望まれぬ者達の襲撃
「じゃあ、帰るわね。」
「おう、暫く来るなよ。うぜえから。あ、ヴァルファーレは来て良いぞ!」
ヴァランティーヌがエリュセルの様子見の為に一旦、ヴァルファーレと侍女のクレアを連れバハムーレ領へと帰った。
ふぅ、ようやく少しは静かになるな。
ヴァランティーヌの野郎、俺がヴァルファーレには手出し出来ないのをいいことに平然と自分の娘を盾に使いながら俺を弄り倒す事を覚えやがったからな。
...いつかヴァランティーヌに教育的指導をしてどちらが上なのか思い出させないといかんぜ。
最近のアイツは俺を完全に舐めきってる様だからよ~!!
ヴァランティーヌ達がバハムーレ領に帰ってから数日後、静かに眠るエリスを眺めながらの穏やかな生活を送っている時に...奴らが来た。
「フォルティーナ様、ワイナール様が相談したい事が御有りの様で御座います。」
爺が神妙な顔で俺にそう告げてきた。
「おん?何のようだ?」
セレナが俺の問いに表情を少し曇らす。
「これは側近の方から聞いたのですが...遂に奴らがこの国に来ちゃったそうなんですよ~!」
「あん?奴ら?...よくわからんが、まあいいか。ワイナールから直接聞いた方が正確な事がわかりそうだな。」
ワイナールは執務室に居るとの事を爺から聞き、執務室へと移動する。
ドアをノックすると返答があったので執務室に入ると冴えない表情のワイナールがソファーに腰掛けており、腕を組んで何やら思考を巡らせている様だ。
「おう、ワイナール。何か面倒事でも起きたのか?」
「ああ、フォルティーナ。...まあ面倒事ですね。それで呼び出した内容なんですが...」
ワイナールが悩んでいる事の子細を聞き、俺は眉を潜めた。
「はぁ?アルフェール家の連中がクラルフェラン共和国に来てるだと!?」
「はい。しかも現在、首都の城下町の宿屋に居るそうです。」
何しに来やがった!あのクズ家族共は!
「アイツらは何の用があってここに来やがったんだ!?目的はわかってんのか?」
「ええ、書簡が届いているので概ねは...フォルティーナに確認して貰った方が良いですね。これです。」
ソファーから立ち上がったワイナールは執務机の引き出しから手紙を取り出し、俺へと手渡してくる。
受け取った手紙を開き確認すると...うだうだたくさんの事を書いているが簡潔に言うと、エミリアに会わせろ、エリスに会わせろ、自分達はワイナールの嫁であるエミリアの親族なのに今の扱いは不当だ!と言ったような内容だった。
...頭、湧いてんのかコイツら?
「...クズ過ぎて何も言えねー。そもそもアイツらの借金はセレナが破壊活動をした賠償で俺が借金を肩代わりで払ってやっただろうが。その上、喰うに困らねえ位の金も渡したしよ!...しかもその金をやる条件で今後エミリアとエリュセルに一切関わらねえ様に念書まで書かせたんだぞ!」
「ええ、その通りですね。私も誓いの念書は確認しましたから。」
俺はため息をつきながら手紙をワイナールへと返す。
「...おい。エミリアはこの事は知ってんのか?」
「はい。知っています。先ほど部下に伝えさせたのでそろそろここに来る頃かと。」
ワイナールのその言葉の後暫く沈黙の時間が流れ、ドアをノックする音が聞こえるとエミリアが浮かない表情で部屋に入ってきた。
「....旦那様...フォルティーナ...。」
「エミリア、率直に聞くぞ。会いたいか?」
物凄く嫌そうな顔をしたエミリアがぶんぶんと顔を左右に振っている。
「おう。会わなくていいぞ!ワイナール、お前も会うな。俺が会いに行ってくる。」
「フォルティーナ、どの様に対処するつもりですか?」
「あん?追い返すに決まってんだろうが!...まあそうだな。一応会って様子を見る。追い返して構わなそうならお前らに連絡せずに追い返す。...なんかあればエミリアに相談すっからワイナール、お前もエミリアと一緒に一応待機しといてくれや。」
「...わかりました。確かに私も会わない方が良いでしょうね。」
ワイナールが腕を組んで瞳を閉じながら頷いたとき...窓がガチャリと音を立てて開き部屋の中に空気の流れが出来ると同時に「いいでしょう。私が同席しますよ!」と最近良く聞く声が響く。
「出やがったな暇人変態ストーキングゴキブリ魔王!!」
そう言いながら窓へ視線を移すと窓で仁王立ちしている魔王が涼しいげな顔でそこに居た。
取り敢えず...押しとくか。
「帰れや!」
「なっ!?フォルティーナ殿!ひどぃぃぃいーーーー!」
窓辺に駆け寄り魔王を力強く突き飛ばすと盛大な叫び声を響かせながら魔王が地面に向かって落ちて行った。
何もなかった様に窓を閉めると俺は振り返り笑顔で言う。
「...ふぅ、悪は滅びたな!」
「....悪って...まあ、自業自得ですよね。不法侵入ですし。」
「あの人、本当に暇なのかな?羨ましい~。」




