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ヨアヒムの暗躍...そして

 数日後、バハムーレ屋敷に軟禁されていた私達はフォルティーナの屋敷という城に近い小さな屋敷に身柄を移された。


 どうやらアルフェール家の連中の処遇が決まった様だ。


 ファメルテウス民主国に強制送還の上に用意される屋敷に監視付きの監禁状態に置かれる様になるとの事。


 ふむ、少々甘い気がするが...妥当な所だろうな。


 そして我らがフォルティーナの屋敷に移された理由はどうやらヴァランティーヌが首都の屋敷に帰って来るらしい。


 フォルティーナもアルフェール家の事でファメルテウス民主国に行っており留守でこの国には居ない...これはチャンスだ。


 ヴァランティーヌを言い含め、我らの側の味方に出来るのならば...いけるかもしれない。


 窓辺に立ち、ヴァランティーヌ宛ての書状を窓を少し開いて下に落とす。


 スッと小柄な男が駆け寄り手紙を拾う。


 前からクラルフェラン共和国に入っている密偵に無事手紙が渡った。


 ...後はヴァランティーヌが私の手紙を読んでどの様な動きを取るか...だ。



 意外な事にヴァランティーヌの動きは早かった。


 手紙を出した次の日には私の居る屋敷へと来たのだ。


 表向きの理由は夫の身内への挨拶との事だが...十中八九、私と話をしに来たのだろう。



 「...それで、私に話って何かしら?」


 私を執務室へと呼び出し、挨拶も早々にフォルティーナが屋敷に置いて行った執事が淹れた茶を飲みながらヴァランティーヌがそう私に尋ねてきた。


 「単刀直入にお聞きします。貴女は今のままで良いのですか?」


 「...今のままでとは?」


 ヴァランティーヌが形の良い眉をピクリと動かし引き込まれそうな紅い瞳で私を見つめてくる。


 「...フォルティーナはリヴァイアサン...陸上の覇王であるバハムートがリヴァイアサン如きに陸上で自由にさせて良いのかと...。」


 「ふふふっ、面白いことを言うのね。...そうね。聞けばフォルティーナは私の娘、ヴァルファーレの権利を主張したそうじゃないの。他ならぬあなたの前でね。」


 笑顔だが恐ろしく威圧感のある気配を迸らせながら私に言う。


 「え、ええ。ヴァランティーヌ殿の仰る通りフォルティーナはそう主張しました。」


 ヴァランティーヌの怒気を感じる気配にヴァルファーレの貴族への輿入れ話をしなくて心底良かったと背中に嫌な汗が吹き出るのを感じながら答える。


 パリン。


 ヴァランティーヌが茶の入ったカップを握り潰す音が響き渡り、執事が小刻みに震えながらハンカチをヴァランティーヌへと手渡すとまた茶を淹れ直している。


 「確かに調子に乗り過ぎている様ね...海ヘビの分際で。...で結局あなたは私に何を言いたいのかしら?」


 ハンカチで手を吹きながらこちらを見ることなくそう言う。


 「実は....」


 私は聖都ウィルドレルの大司教様の御子息の后にエリスを望んでいること、それをフォルティーナに邪魔をされている事、そして...魔族と付き合いのあるフォルティーナがクラルフェラン共和国に居るとこの国全体が聖都ウィルドレルから異端扱いされ争いになりかねないという事を伝える。


 元々、我ら聖都ウィルドレルと魔族共とは仲が悪い。


 魔族は総じて魔力が我々人間より高く、長寿命の為頭の回る者が多く我ら聖都ウィルドレルに取って非常に都合の悪い相手だった。


 遥か昔から難癖をつけては魔族共と戦をやり続けたが初めこそ拮抗していた戦力は魔族領にある荒廃した土地、ガレア高地の拡大が魔族共を追い込み、次第に魔族は弱体していく。


 トドメとして我らは他国に口出しをし、魔族領と人間達との関係を絶たせ魔族共に力を持たせないようにして来た。


 結果、弱りきった魔族は既に我らの脅威では無くこちらが手を下す事無くこのまま滅びへと進むであろうと判断されていた。


 その困窮に喘ぐ魔族共が自国民に追放されたファメルテウスの元王達に唆されてファメルテウス民主国へ攻め込もうとしていたのは元王達の証言で知っていた。


 今回、我らはそこを突くことにする。


 魔族は再び人間に仇なした。


 その魔族と関わりを持つ人物、魔族と関わりを絶たぬ国は...異端審問により聖都ウィルドレルから鉄槌が下ることになる...と。


 「...なるほどね。私はヴァルファーレが何不自由無く成長出来ること...それ以外に興味は無いわね。この国が戦火に巻き込まれないのならば勝手にやれば良いじゃないの。そうね、フォルティーナは私がどうにかするから...聖都ウィルドレルの都合でこの国を戦火なんかに巻き込んだら...お前達を滅ぼすわよ!」


 「わかりました。ではフォルティーナの処断はヴァランティーヌ殿、貴女にお任せしましょう。」


 会談は終わり、私は軟禁されている部屋へと戻った後にほくそ笑む。


 こちらを探る為の芝居の可能性も有りますが...それはこれからのお前の行動で判断させて貰いましょうか。


 本当は我らはお前など怖くは無いのですよヴァランティーヌ!お前がかつて敗北したことのある化け物、ベヒモスを筆頭に強力なモンスターを我らが崇める神の力によって我らの配下にしている。


 正面切っての争いになったとしても我らの勝利は揺らぐ筈もないが...配下のモンスター共を動かす為の莫大な餌を少しでも少なくする為に...


