無色のパラノイア第9幕〜水は刺せない〜
殺し合いゲーム。ガルムが終わった次の日のこと。
勝者として指輪を貰った瀬戸さんは学校に来なかった。
いや、来なかったというのは語弊がある。
澤島さんから聞いた話だと、朝走って学校に来たとう目撃証言はあったらしいが、朝のHRのときには既にいなくなっていたらしい。
一体何があったのだろうか。
ガルムの記憶はないはず。何かの願いを叶えた後だとしたらなぜ学校にはいないのか?
急いでた理由は?
様々な疑問が浮かんでくるも、何せ情報量が足りなすぎる。目撃した本人から話を聞きたいところだが……
それにしても、なんでこんなにも冷静なのだろうか。既に人が死んでいる。僕が殺されるかもしれないのに。
周りの人の反応も少しばかり薄い気もする。
まあそれはさておき。なぜこいつはここまで平常運行なのだろうか。
僕が考えてる間もずっと信司は横で喋り続けている。
朝学校へ登校するときも、昨日のことがあって休むなり勝手に学校へ行ってるものかと思った。
その予想は呆気なく裏切られ、神崎さんといつも通りの様子で家のインターフォンを押してきた。
……と、まあ昨日のことが嘘のような、まるでいつもの日常に戻っていくような気がした。
いや、信司は少し無理をしている。
何としてでも、【普段】の日常を失わないようにしているのだ。
もしかしたら、何も考えていないだけかもしれないが……。
そんなことを考えてる間にチャイムが鳴った。
僕達は席に戻り、いつも通りの日常に見せかけた偽物の日々がまた始まった。
僕達はいつもの楽しかった日常を求めていた。
何気ない平穏を。素っ気ない会話を。
でも僕に、そんなものは不要だった。
理不尽な社会に埋もれながらも、、、
そんなものがあったから、僕は色と色とが混ざり合って真っ黒になったのだから……
────────────
「ねえ、櫻井さん。瀬戸さんの件なんだけど何か知ってることはない?
走って櫻井さんのこと呼びに来たって聞いたんだけど……」
今日で聞かれたのは三回目だ。なんでこうも……
いや、触れるのはやめよう。
取り敢えず私の言うことは一つで決まってる。
「私は何も知らないよ。会ったのは事実だけど、すぐどこかに。ごめんね、何も分からないんだ」
決して本当のことは言わない。いや、言えるわけがない。
借りに言ってしまったら、私がどうなるか分からない。
勿論、聞いてきたこいつらなら何か隠していることには察しているはず。
だからこそ、さっきあったことは黙らなければならない。これで当分は殺される可能性は低くなるはず。
私は何としてでも、時が来るまで死んではいけない。そう心の奥底で思っている気がするからだ。
「……あ、そっか。ありがとう!また何かあったら教えてね 」
そうして、澤島は察したようで帰っていった。
きっと会長辺りは独自に情報を集めて何があったかはすぐ知るはずだ。
丁度外では部活をやってたから、飛び降りるところを見ている人がいるはず。
そう、会話の内容までは分からないが【飛び降りた】という事実は残っている。
そこにさえ注目してくれればいい。【私】が関わっていたということから考えを外してくれれば……。
澤島が見えなくなった後、私は人目のつかない場所……図書室にある確認のために向かった。
図書室は大図書室と図書室と2つに別れている。
私達が普段授業を受けているのは巨大な本校舎。そこに大図書室がある。殆どの生徒と職員はそこを使っている。
私が使っているのは別の校舎。西棟の二階にあるごく普通規模の図書室だ。
そんな大図書室があり、本校舎から離れているため使う人なんか雰囲気を楽しみたい人か勉強する人しかこない。
まだ朝のHR前、人なんかいるわけがない。
本校舎から西棟へと移動する通路で、一人の参加者が私に向かって歩いてくる。花崎さんだっただろうか。
見るからに目立つのが好きではなく、それでも必要な不便のない程度で周りと友好を気付いていく。そういったタイプに見えた。
しかし、そんなものは嘘であると錯覚させるような表情と雰囲気だった。
好奇心と恐怖、愛情などなんとも形容し難い狂っている表情で私はゾッとした。
