表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/84

人生の終わりに...

 聖都ウィルドレルとの戦が終わり、あれから長い時が経った。


 私は旦那様と長年過ごした自室で淹れて貰ったお茶を飲みながら昔の出来事をしたためた私の日記を読み返し、懐かしい思い出を振り返っている。


 お兄様、エリュセル・バハムーレは数年前に非常に満足そうな表情で召喚獣であり最愛の妻...ヴァランティーヌ、そしてヴァルファーレとその子供達に囲まれながらこの世を去りました。


 私の旦那様...ワイナール・セルベ・クラルフェランも去年、国を立て直した稀代の英雄王として国民に惜しまれながら逝去。


 国民が深い悲しみに暮れる中、私は旦那様に「今までお疲れ様でした。...また来世でも私をあなたの奥さんにしてもらいたいです。」と心の中で最後の挨拶をした後に送り出しました。


 次代の王としてエリスの子...私の孫が王になる予定だがまだ后が決まっていないのでつがいが見つかるまでエリスが仮の王位を継ぎ忙しそうな日々を送っている。


 私の親しかった人達は殆どが歳を取り、引退し故郷に帰った者や先に亡くなった人達の待つ世界へと旅だって行った者もいる。


 しかし、変わらなくなってしまった人もいる。


 「エミリア様、御茶を淹れ直しましょう。」


 冷めてしまった御茶のカップを下げ、新しく淹れ直してくれた御茶の入ったカップを昔と変わらぬ姿の執事が差し出してくれる。


 「うん。ありがとうございます、レスターさん。」


 そう、このレスターさん。


 実はレスターさんはだいぶ前に一度、寿命に寄る天寿を全うしたのですが...レスターさんの召喚獣であるヴァルキリーのセレナがやらかしました。


 ベットの上で横たわるレスターさんの遺体を前にセレナは号泣。


 「一体誰が私にツッコミを入れてくれるんですか~!!フォルティーナ様は最近、私の行動に呆れ果ててツッコミすらくれないので寂しいんですよ~!!レスターさんが居なくなったらツッコミの無い破壊活動をやっても虚しすぎて死んじゃいます~!!」


 と今までわざと破壊活動をやっていた様な節の発言の後に何かを思い出した様な”はっ”とした表情で涙で濡れた顔を上げた後に「そうですよ~!!私はヴァルキリーです!...我と共に生きるは霊験なる執事...出でよ!!」とレスターさんの亡骸を指差した。




 「レスターさん、ゴメンね。...フォルティーナの側でお世話したいだろうに。」


 「何を仰いますかエミリア様。...私はセレナのエインフェリアとなる事で悠久の時を得ました。確かにフォルティーナ様からエミリア様を頼むと申しつけられましたが...私がエミリア様の側に居たいのです。どうかお気にせぬよう。」


 昔と変わらぬ綺麗な姿勢で礼を取るレスターさん。


 「...ありがとうレスターさん。」


 笑顔でレスターさんに返すと私は再び日記に目を落とし、楽しかった思い出にふけるのだった。





 目を開くと、涙の跡が残るエリスの顔が見える。


 ああ、そうだ。


 私は意識を無くしていたんだね...。


 身体を動かそうとしても自分の体では無いかの様に鉛のように重く動かない為、眼だけを動かし周囲を見る。


 エリスに私の孫達、ヴァランティーヌとヴァルファーレ、そしてヴァルファーレの子供達が心痛な表情で私を眺めている。


 ...自分の身体だもの...自分が一番わかってる。


 もう私は長くないのだ。


 「悲しまないで。私は幸せだった。生きて、生きて、生き抜いたの。...あの人が私を褒めてくれるから...私は嬉しいの。」


 そうみんなに伝えたかったが既に言葉を発する力も残っていないらしく、伝える事が...出来ない。


 伝えることが出来ない悔しさが湧き始めていた時に私の視界にドアがゆっくりと開く様子が見え、レスターさんと魔王様...そしてあの人がゆっくりと部屋に入ってきた。


 「エミリア殿...お疲れさまでした。」


 魔王様が私の目を覗き込みながら手をギュッと握り締めてくれねぎらってくれる。


 魔王様が後ろに振り返り、頷きを一つ落とすとあの人を残し部屋の中に集まってくれていた親しい人達が一人また一人と私に最後の挨拶を残し去って行く。


 そして...部屋には私とフォルティーナだけの空間になった。


 フォルティーナが私の横たわるベッドに腰を降ろすと私の顔を覗き込み、優しく頭を撫でてくれる。


 出会った時のままの姿のフォルティーナは綺麗に整って形の良い眉を少し下げ「....楽しかったよな。」と呟く。


 言葉で答えることの出来ない私はフォルティーナに(うん。楽しかったね。)と思念で答える。


 私の答えに綺麗なスカイブルーの瞳から一滴の涙をこぼし「....面白かったよな」とまた一つ呟き、私も(うん。面白かったね。)と返す。


 その後、黙ってしまったフォルティーナの手の暖かさを感じながら次第に私の意識は遠退いていく。








 私には最後の最後までフォルティーナに言っても絶対に叶わない願い事があった。


 フォルティーナ、あなたには私の奥さんじゃなくて...本当は......

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