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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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玖拾壱

 


「おいサリン、まずは怪我の調子を見せろ」

「そうだよサリンちゃん、絶対悪化してるから」


 私は無事日本に戻り、夏休み期間も終わった。

 やはりランスは国に戻っており連絡が取れなかったが、聡とは何とか、黒川さんの目を盗んでやり取りをする事が出来た。


 電話越しに「何かなかったか」と聞かれ、言葉を濁したら問いただされた。

 仕方なく簡単にイタリアであった事を話すと、「俺ちょっと組長殺してくるわ」とボソリと呟いたのを今でも覚えている。



 そして、学校に登校してくると、今日私の聞く二人の第一声が響いた。上記を参照して欲しい。


「何でランスまで知ってるの...?」

「聡が教えてくれたよ。まったく...目を離すといっつもこうなるんだから」

「人を問題児みたいに言わないで。後、此処一応教室だから。グロいよ、私の傷。だから此処で包帯を解こうとしないで」


 思わず腕を引っ込め、二人を小さく睨む。

 こんな場所で傷を広げられたんじゃ、視線が痛いどころの話じゃない。出来るだけ騒ぎ立てられたくないんだ。


「イタリアはどうだった?」

「凄い綺麗な場所だったよ。カジノでもぼろ儲けだったし、一片だけ見てみれば、普通に楽しい旅行だったんだけど...」

「もれなく、腕の傷がついてきたってわけか。代償は大きかったな」

「本当だよ...まぁ、私が悪いんだけどさ...」

「言っとくけど、次組長がサリンに何かしようもんなら、絶対に殴り込みに行くからな?」

「そうだよ、僕も殴り込みに行く」


 止めてよ本当に...。


 *


「...サリンちゃん、コレは?」

「『退部届』です」


 放課後私は、武道場に行って神楽坂先輩に「退部届」を出した。

 他の部員の目もあるから、先輩はこの間のように、殺し屋だったりの話は出来ないはずだ。この学園では、退部するには部長に直接届を渡さなければならない。


 ずっと部活を休んでいたし、この左腕じゃもう竹刀は握れない。

 痛みはなくとも、軽い物しか持てないのだ。

 おまけに、この人とは、早めに縁を切っておかなければ...。


「腕に怪我をしてしまって、治療に専念したいですし...ずっと、部活も休んでしまって、皆さんにもご迷惑をおかけしてしまったので」

「そう、かい...」

「今までありがとうございました。では」


 他の部員達は私を引きとめようとしたが、神楽坂先輩は何も言わなかった。

 もしかしたら、責任を感じているのかもしれない。殺し屋をけしかけた事で、私が神楽坂先輩と一緒にいる事に警戒している...みたいな。

 神楽坂先輩にも事情があったようだし、それについては特に気にしていない。まぁ、誰が私の命を狙っているのかは気になるけれど、そんな気配もないし。


 私は素早く竹刀入れと防具を持って、武道館を出た。

 楽しかった部活も...もうなくなる。


 学園に入学して半年程過ぎた。何だか、それ以上に長く感じてしまう。


 *


「部活、辞めたんですね」

「えぇ。まぁ、この腕じゃマトモに鞄も持てないんで」


 帰りの車の中で、黒川さんと駄弁る。

 そもそも、部活を辞める事を提案してきたのは黒川さんだ。私も元々退部を考えていたけれど、腕の傷という後押しもあった。

 優しい人達だった...イジメもなくなって、聡やランスとも一緒にいる事が出来て、好きな剣道が出来る...楽しかった、けれど...。


「仕方がないですから」

「残念です。サリンの剣さばき、好きだったんですけど」


 誰がこの傷をつけたんだよ...!


「そうだサリン、サリンの友人には、トランスフォード・和宏・フラットという名の人がいましたよね?」

「え、えぇ...ランスですね」

「彼、王子、ですよね?」

「...」


 え、何で知ってんのこの人!

 いや、黒川さん裏社会のドンだったね、逆に知らない方がおかしいよね。あーもう、そこまで調べがついているとは。

 ランスは一応、日本人とのハーフらしい。「和宏」ってついてるからある程度察しはついていたけれど。

 それに、王族だという事は、私にこっそり教えてくれたくらいで、他の人の前で口にはしていない。メディアにも取り上げられた事がないため、調べられても分からないはずだったが...。


「後、西園寺 聡」

「彼は、黒川さんもご存知だと思いますが」


 一応巴ちゃんのパーティには黒川さんも来る予定だったし、傘下だしね。


「まぁ知ってますけど。他の友人はいないんですか?」

「逆に出来ると思いますか...?」


 私は真性のボッチだぞ元々は。

 人とコミュニケーションが取るのが苦手なわけじゃないけれど、どうも同年代の友人が出来ない。敬遠されているような気がしてならない。


「そうですよね。サリン、ボッチですもんね」

「うっ...いざ口にされると地味に傷つく...」


 そんな、爽やかな笑顔で「ボッチですもんね」なんて言われたら、私反論出来ないじゃないですか。いや、反論する余地もないんですけどね。


「まぁ良いですよ。変な虫がサリンについていなくて。立場がハッキリしている人間の方が、私も監視しやすいですから」


 今の言葉は、聞かなかった事にしておこう。

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