その時彼女は少し遠目から私に気付いたようですぐにいつもに戻っていた。
そして私達は少しずつその距離を縮めていく。
花崎さんに殺気のようなものは伺えない。
それでもさっきの表情、あの違和感がどうしても拭えない。
私は腰の後ろに隠してある刃物に右手で手をかけ少しずつ歩いて近づいていく。
花崎さんは下を向いていてよく顔が見えない。
距離は約5メートル。少しだけ冷汗をかいてきた。
あとほんの数秒で殺し合いが始まるかもしれない。その緊張感と恐怖に飲まれこの一瞬が何時間にも感じた。
(やばい、殺される殺されるころされるコロサレル……ッ!! )
まだ花崎さんに動きはない。
残り3メートル。まさに一歩で届く距離。
彼女の狂気が伝わってきた。心臓の音が、鼓動が響く。
その時、花崎さんが顔を上げた。
しかし、その表情は満面の笑顔で、先程までの緊張も嘘のようだった。
花崎さんは笑顔のまま、まるで子供に言い聞かせるがごとくこう言った。
「安心して櫻井さん。そんなに警戒しなくても殺す予定はないよ 」
花崎さんは私には゛現時点で゛興味はないと言われ多少安心してしまった自分に嫌気が差した。
(私は確かに自分の意志で行動したことは少ない。だけど、これでも選択してるつもりだ。
周りに合わせながらも的確な選択をするのも立派な゛選択 ゛だと思う。
誰かの都合で生かされる。そんなの生きてるとは言わないよ! )
私は決意を固め、早足で図書室へと向かった……。
西棟に入って階段を登って少し行ったところに図書室があった。
扉を開けると案の定、誰もいなく奥の部屋に職員さんが一人いて本を読んでいる。
私は完全に視線を遮断するため奥の隅の方へ歩き出す。
念の為周囲を警戒しながら、辞書などが大量に置いてある場所へ。
(さてと……)
そして私は参加者用のスマートフォンを開き、自分の能力欄をタップする。
すると【代償を支払いますか?】の文字が。
そこの下には代償の内容が書いてある。
1...他人の影を踏むことは出来ない
2...18時まで学校から出る事はできない
の2つだった。自分の能力なだけに随分と代償は少なく感じる。そもそも自分の情報ですら買わなければならないのは少しおかしいと思う。
それでも私はこれしか知る方法がない。
迷いを飲みこみ重い指を動かして【承諾する】のボタンを押した。
カクニン シタ.......... ナンバー08 サクライ ミキ
ジョウホウ ヲ テイキョウ シマス
(不気味だよな……)
画面には少し不気味な赤色で文字が浮かび、無骨な女性?のような声が聞こえた。
まるで機械のよう......いや、どちらかといえば人間の声をもとにした機械の声といった感じだろうか。
ダイショウ ハツドウ マデ アト 120 ビョウ
声が聞こえたその時、一件のメールが入った。きっと【私の能力】についてだろう。
メールを開きその文章を確認しようと進める。
届いた文章を開くと
ナンバー08 サクライ ミキ
アナタ ノ ノウリョク ハ 【※※※ノ※※】
※※ ※ノ ※※ ヲ ユメ ノ ナカ デ タイケン デキル
(……ッ!?)
まさに戦慄したとしか言えない。
もしもこの能力が他の人に知られてしまったら……。
しかし、ここで代償を支払う時間が訪れてしまった。
シッコウ カイシ シマス
「……?!」
無機質な声が聞こえた途端、私の身体に電撃が走り足から崩れてしまった。
きっと代償が始まったのだろう。
意識をはっきりさせ、手を前に出したりして身体に異変がないか確認する。
どうやら特に目立った変化はなさそうだ。
(話の通りなら人影は踏めない、18時以降は学校外に出れない……か)
そろそろ朝のHRが始まるので私はここから退散して教室に向かうことにする。
(でも、なんで私の能力は教えられた能力と全く別なんだろう。私の能力は観察眼のはず。
なのに、それとは全く関係のない能力……。
この能力のことをきっと瀬戸さんは知ってたんだ。
彼女は代償を支払ってた。もしかしたら私の能力を調べたのかも。なんでよりによって私だったの?
あなたは何を知ったの!?
そして、私はこれからどうすればいいの……?
ねえ、教えてよ……?!)
私は動揺を隠すように西校舎を飛び出した。