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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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玖拾伍

 


 ーー後藤 謙次視点ーー


 この頃、サリンちゃんの様子がおかしい。

 一応仕事でサリンちゃんの行動の監視をしてはいるが、この頃、何か思いつめているような、辛そうな表情をする事が多くなった。


 友人のランスフォード・フラットが国に帰ったからか?

 いや、でも、確かあの友達は母親が倒れただけらしいからな。そこまで暗い顔をする必要はない。

 組長にも、週末に友人の家に遊びに行く許可は取ったみたいだし...何でだろうな?


 うーん...もしかして、「あれ・・」か?


 *


 丑の刻。

 日中、ずっと雨が降っていたせいか、九月だってのに今夜は少し冷える。


 組長はいつも通りサリンちゃんを抱きしめながら寝てるんだろうな...羨ましっ。

 俺は徹夜で見張りだってのにさ!

 ...不満はないけど、今度、長期休暇でも貰うか。


「サリンちゃんの癖、治ってなかったな」


 車中で、学校内で見た、サリンちゃんの姿。

 左腕の傷の上に片手を置き、ずっと庇うように優しく触れている。動揺したり、悲しんだりした時以外は爪を立てる事はなかったが、それでも心配だ。


 イタリアから戻ってきてからというもの、サリンちゃんの笑顔が何処となくぎこちないように感じる。

 俺の気のせいかもしれないが、イタリアから帰ってきてから、サリンちゃんの心に何らかの変化があった事は確かだ。


「レオ・フライアーノもなぁ...可哀想に」


 サリンちゃんも、罪な女というか。



 *



 レオ・フライアーノは殺されはしなかったが、無事だったわけでもない。サリンちゃんには「怪我はない、説き伏せた」と伝えたが、組長がそんな事で済ますものか。

 俺がサリンちゃんを部屋に戻し、組長とレオ・フライアーノのいる部屋まで行くと、両者血まみれになっていた。そりゃあ驚いたさ、まさか死闘が繰り広げられるとは思わなかったもんな。


「後藤...出てけ」

『クッ...ぁあっ...』


 まるで昨日の事のように思い出せる。

 死闘と言えど、組長に怪我はなかった。組長の一方的な攻撃だ。

 レオ:フライアーノは、ナイフで十何箇所も刺され、虫の息。その赤毛と血の区別がつかない程の重症だった。


 すぐに組長を止めてレオ・フライアーノを病院へと送ったが...目が覚めたかどうかは。


「何で、あんな事をしたんですか?」

「さぁ...? 何でだろうな? サリンに惚れていたから、とでも言っておこうか」

「レオ・フライアーノが、ですか」


 そう、あいつはサリンちゃんに惚れていた。

 知っている。

 カジノでのレオ・フライアーノを見ていれば、嫌でも分かった。あいつの目には、サリンちゃんしか映ってなかったもんな。


「だから傷つけたと?」

「あの子を想うのは俺だけで十分だ。俺以外の人間があの子を見ているだけで...虫唾が走る」

「まぁ、知ってますけど...フライアーノの旦那には、どう説明するおつもりで?」

「適当に話をつける。サリンはどんな様子だった?」

「左腕の傷を抉って、震えてましたよ」


 俺の言葉に悲しげな表情を浮かべるかと思いきや、小さな笑みを浮かべた組長。


「見たかったな」

「ちょっと...怖がってたんですよ」

「分かってるが、そんなサリンも中々...」


 この変態め。

 とは言わない。俺殺されたくないし。

 一応、反省はしているようだった。


 それから組長はフライアーノの旦那と話をした。

 部屋の外で待たされていたから、話の内容は聞いていない。だが、レオ・フライアーノのように暴力にものを訴える事はなかったようだ。

 一体組長は何を言ったのか、旦那は「これまで通り取引を進める」と。何考えてんだか、息子が殺されかけたんだぞ。

 まぁ俺にデメリットはなかったから、黙っておいたけど。



 *



「美しいのは罪なのかねぇ?」


 俺も、サリンちゃんに惚れないようにせにゃならんな。

 んま、俺は組長やレオ・フライアーノみたいなロリコンじゃないから、心配はいらないな。


 サリンの友人の二人も、いつ組長に殺されるか分からないな。

 殺されるかどうかは分からないが、何かしら被害は受ける事になるだろう。片方は王子だから、何か一大事をやらかす事になるかもしれん。


 俺は壁に背をつき、ため息をつく。


「俺嫌だなぁ、サリンちゃんの泣き顔見るの」


 サリンちゃんには幸せでいて欲しい。

 でも、何がサリンちゃんにとっての幸せなのか、俺にはもう分からねェ。


「父親、か?」


 俺はスーツの懐から一枚の写真を取り出す。

 それは、まだ小学校中学年くらいのサリンちゃんと、赤城 翔太が笑顔で写ったもの。

 サリンちゃんと会ったあの後、部屋を確認してみたら、机の上で写真立てが下を向いていた。その写真立ての中に入っていたものだ。


 あの時、俺は何を思っただろうか。

 ただ、この写真の笑顔を奪ってしまった事に、酷く罪悪感を抱いて...そして、持ち帰った。もしあの子が落ち込んだ時に、見せてやろうと思って。


 だが...今この写真を見せるべきか、俺には分からない。

 あの子は父親の顔を忘れてしまった。幸せそうには見えないが、不幸にも見えない。

 これを見せる事で過去を思い出し、より辛い思いをさせてしまったら...そう考えると、一歩踏み出せない。


「会わせてやりてーよ、この二人を」


 もう無理だ。


 もう会う事なんて、出来ない。

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