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俺の幸せ

 「おう、なんだよ。真面目な顔をしやがって。」


 「...フォルティーナは...私から解放されて自由になった後はどうしたいか考えてる?」


 「そんな先の事はまだ何も考えてねえよ。そうだな~、その頃にはお前の孫とかが出来てるだろうから...そいつらの面倒でもみてんじゃねえか?」


 俺の答えにエミリアが少し悲しげな表情になり「...海に帰んないの?前はあんなに帰りたがってたのに....」と呟く。


 あん?なんだコイツ?もう俺様はいらねえから海に帰れって言いてえのか?


 「おい!もういらねえからどこかに行けって言ってんじゃあねえだろうな!!...お前が望むんなら海に帰ってやんよ...迷惑かけたな。」


 「フォルティーナ!それはちが...」


 椅子から立ち上がろうとするとヴァランティーヌが眉間にシワを寄せながら俺の上着の裾を引っ張り、首をゆっくりと左右に振る。


 ちっ、本当に何なんだよこいつらは。


 椅子に座り直すとぽろぽろと涙を流して俯いているエミリアに声を掛ける。


 「なあ、俺にはお前らが何を言いてえのかよくわかんねえぞ。...エミリア。俺はお前の奥さんじゃ無かったのか?」


 「...うん。そうだよ。フォルティーナは私の奥さん...でもねこのままフォルティーナを私に縛っていて良いのかな?って最近思っていたの。...ねえ、フォルティーナは気づいてる?エリスやヴァルファーレを眺めている時のフォルティーナの笑顔...時々悲しそうでこのまま消えちゃいそうな程弱々しく見えるんだよ?」


 そう、涙を流し続けるエミリアが消え去りそうな声で俺に訴え掛けてきた。



 ....バレちまってた..のか。



 エリュセルの結婚、エミリアの結婚、そしてそれぞれの子供達...家族が順調に増えていけばいく程自分の中で増していく孤独感。


 一人、海の中で過ごしていた日々に感じていたものとは質の違う思いだった。


 ヴァランティーヌすら家族を持ち、前に進んでいると言うのに...俺には...。


 自分だけどんどんと周りから取り残され置き去りにされて行くような感覚に自分自身を誤魔化す為、今後の事...エミリアが死んで自由になった後の事を考えない様にしていた。


 俺は椅子から立ち上がると懐からハンカチを取り出し、自らの涙で頬を濡らしているエミリアの顔を拭いてやる。


 「...家族が増える度にお前らから置いて行かれている様な思いは確かに俺の中にあった。でもな、仕方ねえだろ。俺やヴァランティーヌと違ってお前ら人間の人生は短い。生きる時間が違い過ぎんだよ。だからこそ短い人生を一所懸命に生きて、生きて、生き抜いているお前らが俺に取っちゃあ眩しいんだよ!」


 「フォルティーナ...。」


 差し出したハンカチを受け取りながらエミリアが俺を見上げながら呟く。


 魔王は即答で俺に断られたダメージから復活したようで椅子からスッと立ち上がり俺を見つめながら口を開く。


 「それですよ!確かに人間の寿命は短い。...だが私達魔族は長寿です。私の寿命は戦などで死なない限り、残り1000年以上あるのです!!だから長き時間に渡り、あなたを悲しませる事はありません!私とけっこ」


 「断る!!」


 再度断りを入れると魔王が床に崩れ落ちる。


 エミリアの頭をくしゃくしゃと撫でながら「心配すんな。エミリア、お前がこの世にいる限りお前の奥さんでいてやんよ。それが今の俺の幸せだ。」と言うとエミリアは再び瞳に涙をためて頷いた。


 「フォルティーナ...だぁーいすき!!!!」


 エミリアは抱きついて来て俺の胸に顔を埋める。


 「うーん、やっぱりフォルティーナのここはふかふかだよ~!!しかもしかも~!このふかふかの中に存在する芯のある張り!...たまらんですな!!」


 むにむにと両手で俺の胸を鷲掴みしてもてあそび始める。


 「いつまで揉んでんだよ!このボケ!!自分のでも揉んでろや!!」


 スパンとエミリアの頭に一撃、お見舞いすると自分の頭をさすりながら「だって今は少しおっきくなってるけどどうせすぐ萎むし...どうせならフォルティーナの豊満な肉体を...」と口を尖らせながらいつもの調子でぶーたれ始めた。


 「あの...フォルティーナ殿。少しは私の話をちゃんと聞いてほしいのですが...。」


 崩れ落ちている魔王が床を弄りながら泣きそうな顔でぶつぶつと呟いている。


 <...ねえ。結局、皆は自分達が居なくなった後の君の心配をしてくれているんでしょ?...そろそろ自分の事も考えてもいい時期に来てるんじゃ無いの?>


 ...そうだな。


 だが...相手か...。


 もう目の前のコイツで良いか。


 「おい、魔王!仕方ねえから考えてやらんでもねえぞ。ただしエミリアとの契約が終わった後の話だ。...時間が掛かるぜ、お前はそれまで待てるのか?」


 「えっ!?...本当ですか!?待ちます!待ちますよ!100年でも200年でも!!」


 ぱぁーと光り輝きそうな程の笑顔で魔王が俺の脚にまとわりついて来る。


 うぜえなこいつ!ミスったか?


 <いや、ある意味3カ国のバランスが取れていい感じになるんじゃないかな?クラルフェラン共和国にはエミリアに僕の加護を受けてるエリス。ファメルテウス民主国は君が作った国みたいなもんだし、魔族領は君が嫁に行く予定になった。...均衡が取れるんじゃ無いの?ちょっとファメルテウス民主国が弱くなるかもしれないけど。>


 まぁ、確かにそうだわな。


 でもファメルテウス民主国も大丈夫だろ。


 3カ国の中で一番裕福な国になってるしな。


 「ふふっ、これであなたも完全な女にならないといけなくなったようね。...面白くなりそうだわ。」


 ヴァランティーヌの紅い瞳に光が宿り、黒い笑顔になる様子を俺は顔を引き吊らせながら眺めていた。

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