは他の教室よりも扉が西洋風で、外からでもその教室が高貴な雰囲気を醸し出しているのが分かる。
きっとここで間違えたら、私は2度とこのゲームで勝つことは無いだろう。
いや、次に殺されるのは真っ先に私だろう。
それぐらいの大勝負。ここで負ける訳にはいかない。悟られてはいけない。何を考えているかを感ずかれてはならない。
私は扉をノックし、扉の奥からの声を待った。
「……入れ」
太く、警戒している声を聞き私の集中力が高まった。
「こ、こんにちは会長。少しばかりお話があるのですが……」
「お前が一体何の用だ……いや。
皆、すまないが席を外してくれないか。重要な案件のようだ」
そう会長が言うと、すぐ様生徒会役員全員が速やかに退出した。
そう、私が会いに来たのは他でもない会長。工藤だ。
扉が閉まり、全員が教室から離れていくのを確認すると私は会長の方に向いた。
工藤の目は完全に敵を見る目だった。
いや、もしかしたら元々そういう人種なのかもしれない。
自分の能力の高さを何よりも過信し、他の人をまるで人形のように操作する。
誰も信用しようとしない。そんな男の目だ。
「実は……今、ストーカーに狙われてて……。
どうすればいいのか分からなくて……」
取り敢えず【普段通り】を表現してみる。
「…………お前はそんな奴ではないだろう? 【お前】で語らなければ、これ以上交わす言葉は無い。むしろ、俺たちは敵同士だろ?
こうして話を聞いてやると言ってるんだ。さっさと要件を言ってみろ」
はあ、まあそうだろうな。
私はため息をし、工藤の言う【お前】で話すことにした。
「ああ、そうだとも。 それじゃあ早速要件を言わせてもらう。会長さんは中山という参加者の情報を持っているはずだよな?
その情報を提供してもらいたい」
「冗談にも程があるだろう? 第一、それを話して俺になんの得があるんだ? 」
予想通りだ。こいつはやはり参加者全員の情報を持っている。
「それはそうだな。まあ勿論こっちにも掛け金はあるさ。とある情報を提供する」
「とあるというのは? 」
「……私の能力についてだ」
「ほう……」
よし、やはり食いついてきた。当然だが、他の参加者の能力までは知らないようだ。
いや、もしくは私のを知らないか……。
どちらにせよ掛け金にはなる。
「良いだろう。それでなら話に乗って……」
「いいや、それじゃまだフェアじゃないな。
追加で、越川、澤島、櫻井の情報提供を求める」
「……なぜお前は最も不利になる自分の【能力】を掛け金に選んだ? 俺がお前を狙ってるかもしれないんだぞ? なんならその情報を利用して他の奴らと取引するかもしれないぞ? 」
一生工藤にはきっと分からないだろう。
【私】という人間性をね。
「……なあ、会長さん。ゲームってやるか? 」
「それが一体どうした? 」
「いや、さっきの問いの答えをね。ハンデがあった方が燃えるだろ? 」
工藤はそれを聞いて完全に呆れていた。
「やはり、俺はお前という奴が心底気に入らないらしい。きっと前世に何かあったのかもしれんな」
「ふふ、まさかあんたがそこまでロマンチックな奴とは思わなかったよ」
どうやら、上手く交渉は成立したようだ。
第一関門は突破したが、問題はここから。
次はいろいろと、このガルム(ゲーム)について調べなきゃいけないこともあるしな……。
それにそろそろあのルールの適用される頃合だ……。
「さて、まずはお前の能力を実際にここで使って俺に教えろ。嘘は決して付けないようにな」
相変わらず面倒臭い奴だ。
まあ、警戒するのは分かるけどな。
「安心しろよ堅物会長さん。取引に嘘はねーよ。
私の能力は参加者以外の意思や思考を誘導出来る能力だ。そうだな……、さっきの役員を連れてきてくれないか? それで証明してやるよ。
最初に入ってきた1人に能力を使ってすぐに珈琲を入れるよう誘導させる」
私は少し自嘲気味に掛け金を支払った。
正直、この代償は相当でかい。知られたらいくらでも対処出来、きっとすぐ詰むだろう。
だが、これからのゲームには必要な掛け金。
こんなに面白いもの、面白くなきゃつまらないしな!
「良いだろう……。次に俺だな。中山、越川、澤島、櫻井の情報はメールで送る。
内容は生年月日血液型、経歴や成績その他教師からの評価等でいいか? 」
「ああ、充分だ」
「……最後に聞かせろ。俺がこの後、お前を殺したりメールを送らずに裏切るという可能性は考えなかったのか? 」
「それはお前が【堅物】なくせして脆いからな。それに信じてるだけだよ」
何人もの歪んだ奴らを見てきたからこそ、私は言える。こいつは脆すぎるんだ。
トランプタワーは凄いと思っても、崩れたらただの紙切れでしかない……。
そんな会話をして数十秒、生徒会役員達が入り口の扉からノックし入ってきた。
「会長、遅くなりました」
私はその扉から帰りつう、一番最初に入ってきたポニーテールの女子生徒に少し触れた。
「あ、珈琲入れますね」
彼女は速やかに珈琲を入れる準備をし始め、私はその場から立ち去った。
(さて、まずはあのストーカー野郎と決着をつけてやるか……)
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