俺達に走る戦慄
俺がアウグストを殺した事で聖都ウィルドレル側の兵士達に動揺が走る。
「お前達も薄々は俺達の行いは正しいのか...その意識は俺達の頭の片隅にあっただろう?...俺達は自分達の今までの行いを振り返り、考える。そんな時期に来ているんじゃ無いのか?」
セレナが張った結界に守られ無傷の第三軍の司令が前に一歩踏みだし聖都ウィルドレルの全兵士に向けて語りかける。
「我らは他国に多大な迷惑を掛けてきた...だが我らも今からでも行いを正し、自分達の誇りを取り戻すべきでは無いのか?カーツ・エーデル・ファメルテウス殿も今までの行いを恥じ、受けて入れ、誇りを取り戻されたのだ...我らも追従しようではないか!フォルティーナ殿もファメルテウス民主国を導いた様に我ら聖都ウィルドレルも導いてくれるはずだ!!」
第三軍の司令がチラリと俺の方見つめてくる。
....おいおい、そんな話はした覚えがねえぞ!
兵士達はお互いの顔を見つめるような行動を取った後に一斉に頷き「「我々は司令に着いて行きます!そして我らに導きをフォルティーナ様!!」」と空気が震えるほど勢い良く多くの兵士達の声が響いた。
くわぁ!マジかよ!!...でもな~、この熱狂的な状況でそんな事知らねえよ!...とは言えねえよな...。
...はぁ、しゃあねえか。
俺は覚悟を決めみんなに見えるように大きく頷くと更に大きな喝采の声が響きわたる。
「さぁ~、じゃあこの戦も終わったみたいだし撤収の準備でも始めますかね~。」
奴隷達のいる後方を振り向き皆で歩き始める。
「そうね。...ヴァルファーレはいい子でいるかしら?」
「ふぅ、終わりましたね~。またフォルティーナ様はやっかい事を抱えそうですけどね。」
「ふむ、我もフォルティーナから餌を貰わねばならんからついて行くか。」
皆で戦争の終結に安堵し、少し気が抜けた状態で撤収準備を始めようとしたその時
「フォルティーナ殿!!危ない!!」
魔王の声が背後から響くと同時に背中を強く押され転けそうになる。
「な、なんだ!?どうしたんだ魔王!!」
態勢を立て直した後に振り返ると....背後から腹を異形の手のような物に貫かれた魔王の姿が見えた。
魔王を背後から異形の手で貫いた奴は...俺から魔法で頭を貫かれ、死んだ筈のアウグストだった。
「こんの...クソやろうがぁあああぁぁ!!!!!」
頭から血を流し、死んでいるように焦点の合っていない目をしているアウグストの手を魔王の身体から引き抜きアウグストを手加減無しのパンチをぶち込む。
パンチをぶち込まれ、後ろにあった岩に激突するアウグストを横目に見ながらグッタリとし腹から血を流し続ける魔王を抱え上げ声を荒げて魔王に声掛けをする。
「おい!おい!魔王しっかりしやがれ!!」
「....フォル...ティー..ナ...最後に...最後位は...私の名をちゃんと呼ん...で下さい。」
薄く目を開いて俺を見つめる魔王が命尽きそうな様子で力を振り絞るようにそう俺に呟いてくる。
「お前を死なすわけねえだろ!ボケ!!」
叫びながら最大級の回復魔法を魔王に掛けると魔王の傷はみるみるうちに塞がり、青白くなっていた顔色も良くなって来て魔王は驚くような表情でパチクリとまばたきをした後に俺を見つめてきた。
「死なせねえつっただろうが!...だが今は悠長に話をしている場合じゃ無さそうだな!」
アウグストが吹っ飛んだ辺りからどす黒い強力な力を持つ何者かの気配が辺りを支配し始める。
俺は立ち上がると、どす黒い気配のする気配の方向を睨みつけながら「アウグスト!!....テメエ人間じゃねえな!」と体に力を込めながら叫んだ。
徐にアウグストだった物が黒いオーラを撒き散らしながら立ち上がると「クカカカカ...」と毛が逆立つような気色の悪い笑い声を上げ始め俺を焦点の合っていない目で見つめてきた。
「クカカ....その通りだよ龍王!!...貴様の大体の戦闘力は把握した...。」
アウグストとアウグストで無い物の声が二重に聞こえ、俺の全体を舐めるかの様に眺めている。
「テメエ!一体なに者だ!!」
「...我は魔神...魔神ヴィンザード...。」
魔神!?何だそりゃ?
<魔神ヴィンザード、まさか人間の中に隠れていたなんてね...。>
あん?お前何か知ってんのか!?
<...まあね。あれはこの世界の奴じゃ無い。他の世界から来た強力な破壊神なんだ。一度は僕がアイツと戦って、僕が勝ったんだけど...トドメを刺す前に逃げられたんだよね。>
...それは俺でもヤベえんじゃねえのか?
<....いや、君も相当異常だから負けはしないね。...海だったら恐らく君の方が魔神ヴィンザードよりも有利だし強いから完璧に君が勝てる!...でもここは陸上だから...負けはしないけど決定打は与えられないかも...。>
...勝てはしねえかも知れねえが負けもしねえって事はここに居る奴らを逃がすことは出来るんだな。
今はそれでも十分だ!
「ヴァランティーヌ!!お前の知り合いの飛竜達、何匹かを聖都ウィルドレルの兵士を護衛につけて逃がせ!アイツは俺が食い止める!」
「...ええ、あれは...フォルティーナ、あれはあなたじゃ無いとヤバいのは直ぐにわかるわ!」
俺と喧嘩していた以来、久しく見ない本気で焦りを浮かべた表情でヴァランテーヌが人間達を守りながらの退却を飛竜に命令し始める。
「クカカカカ...我はこの世界の滅亡を欲す...。まずは龍王...お前の住処から破壊してやろう。」
魔神ヴィンザードがそう呟くと数体の異形の者が召還された様に出現した。
な、なんじゃありゃあ!!
<悪魔...デーモンだね。魔神ヴィンザードの部下達だよ!!>
くっそ!アイツだけでも面倒くさそうなのに他の奴までいんのか!
全員に向け全力でこの場から逃げろ!と叫ぼうとした時に(フォルティーナ!!いきなり変なのがクラルフェランに...クラルフェランに出て来て私達を襲い始めたよ!どうしよう!?)とエミリアの悲痛な声で緊急連絡が入ってきた。
...マジかよ




