バカ王子からダメンズへ
「バカな!そんな事はあり得ん!!」
クラルフェラン共和国へ入っているヨアヒムと言う司教の報告を聞き私は机に拳を一つ振り下ろし叫んだ。
司教の報告ではフォルティーナはヴァランティーヌの不意打ちにより敗走し、魔王に抱き抱えられながら魔族領へと渡った様だとの事だった。
クソ!魔王め!!このカーツ・エーデル・ファメルテウスの物であるフォルティーナにその汚れた手で触れるんじゃ無い!!!
....まさか魔王は弱った私のフォルティーナを陵辱し、自分の物にする気ではないだろうな!
私は苛立ち、脚を揺する。
あの形の良い尻は私の物だぞ!!!
「カーツ様!私をお呼びとのことですが如何されたのですか?」
私の私室にふわりとした笑顔で黒髪の女性が入って来る。
「おぉ、メル!いつも通り君は美しい!!」
この艶やかな黒髪の女性はメルディーア・サルフェンと言う名のこの聖都ウィルドレルの大司教の娘だ。
絹のような黒髪を手に取り、一つ髪に口づけを落とすとメルディーアが頬を赤らめ少し俯く。
メルディーアはどうやら私に一目惚れしたらしく、父上や今でも私を支えてくれている貴族と共に聖都ウィルドレルへ流れ着いた私に積極的に関わり合いを持とうとして来た。
...私はメルディーアの自分に向けられる好意を利用した。
我が祖国、ファメルテウスをこの手に取り戻す為に...大儀の為だ。
私にはフォルティーナと言う女性が居るのだが...フォルティーナは召喚獣...うむ、人間の后はメルディーアで良いだろう。
「...どうされたのですか?表情が冴えないようですが...。」
私の手を握り締め、私の顔を覗き込んで来たメルディーアが心配そうな表情でそう呟く。
「うん?ああ実はね...」
私の召喚獣(予定)が魔王に拐かされたとメルディーアへ伝えると深刻そうな顔をした後に「そうなのですか...それは御心配ですね。...でもカーツ様、大丈夫です!!私達の国、聖都ウィルドレルが誇る神兵を魔王が居住する魔族領に進攻する事になればカーツ様の召喚獣様もお助け出来るはずです!!」と心強い事を言ってくれる。
「しかし...亡国の王太子である私の為に聖都ウィルドレルを争いには巻き込むことは出来ない!メルの気持ちだけ...ありがたくいただくよ。」
「そんな...カーツ様!!何を仰るのですか!!貴方は確かにファメルテウスの方ですが既に聖都ウィルドレルの洗礼を受けて私の国の国民でもあるのです!...魔族は元より聖都ウィルドレルの敵...貴方が気を使う必要はありません!!私がお父様に魔族を今回の戦で完全に滅する事をお許しいただけるようお願いしてきます!!」
私に綻ぶような笑顔を見せた後に厳しい顔つきでメルディーアが私の私室から出て行く。
メルディーアの可憐ながら勇ましく感じる後ろ姿を眺め、自然と笑みがこぼれてしまう。
御願いするよメルディーア!!私と君...そしてフォルティーナと三人で仲睦まじく暮らす輝ける未来の為に!!
数日後、メルディーアが嬉しそうな満面の笑顔で私の部屋へと飛び込んで来た。
父君である大司教殿を条件付きながら説き伏せることが出来たと鼻息荒く私に語ってくれる。
「お父様が魔族の討伐に乗り出すとのお約束がいただけました!...ですがカーツ様の召喚獣...フォルティーナと申しましたかしら?その方は魔族と通じている可能性があるから助け出すのは諦めよ...との事です。」
な...に!?諦められる訳が無いだろう!!あの芸術の様な腰のくびれは私の物だぞ!!!
...しかし、メルディーアの屈託のない笑顔を見ていると...目の前で今の事を口にしたら私の命が危険に晒される予感が湧き上がるのは何故だろう?
...私の本能がメルディーアの言葉に頷き肯定しろと叫んでいる。
「う、うん。そうだね、諦める...しか無さそう...かな?」
「諦めて下さい!!」
間髪入れずにこう返って来るところを見ると...私の本能が正解だった様だな。
どうしようか...フォルティーナを諦め...きれな....そうだ!
「聖都ウィルドレルに全て頼るだけでは駄目だ!!私も戦場へ...赴きます!!」
私の宣言を聞きメルディーアが自らの口を両手で覆い、驚きの表情で「嫌!カーツ様!!その様な危険な場所へは行かないで下さい!」と私の腕に纏わりつき涙で潤んだ瞳で私を見詰めながら止めようとして来る。
「止めないで下さい!!メルディーア!...私だけ安全な場所で待つなど出来ない!!...私は..私は王になる人間なのだ!!兵と一緒に魔族を駆逐しなければ!!」
「カーツ様!!」
私の説得に感激したらしいメルディーアが感涙の涙を流し私に身体を預けるように腕に飛び込んできた。
...どうにか誤魔化せたが...戦場でフォルティーナを救い出し、既成事実を作ってしまえば連れ帰る事が出来るだろう。