 せいぜいお前等自信で潰し合い、力を削ぎあってくれ!




 フォルティーナがクラルフェランへ戻ってくるとアルフェール家の愚か者共はファメルテウス民主国へ移送された。


 私はフォルティーナの屋敷からバハムーレ屋敷へと移され、軟禁状態は続いている。


 ヴァランティーヌとヴァルファーレは城に住み着いて居るようだが、再びこの屋敷に移った私に城への戻り際「もう少ししたらあなたの軟禁は終わるわ。...もう暫く我慢しなさい。」と耳打ちして来た。


 さぁ、お手並みを拝見しようか!



 数日後、フォルティーナがバハムーレ屋敷へとやってきたようで私は執務室へと呼び出された。


 執務室に入るとフォルティーナ、ヴァランティーヌ、複数の使用人、そして...この前一緒に居た魔族の男が揃って私を見つめてくる。


 「さあ、お前にはクラルフェラン共和国から出てってもらうぞ!」


 フォルティーナが横にいてちょっかいを出し続けている魔族の男を殴りながら私にそう言う。


 ふむ、ヴァランティーヌはどう動くのか?


 ヴァランティーヌへと視線を移すと私の視線に気付いたヴァランティーヌが一度、ゆっくりと瞳を閉じた後に再び瞳を開き口を開いた。


 「少し待って、フォルティーナ。」


 「あん?何を待つ...」


 ヴァランティーヌがいきなり手の平から巨大な火の塊を作り出し、フォルティーナに向けて放った。


 完全な不意打ちで巨大な火の塊をまともに喰らったフォルティーナは執務室の壁を突き破り屋敷の外へと吹き飛ばされて放り出された。


 「フォ、フォルティーナ殿!!」


 魔族の男はポッカリと穴の開いた壁からフォルティーナの吹き飛ばされた付近に走り寄ると必死の形相で瓦礫を退かしている。


 ツカツカと瓦礫の方へヴァランティーヌは歩んで行き、立ち止まると「クラルフェランから出て行くのは貴女の方よ、フォルティーナ!」と高らかに声を上げる。


 「...何を..言って...やがんだよ...ヴァランティーヌ!」


 魔族の男から名前を必死に呼ばれながら瓦礫の中から掘り出されたフォルティーナが男に抱えられ弱々しいながらもヴァランティーヌを睨みつけながら言葉を絞り出すように言う。


 ダメージを受け弱々しくなっているフォルティーナを眺めるヴァランティーヌが眼を細め、手に持っていた扇で自分の口元を隠しながら言う。


 「あら?私が言った事...聞こえなかったかしら?あなたがこの国に居ると邪魔なのよ。長い付き合いのよしみだわ。命までは取らない...魔王!フォルティーナを魔族領でも何処でも連れて行きなさい!そしてこの地の土を二度と踏まない事ね。」


 魔王...魔王だと!?まさかこのフォルティーナを抱き抱えている魔族がガレア高地を深緑の土地に変貌させたと言う魔王クリストファーか!?


 「ヴァランティーヌ!!この様な暴挙、ワイナール殿やエミリア殿が許すはずがない!!」


 「私がヴァランティーヌの行動を許しました。」


 声のした方へ視線を動かすと執務室のドアが開いており、立派な服を纏った男が兵士を数名連れて入って来る。


 魔王は男の言葉に信じられないという表情を浮かべ「ワイナール!貴様が許してもエミリア殿が許す訳がない!!」と怒りの余り、叫びにも似た荒げ声を上げた。


 「クラルフェランの為です。私はこの国を導かなければならない...エミリアも...わかってくれる筈です。」


 苦渋の決断と言わんばかりの苦い顔で俯きながらワイナールが睨み続けている魔王に答える。


 ほぅ、余程聖都ウィルドレルから経済を締め付けられていたのが効いていたのだろうな。


 一国の王がこの様な表情を見せるなど。


 「...フォルティーナ殿。貴女にこの様なところはふさわしくない!!...私と共に魔族領へ。」


 ボロボロで意識も途切れ途切れの様子を見せているフォルティーナを労るように抱き上げた魔王がゆっくりと空へと舞い上がり....去って行った。


 ...どうやら本気の内紛が起きた様だな。


 後でアーティファクトを使ってこの出来事を本国に連絡をしなければ。


 「さあ、ヨアヒムと言ったかしら?少し話があるから場所を変えましょうか。」


 ヴァランティーヌの言葉に頷き返し、歩き出したヴァランティーヌ達の後を追いかけるように私も歩み始めた。

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