魔王の意地
ふぃー、良き闘争だったぜ~。
<何言ってんの!ワンパンで魔族の大軍を瀕死にさせたのに。>
龍人モードに戻り、服を着た後に周囲を見渡す。
俺の眼前には地面に倒れ込んだ大量の魔族達がビックンビックンしている光景が広がっている。
俺が使った魔法はリーン・カルナシオンって魔法で聖属性の水魔法だ。
水魔法の中では上から二番目位で攻撃範囲はタイダルウェーブに及ばないが威力は抜群って言う魔法だ。
ぶっちゃけ俺が使える聖属性はこれしかないから聖属性で限定されるとこれ以外選択肢はねえんだけどな。
倒れた魔族達の中でも魔王は倒れ込む事無かったが、大地に片膝をついて動かない。
なんだ?コイツ。ちゃんと生きてんのか?
俺が魔王を眺めていると魔王が落としていた剣の柄を握り締めた後に、剣を大地に突き刺すと杖代わりにしながらふらふらと立ち上がる。
魔王は周囲を見回すと「...あり得ぬ...私の精鋭達が一撃の魔法で全滅するなど...しかしあの強力な魔法は一体...。」と呟きながら体を支える体力も残っていないらしくふらふらしている。
「おう!さっきの俺の使った魔法はリーン・カルナシオンってやつで...まあそれは良いか。...お前、まだ俺とやり合うつもりなのか?」
まだ瞳に諦めていない意志を感じる強い眼光を残したボロボロの魔王にそう投げ掛ける。
「...これほど多くの味方の命を散らせてしまったのだ。私だけ生きているわけには...いかない!」
杖代わりにしていた剣を大地からゆっくりと引き抜くと満身創痍の体で俺に力無く切り掛かって来るので身をかわす。
「あん?バカかお前?俺は誰も殺してねえぞ!ちょい待ってろ....ほらよ。」
水属性の回復魔法を空から降らせ魔族の軍隊の全体にまんべんなく掛けてやると...地面の上でビックンビックンしていた奴らが何の傷も負ってなかったかのように起き上がり、驚きの表情で自らの身体を眺めるとざわめきが生まれる。
「....まさか!こんな事が...有り得ない。」
回復魔法でどんどん自分の身体が癒されていく様子に魔王が驚いた表情を浮かべた後に周囲の自分達の仲間の様子を確認し、驚愕した声を上げている。
「だから前もって半殺しって言っただろうが!...それにやっちまったらお前から城の修理代を回収出来ないからな。おい!魔王。まだ俺とやんのか?」
「これ以上自ら戦争を仕掛けた相手から哀れみを貰うわけにはいかないのです。...私と勝負を...。」
魔王はそこまで言うと悲しげな表情で剣を握り締める。
まるで自分を殺してくれと言わんばかりに俺に向かって切り掛かって来る。
くわぁー、めんどくせえ奴だな!!しゃあねえから超絶に手加減すっ為に俺も武器を使うか。
何せ俺は武器を持つより素手の方が攻撃力が高けえからな。
亜空間ボックスから一振りの剣を選び取り出すと鞘から引き抜き、魔王の剣を切り落とす。
「ははっ、魔剣レーヴァテイン...ドラゴンオーブすら霞んで見えるそんな強大なアーティファクトを持ってるなんて...あの報告は本当だったのか。」
「まだやんのか?お前を慕ってこれまでついて来た奴らの事も考えてやれ。お前は上に立つ立場なんだろうが、既にお前の命はお前だけの物じゃねえんだぞ。」
「いえ、負けですよ。負けです...上に立つ者としてもね。」
俺に切り落とされ、役に立たなくなった剣を大地に落とすと魔王は地面に座り込んで憑き物が落ちたように涼やかな顔で俺を見上げながらそう答えた。
「終わったようね。」
いつの間にか近くに来ていたヴァランティーヌが背後から話しかけてくる。
「おう!終わったぜ。さて、魔王から事情聴取しますかね~。」
爺が茶をゆっくりと飲めるようにテーブルと椅子を準備して待っているので魔王を椅子に座らせ魔族の事情を聞く事となった。
魔族は長年、広がりつつあるガレア高地の対応に手を焼いて居たために人間達に比べると少しずつ文化レベルが遅れ初めていた。
魔族はその差を埋めるために交易などを人間達に長年求めてきたがずっと袖にされている状態だった。
魔王が代替わりしてもその状況は変わる事はなく、ガレア高地の荒れ地拡大により魔族はどんどん追い詰められていく。
そんな魔族に一筋の光が差す。
ファメルテウス王国のクーデターで追い出された元王族や上級貴族が魔族領に逃げ込んで来てこれらを今世の魔王クリストファーは保護をした。
元王族と上級貴族達はどうやらクリストファーに取引を持ち出したらしい。
ファメルテウス王国を取り戻してくれたら魔族達と友好条約を締結しても良いと...
それが俺にケンカを売ってきた大きな理由らしい。
うわぁ、めちゃうさんくせえ。
あのクズ共が友好条約なんてやるか?ねえな!魔族を利用して国を取り戻してえだけだろ。
まあ、魔王もアイツらをうさんくせえとは思っているが追い込まれてて旨そうな餌に食い付いてしまったってかんじだな。
「あのよ、言うちゃあ悪いが...あのクズ共は信用できねえぞ。」
「...何しろ私達を国から出て行かざる終えないようにする愚かで救えない輩ですものね。」
俺とヴァランティーヌの話で魔王が暗い表情で俯く。
「...やはりそう思いますか。しかし、私は藁にも縋る思いだったのです。魔族の現状を考えると...乗らざる負えなかった。」
ふむ、こんな大事を始める前にファメルテウス民主国の城を破壊しないできちんとした順序で俺に話を持ちかければ良かったのによ~
「おう、お前にチャンスをやんよ!話を聞く気はあるか?」




