無色のパラノイア第12幕〜What color is your soul?〜その3
朝から特に変化のない日常を送った。
信司は何も変わらずに接してくれている。
でも、何も変わらない。なんてことはあるのだろうか。
人はいつでも不変を求めてきた。
誰だって新しいものは怖いし、今のままで満足している。そんなものはただの言い訳だ。
それがとても楽な道。
誰が好んで凸凹でぬかるんでいる道を進もうとするのだろうか。
少なくとも僕は選ぼうとはしてこなかった。
でも、かつて偉人と呼ばれた人達はきっとそういった道を進んできたのだろう。
だから周りから尊位されている。僕だって憧れているさ。【ヒーロー】ってものに。
彼らはいつも、弱い人たちを助けてみんなを守る存在。悪と呼ばれる人をその拳に正義を握りしめて討ち滅ぼす。
僕だって男さ。そんな正義の味方、ヒーローに憧れてる。
でもそれは正しいことなのだろうか。
悪と呼ばれる人にだって自分なりの正義を掲げている。それにお互い反するから正義と悪に分かれているわけで、事実上その二つに違いなん無いのではないだろうか。
お互いの正義をかがけた所で、結局のところその人の人望なりのステータスによって善悪の区別がついてしまう。
いつからそんな世界になったのだろうか。
なぜこんなことを言い出したのかというと、これから【僕】という存在を語る上でとても大切な事だから。とでも言っておくべきなのだろうか。
しかし、本質的なことにはあまり触れてはいないのかもしれない。ただ、きっかけが必要だった。
何事もなく授業もすぎ、気がつけば昼休みになっていた。
いつも通り食堂に行こうとした時、教室のドアが開いて澄んだ可愛らしい声が聞こえた。
「あ、輝君! 一緒にお昼食べない? 」
全く関係ないと思っていたが、まさか自分に用事があって呼びに来る人が。しかも指名される日が来るとは夢にも思わなかった。
少し感動を覚えつつも、扉の方に目を向けると澤島さんがいたのだ。
そう、彼女が。学校でも一二を争うほどの美人の澤島さん。
周りからの(なんであいつが? )のような目線とざわめきが感動を通り越し、僕は下を向いて素早く教室を出ようと速歩きで向かっている時。
「おうおう、輝も知らないうちに大きくなったんだな……。俺を置いていきやがって。頑張ってこいよっ! 」
と割と大きな声で煽ってくる奴を無視して教室を出た。
「ごめんね、ちょっと話があって……。
お昼、輝君の分も用意してあるから庭に行かない? 」
いつの間にか下の名前で呼ばれている。
まあ加藤なんて沢山いるからな。
それにしてもだ。今俺の分も昼を用意してるって?
つまり一緒にお弁当を食べようと?
と言ったようなウブな高校生らしい反応を心の中でしつつ、半ば冷静を保とうと意識しながら
「あ、うん。僕でよければぜひ。」
これが春というやつなのだろうか?
周りの視線も気になるが、むしろこの状況は誇ってもいいのだろうか?
ふと彼女の方を見ると、前を歩いているからあまり良く見えないが真剣な雰囲気が伝わってきて僕の熱は徐々に常温に戻っていった。
伊都芽沢高校の庭はかなり広い。木や庭園に囲まれ下には綺麗に整備されている芝生が。
真ん中には噴水もあり、まさにリア充スポットともいえる。
そのおかげか僕には全く縁がない場所でもあった。
空いているベンチに二人きりで座ると。
「さあ、食べて食べて! 私、結構料理には自信あるんだ! 」
彼女は手に持った弁当箱を一つ僕に渡した。
ウサギの包を外すと、ピンクの柄の弁当箱があり、その蓋を開ける。
そこには光り輝く白米は勿論、彩り鮮やかなおかずが詰めてあり、お世辞抜きにしても空腹に誘われるほど美味しそうだった。
箸を渡され、僕は宝石箱に手を出した。
味はとても良かった。手作りとは思えないほどの出来で、栄養バランスも整っており澤島さんはきっと将来良いお嫁さんになるのではと思ってしまった。
僕達は食べなから、どうでもいい会話をキャッチボールしながら時間を費やしていく。
不覚にも、この時間が永遠に続いたら。そう思ってる自分もいるのは否定出来なかった……。
「ご馳走様でした。とても美味しかったよ」
「そう言ってくれると作ったかいがあったよ! 」
段々昼休み終了の時間が近づいてきている。
時間が過ぎるのは早いものだ。
僕も片付けを手伝い、お互いに紙コップにお茶を入れ一息ついたとき、澤島さんが緊張を少し纏わせながら切り出した。
「輝君は運命って信じる? 」
「まあ、あるとは思うかな 」
僕がそう言うと、彼女は少し頬を緩めた気がした。
「実はね、私この前輝君と会ったのが初めてじゃないんだよ? 」
全く記憶が無いというのが本音だ。
しかし、ここで言うのは邪推なので反応を待つことにする。
「私ね、中学の頃友達に騙されたんだ。
私はとても内気で、それでも頑張って周りに合わせてたんだ。女の子って結構そういう縄張り意識強いからね。神経質にならないと生きていけなかった。
ある時、とある男子に告られたんだ。
私、恋とかに興味はその時無かったから断ったの。でもね、そこまでは良かった……」
彼女の顔は恐怖や怒りをチラつかせながらも話を続けた。
「その男子、それなりに人気があってさ。その男子のことを好きな子がたまたま女子の縄張りのトップに位置する子で、私が【告られた】って情報を聞いちゃったわけ。
それ以来、私は彼女達のいじめの対象になったんだ。
最初は些細なものだよ。物がなくなる程度で済んだんだから。でもそれがエスカレートしていって、そのうちいじめの範疇を超えるようになってきた。
良くやられたのは洗面所に水を貯めて溺れさせられたことかな。
そんな日々が続いたある日、私は高校生くらいかな。集団に連れ去られて襲われかけたの。
もう諦めてた。運命なんだって。そんな時、私の前に王子様が現れたんだ……。
とても喧嘩は強そうにも見えなかったし、ボコボコにされてたけど、私には救世主にしか見えなかった……」
(ああ、そうか。あの娘が澤島さんだったのか……)
あの時は僕にとって、とても大きすぎる選択だった……。
そして僕はもう1度、あの時の記憶を辿り始めた。
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