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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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捌拾漆

 


 瞼の裏の現実は、いつも無情だ。


 抗うのに疲れたこれも、運命という事か。

 神様も薄情だなぁ...突然私の幸せを奪うんだもの。幸せの代わりに、黒川さんなんていうとんでもない悪魔まで寄越して...一体何がしたいんだか。


 前まではそんな事を思っていた。

 けど何故だか、今はもう、そんな事どうでも良くなって...黒川さんを怒らせない方法ばっかり考えてたな。

 何でだろ。


 怖いからかな。

 誰も傷つけたくないからかな。

 それとも...嫌われたくないからかな。


 黒川さんと出会うまで、父以外、私を愛してくれる人なんていなかった。

 私を求めてくれる人なんていなかった。

 父と別れて、もう独りになってしまうと思ったけれど...黒川さんは、父以上に私を求めてくれた。聡やランス以上に。



 嬉しかった。

 心配してくれるのが。毎日抱きしめてくれるのが。

 優しかった。

 機嫌を悪くした後の笑みが。私の傷つけた後の声が。


 父とは違った愛。それを失いたくなかったのかもしれない。


 ーーあれ?

 さっきから私、父父って言ってるけど...思い出せない、お父さんの顔が。

 あれ、あれ? 何で?

 大好きなお父さんなのに...何で思い出せないの? 

 自分の記憶を辿ろうとしても、全てがぼやけているように感じる。まだ数年しか経っていないのに、父の顔が思い出せない。

 何で?




「おや、サリン、起きたんですね」


 目を開けると、そこには黒川さんの姿があった。

 私は、ベッドに横たわっているようだ。自分の腰の上に乗った左腕が、痛い。指先を動かそうとしたが、その度に激痛が走る。前腕にキツく巻かれた包帯には、少し血が滲んでいる。

 あぁそうだ、左腕を、刺されたんだった。


「どうですか? 腕の調子は。すみません、どうしても我慢が出来なくなってしまって。少々加減はしたんですが」


 いや、どう考えても貫通してたよねあのナイフ。

 まぁ...死ななかったから良かったにしろ...。


 黒川さんは私の横たわるベッドに座り、頭を優しく撫でてきた。


「私は、サリンが嫌いだから傷つけてるわけじゃないんですよ。私はこう見えても臆病ですから...サリンを他の奴に取られるのが怖いんです。すみません」


 いつもより、優しい声。優しい目。優しい微笑み...あぁ、嫌われてない。良かった...。


 傷は案外深いようだ。

 傷は塞がれど、消える事はなさそうだ。もうコレ、左腕自体を封印しなきゃな。今は満足に関節も動かせないし。

 黒川さんはどうやら、私の自然治癒能力が高いと勘違いしているらしい。残念、私これでも、ノーマルピーポーなもんで。


「実はもう朝なんですよ。今日は...どうしましょうか。まだイタリアにはいますけど、何処か行きたい場所はありますか?」

「折角のイタリアなんで...『サン・ピエトロ大聖堂』とか行ってみたいです。人は多そうですけど...」

「良いですね...あそこは、ローマで最も美しい広場と言われているんですよ」


 イタリアの首都はローマ、そのローマの中には「バチカン市国」という世界最小の国がある。

「サン・ピエトロ大聖堂」は、そのバチカンの中にあるのだ。

 後は、「トレヴィの泉」だとか、真実の口がある「サンタ・マリア・イン・コスメディン教会」とかも行ってみたい...。


 イタリア観光なんて夢みたい!

 こうなったら、さっさと準備してローマの町をーー


「ッ!」


 起き上がろうとした途端、腕に鈍痛が走った。そうだ、怪我、してたんだった...。

 触らずとも、焼け付くような痛みが腕に染み込んでいる。これじゃあ少し振動を与えるだけでも激痛だ。


「あぁ...あまり動かない方が良いですよ。鎮痛剤を打とうかとも思ったんですが...マフィア連中の薬はどうも信用出来なくて」


 あぁ...そうですか。

 まぁ、これくらい我慢しなきゃ...もう子供じゃないんだ、ゴネていてもどうにもならないし。

 でも、痛みが引くまでは外に出れないだろうな...本も読みづらそうだし。つまらない。


 退屈です、と言ったら、黒川さんがイタリア語を教えてくれた。

 流石黒川さん、教え方が上手です。

 元々基礎は出来ていたので、覚えるのは簡単だった。

 イタリア語は英語が出来ていれば簡単だからね、それ程までに苦戦する必要もない。



 完璧ではないけれど...痛みが引くまで五日間、黒川さんにイタリア語を教えてもらいました。


 *


「そろそろ、良くなってきたでしょう?」

「えぇまぁ...」


 私、意外と治癒力高かったわ。

 傷は完全には塞がっていないが、痛みは段々無くなってきた。包帯を取るとグロい光景が待ち受けていそうなので私は見ていないが、(包帯取り替え担当の)黒川さん曰く、結構修復力が早いとの事。

 何か、私薬盛られてんじゃないの?

 貫通するまでブッ刺さって手術もしてないのに、五日で痛み引くわけがないじゃん。


 ...という事で少し問い詰めてみた所、食事に日本製の、微量な鎮痛剤を混ぜていたそうです。

 鎮痛剤ないって言ったじゃん。

 この五日間の精神の鍛錬は何だったのよ一体。


「いや、少量しか持ってきてなかったんで、一度に効く量を渡すとすぐになくなると思ったんですよ」


 まぁ、分かるけど...。

 でも、痛みが引いたのは良かった。あまり激しい動きは出来ないだろうが、ゆっくり歩く分には問題なかろう。

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