学園長の呼び出し
ヴァランティーヌを屋敷に連れ帰ってから俺の普段の生活を側に置いて勉強させた。
「...とまあ、普段の一日はこんな感じだな。お前の部屋の準備も出来てるからお前付きの侍女に後で案内してもらえや。」
「....なるほどね。大体わかったわ。しかしあなた本当にあの最凶のリヴァイアサン?あなたの生活、召喚獣って言うより奴隷って言った方がいいくらい働いてるわよ。」
「あん?うっせえよ!薄々そうじゃねえかと思ってたが....ここでやめるとこの領が元の最貧領に戻っちまうからな。しゃあねえだろ。」
呆れ顔で茶をすするヴァランティーヌに執務机で仕事をしながらそう返すと普通の召喚獣の生活実態を語り出した。
どうやら普通の召喚獣は喚び出される度に主人のMPを喰うもんだから頻繁に喚び出されたりしないらしく主人の中に入ったままどうやって自分の経験値を増やすことしか考えていないらしい。
「私もエリュセルとの契約が初めてだから召喚獣の事は聞いた話しか知らないけれど....何年間も召喚されっ放しの上、タダ働き...バカじゃないの?あなた。」
「うっせえよ、カス!!お前にも俺と同じ目に遭わせてやるから覚悟しとけや!」
「そりゃ、私はあなたから極上のMPが貰えるんだから願ったり叶ったりだけれどね。」
「....あん?なんだそりゃ?...俺のMPって美味いのか?」
執事の爺から茶のおかわりを貰いご満悦な顔で答える。
「美味い上に栄養満点で一回もらうとなかなかお腹が減らない....最高よね。その上今の私でも一回MPをもらうだけでレベルが1上がるほど経験値が入ってくるし、今まで頑張ってちびちび経験値を稼いでいたのが馬鹿みたい。」
まじかよ。
<君は色々と規格外だからね。バハムートとレベル差がかなり開いてるから今は簡単に上がるんだろうけど...まあ、このまま君がMPをやり続けても君みたいな化け物にはならないから安心して。>
そうかいそうかい。
別に俺はヴァランティーヌが俺より強くなっても全然構わねえけどな、仮に殺られそうになっても深海に逃げ込んで大人しくしとけば飛竜系は俺に手出しできねえしな。
「じゃあ、俺からMPをぶんどる分しっかりと働いてもらうからな!」
「はいはい、わかってますって。」
俺の悪態にため息をつくとヴァランティーヌは俺の机の上に積まれた書類を少し取り、目を通し始めるのだった。
学園長からの呼び出し状が屋敷へ送り届けられ、俺とヴァランティーヌと執事の爺で学園に出向くことになった。
「ヴァランティーヌ様はご自由に発言されても結構ですが....」
爺が俺をチラリと見ながらそう口を開く。
「わかってんよ!!喋るなつうんだろうが!!何でコイツは自由でいいんだ!?」
「日頃の言動よね。フォルティーナは殺る気満々の喋り方だから敵を作るからよ。...まあ、人間如きが敵になった所でブチ切れたフォルティーナに瞬間で人類全体が絶滅させられると思うけどね。」
「...それが容易に想像できるのでお止めしているのです。」
「はん!!ゴミに何されようが俺がブチ切れるわけがねえだろうが!」
「まぁ、そう思っておく方が良いわね。」
ヴァランティーヌのその一言で俺達は黙りそのまま学園に到着するまで沈黙が続いた。
学園長の部屋へ行き、学園長が簡単に挨拶をすませると本題に入った。
「それでお二方は実のところエミリア君とエリュセル君の召喚獣とお聞きしたのですが相違は無いのですかな?」
「ええ、その通りです。私は竜王バハムートでこっちは龍王リヴァイアサン。どちらも契約で人型の姿になれるようになったので今はこの姿で居るだけです...真の姿をお見せしましょうか?」
「い、いえ。それは先日、目の当たりにしたので結構!...フォルティーナ様は何度かこの学園に来られたら事はありますが...喋ることが無いのは何かお有りなのですか?」
「ああ、フォルティーナは一身上の都合で人前で喋れないだけです。言葉は通じているのでお気遣い無く。」
ヴァランティーヌがチラリと俺を見てきた後に学園長も俺を見てくるので肯定と言うことで頷く。
「成る程...わかりました。しかしお二方が竜王と龍王ならば契約している二人...エミリア君とエリュセル君は今後この国の王に呼ばれる事になるでしょう。」
「あら?どうしてかしら。」
「わかってらしゃるでしょう?ヴァランティーヌ様。あなた方お二人を従える程の力を持つ者を国が目を付けない筈はない。」
ヴァランティーヌは学園長の言葉で少し考えている素振りを見せ、向き直すと再び口を開く。
「おそらく、重要なのはエミリアとフォルティーナの方よ。私とエリュセルは契約はしていてもその契約の対価はフォルティーナが全て私に払っているのだから。この意味がわかるかしら?本来エリュセルには私を使役できる程の力は無いのよ。」
学園長がヴァランティーヌの話で目をむき「本当ですか!?フォルティーナ様!!」と机から乗り出して尋ねてくるのでしっかりと頷いて見せる。
「このフォルティーナはね。この世界の頂点、真なる皇。あなたも見たでしょう?私がフォルティーナに土下座する姿を...。この世界でフォルティーナに逆らう事の出来る者など...いない。人間達はせいぜいこの人の機嫌だけは損ねないようにしないと身分隔て無く等しい滅びが訪れるわね。」
学園長のゴクリと言う息をのむ音が部屋の中で響いた。
学園長の話も終わり帰りの馬車の中、俺は口を開く。
「お前、エミリアの為に学園長を脅しただろ?」
「ふふ、そうよ。ああ言っとけば国の上の連中も変な気は起こさないでしょう?それに事実だしね。」
...コイツの考えている事がよーわからん。
まあ、コイツにはエミリアやエリュセルをどうこうするつもりは無いのだろうな。