首都攻防戦2
私は廊下へと出ると、城に響き渡る殴りつけるような音に酷く混乱している衛兵達を尻目に一階へと走り降りる。
一階の窓へと手をかけるとサッと外へ飛び降り音のする方向へと駆け出した。
響き渡る音が段々と大きくなる。
敵に近づいているのだろう。
ふと空を見上げると複数のハルピュイアとグリフォンに囲まれ、無事に城から脱出する事が出来たワイナール殿下とエリス様を抱えるエミリア様の姿とグリフォンに跨がり王族を護るように囲んでいる近衛兵の姿が見え、私は安堵の息を一つ落とす。
どうぞご無事で!!
音の元へと走り寄り、近付いていくと...ヨアヒム・エルドランが一心不乱に城の壁を殴りつけている姿が見えたのだが明らかに様子がおかしい。
...目を凝らして見ると生気の無い無表情のヨアヒムの後ろに黒い陰が見えるのだ。
私はその影を見てハッとし、思わず走るのをやめ立ち止まる。
私の忘れることの出来ない過去...色を無くし、灰色になっていた記憶が彩りを取り戻す様に頭の中を駆け巡った。
あれは...私の人生で追い求めていた成し遂げねばならぬもう一つの事。
私の既に老い先の短くなった人生には命を賭して成し遂げねばならぬ二つの目標があった。
一つは自らが命を掛けてでも守り、支え、仕えることの出来る新たな主を探すこと。
もう一つは....
「私は今は無きお前に滅ぼされしグロウアルス公国、第三騎士団隊長、レスタール・ギュンター!!!お前に滅ぼされたグロウアルス公国、私が護る事が出来なかった王族、国民...そして!私の妻、息子の敵...積年の我が怨み...この場で晴らさせて貰う!!!覚悟!!!」
アストラル・ブレードを腰に差している鞘から引き抜くと同時に私の名乗りで此方に振り向き始めた黒い陰に向かって、走り寄り斬り掛かった。
「ふぅ、これで殆どのデーモンは葬れた様ですね~。」
私はデーモンの血で濡れている普段使いの剣を振り、張り付いている血を振り落とす。
周囲を確認するとヴァランティーヌ様から派遣された飛ぶ移動速度の速いエルダー系のウィンドウドラゴン達が既に到着していて、イージスの盾の障壁に阻まれてウロウロしていたデーモンを駆逐している様子が見える。
うーん、あまり強いとは思えませんでしたね~。
暴れたりなくてテンションが下がってしまいますよ~。
戦闘に物足りなさを感じているとハルピュイアとグリフォン、近衛兵達に囲まれたワイナール様達がイージスの盾の障壁から出て来るのが見えると同時に、反対方向のバハムーレ領の方向から物凄い速度で飛んでくるエンシェント・ウィンドウドラゴンの姿が確認できた。
うん?何かあったのですかね~??
背中に光の羽根を出現させハルピュイアとグリフォン達の居る上空へと飛び上がる。
私の姿を視認したワイナール様が慌てた様子で「セレナ!!城がデーモンに襲われています!直ぐに救援を!!」と叫んでいる。
お城にデーモン?...イージスの盾のお陰で中には出現も侵入も出来ないはずなのに...
どうやらイージスの盾の障壁で内側にはデーモン達は出現が出来なかった様で障壁の外側の周囲にどんどん新たに出現してくるだけだったのだ。
私が頭を捻っているとエンシェント・ウィンドウドラゴンが突風を巻き起こして急ブレーキを掛けると、エンシェント・ウィンドウドラゴンの背中から「...あら?あなた達何してるのかしら?バハムーレ領の方はデーモンを駆逐できたから後の警戒は他の飛竜達に任せてここに来たのだけど。」とヴァランティーヌ様が首都の空の上に揃って居る私達に不思議そうな表情で形の良い片眉を上げながら声を掛けてくる。
「ヴァランティーヌ!レスターさんが私達をバハムーレ領へ逃がす為にお城に残って戦ってるの!!」
悲痛な表情でエリス様を抱いたままのエミリア様がグリフォンから身を乗り出しヴァランティーヌ様に声を上げている。
「...セレナ、レスターに語り掛けてみなさい。」
「わかりました!」
私は目を瞑るとレスターさんに声を掛ける。
レスターさん...レスターさん?........レスターさん!!....
「えーと、反応がかえってこな...」
《レスターのHPが危険数位まで低下...緊急召喚モードに移行しますか?yes? or no?》
抑揚の無い女性の声が頭の中に響き渡り私は血の気が低く。
「や、やばいです!やばいです~!!セレナ、行ってきますね~!!」
「...ちょっと、どう言うこと?セレナ、せつ...」
慌てふためき”はい”と急ぎ選択すると私の身体が光の粒になり目の前が暗闇に包まれる。
身体の感覚が戻ると同時に強い殺気を感じて攻撃を剣で受け止める。
どうやら上手いことレスターさんとデーモンの間に召喚された様で、視線を動かすと地面に倒れ込んでピクリとも動かないレスターさんが見えている。
私の剣に掛かっていた負荷が消え、攻撃したデーモンが後ろに飛んで距離を取ったので態勢を直しつつ敵をちゃんと直視する。
...あれ?....ヨアヒム...ですよね?背後に大きな影が見えますけど。
レスターさんの生存を確認するためにヨアヒムの様なデーモンを視界にとらえたままレスターさんの側で跪く。
私は敵を見つめたままレスターさんの容態を確認しはじめると、無表情のヨアヒムから抑揚の無い低い声で呟きが聞こえた。
「....ほう?この感覚、力の波動...お前....ヴァルキリーか。」