バハムー子さんの心情
怒り狂ったリヴァイアサンが私を呼ぶ震え上がるほど恐ろしい咆哮に私は歓喜していた。
やっぱりあのリヴァイアサンはまだこの世に存在しているのだと...
私とリヴァイアサンの出会いはある意味壮絶だった。
バハムートへと進化した私は低レベルの期間でも満足な闘いになるような相手は既に存在していなくて、孤独感を味わい始めていた。
そんなある時に海でエンシェント・レッドドラゴンが何者かに喰われたと飛竜達の間で噂になった。
有り得るはずが無い。
私はそう思った。
当たり前だ、エンシェント・レッドドラゴンは私よりも弱いとは言えレッドドラゴン種の頂点に立つ存在だ。
私でも少しは苦労する相手....
それを一瞬にして喰らった大蛇の様な龍を見たと一緒にいたと言う竜が語っていたのだ。
本当にそんな者が居るのならば面白い!
私は好奇心で海にその龍を探しに出た。
そして海で見つけたその巨大なリヴァイアサンに私は挑み....何も出来ずに完敗した。
本当に一撃だ。
お互いに名乗りを上げ、瞬殺してやろうとメガフレアをリヴァイアサンに向け放ったのだが...相手の水鉄砲一撃でメガフレアをかき消された上にそのまま私自身も一撃で意識を刈られてしまう。
陸の上に放り捨てられた衝撃で意識を取り戻したのだが、私を捨てていったリヴァイアサンがそのまま振り返る事無く海に戻って行く姿を私は身動きも出来ずに見送るしか出来なかった。
どうしてエンシェント・レッドドラゴンと同じ様に喰えた筈なのにそうしなかったのか...
それから何度もリヴァイアサンに挑んでは一撃で追い返され、意識を刈られるたびに陸上まで運ばれ捨てられる...これを繰り返した。
ある時、リヴァイアサンに私は問うた。
何故私を喰わないのか?私は喰う価値すらないのか?と...
「何回も挑んで来るバカが面白いから暇潰しに相手してやってんだよ。今の俺はもう腹も減らねえからちゃんと名乗りを上げて俺と勝負して来るバカを喰うかボケ!!」
そうリヴァイアサンから言われ私は愕然とする。
腹が減らない?....意味がわからない。
私達モンスターは食べることで経験値を得る事ができ、強くなる。
それなのに腹が減らない...成る程、中途半端な私が敵う相手ではなかったと言う事か...。
それから私とリヴァイアサンは時々遊んでは馬鹿な事をしあう悪友みたいな存在になっていった。
繰り返し会話をする中でリヴァイアサンについてわかった事は私が存在する遥か前から存在し、生き続けていると言う事。
それならばこれだけの強大な力を持つ龍だ。
今まで殆ど知られていないのが不思議だったのだが...どうやらこのリヴァイアサンは引き籠もりらしい。
縄張り等もなく普段は深海で眠っている。
そのため今まで飛竜種に目撃されることが無かったようだ。
その上、陸上にいる飛竜種は常に縄張り争いをしているのだが海型モンスターは生息範囲が広いため、喰う喰われるの生存競争以外は無いらしい。
成る程、それでこのリヴァイアサンは口は非常に悪いが飛竜種には無い甘さがあるのか...
いや、これは圧倒的強者が持つ余裕だ。
決して甘いわけではない。
現にエンシェント・レッドドラゴンは失礼な振る舞いをしたために喰われているのだから。
この口の悪い強大な龍は陸上で力を持ち過ぎ、ある種の孤独に耐えていた私を唯一の癒しをくれる存在になっていった。
私とリヴァイアサンの奇妙な関係はどちらもこの世に存在している限り、永遠に続くと思っていた....が
数年前からリヴァイアサンの存在が海から消えたとの噂を聞く。
長き年月の末に滅びた、誰かに喰われた、など様々な噂が古株の飛竜種の間で流れたが私は全て信用できなかった。
...あれは簡単に滅びたり喰われたりするタマではない。
リヴァイアサンを探す為に海に出るがそのたびに見つけることは叶わず、再び出会う前に感じていた孤独感に襲われ始めていた頃、あるセイレーンから噂を聞いた。
「リヴァイアサン様は背に船を乗せ、人間達の住む港に行ったという目撃を最後に戻っては来ませんでした。...もしや人間の召喚獣になられたのでは...。」
あの酔狂なリヴァイアサンの事だ有り得なくはない...。
しかし同時に有り得ないとも私は思った。
...私と契約できる人間すら居ないのにあのリヴァイアサンと...契約を結べる者が存在している筈が無いと...。
セイレーンは私に「リヴァイアサン様を探すために私は人間の召喚獣になろうと思います。...お元気で...。」と言い残し、人間達の住む陸へと上がっていった。
それからも私は悪友を見つける事は出来ず、もう存在していないのではないかと言う憔悴感に襲われていたのだが...
怒り狂ったリヴァイアサンの声が聞こえた場所に心踊らせながら行くと...久し振りに見つけた元気そうな悪友が震えそうなほど恐ろしい目で私を睨んでいた。
リヴァイアサンの背後を見ると私達にとっては餌にしか見えない人間達がいる。
...本当にあなたは人間の召喚獣になったのですね。
目をつむりながら大地に舞い降りつつ考える。
あなたが人間の召喚獣になることを選んだのならば私も召喚獣になろう。
....もう孤独なのは嫌なのです...。