表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
84/109

捌拾肆

 


 黒川さんがボーイさんに呼ばれて奥へ行ってしまった後も、私はポーカーを続けた。一番楽だし。一番やりやすいし。

 勿論、ルーレットなんかもやってみたかったけれど、神が、神が私にポーカーをやれと囁いていた。正しく言えば神ではなく後藤さんが。


「ツキが回ってきた気がする。大丈夫だ、隣にゃ人生勝ち組男が約一名いるからな」

「そうですかね...」

「大体、こういうゲームはドーン!っと馬鹿デカイ金を賭けあうもんだ。ちまちま1ドル、2ドル賭けるよりかは、何百ドル、何千ドルと大金を出した方が楽しいぞ?」

「いや、私、そういうの苦手なんですって」

「失うものは何もねェよ。とりあえずやってみなって」

「はぁ...」


 そのセリフは、全てを失った人が言うものですよ、と言いたかったけど...私は良い子だから言わなかった。

 レオは後藤さんに同意して、うんうんと頷いている。日本語が分かるのだろうか。イタリア語で聞きたいけれど、何と言って良いのかが分からない。すると、レオは私を頭を優しく撫でてきた。


「あいつが行ったから、僕は日本語で喋るね」

「あれ...やっぱり喋れたんですね、レオさん」

「まだ勉強中だけど...」


 何で黒川さんと話す時、日本語じゃなかったんですか、と聞くと、


「え、何であんなクソ野郎に言葉を合わせなきゃいけないのさ」


 と返された。

 なるほど、レオはやはり黒川さんを毛嫌いしているのね。まぁ、イタリア語でも碌な事は言ってなさそうだったから、日本語でなくて良かった。両脇の悪魔の言葉は、聞かないに限る。


「まだ敬語の使い方がよく分からないんだよね...ねぇサリン、僕に日本語、教えてくれない?」

「結構流暢な日本語だと思うんですけど...敬語なら、黒川さんに教わった方がーーいやすみません」


 勉強中にしては、日本語のイントネーションが素晴らしい。日本育ちですーと言っても良いくらい。まだ少しイタリア語の訛りはあるが、それでも上手だ。

 黒川さんの名前を出した途端睨まれた。禁句を口にしてしまったよ。もう嫌だ疲れる...。

 本当に、敬語なら私じゃなくて、黒川さんに教わるべきだと思う。だって日常的にあんなに敬語使ってるし。私に対してだけだけど。それに、日本一の大学である「東真大学」も出ている。私より国語力だってあるはずだ。


「僕ね、サリンの事、好きになっちゃったかもしれない」

「どうも...」

「このままカジノ抜け出して、ランデブーでもしない?」

「丁重にお断りさせていただきます」


 そんな事したら殺されるぞ、カリブ海に放り投げられるぞ。


「じゃあ、その後藤って人も一緒で良いから。...僕、サリンみたいな可憐で素敵な女性、今まで出会った事なかったんだ。君は、他の女性とは全く違う...ねぇ、僕もっと、サリンの事知りたいな」


 流石、ナンパは礼儀とする国イタリアの方。口説くのは日本語でも上手いようだ。

 だが、生憎その言葉は私には響かない。レオはランスに似ている。適当に流していれば、拗ねたフリをしてくっついてくるはずだ。

 それに、ランスは天然誑しだが、レオは計算づくされた言葉を囁いてくる。女の扱いは手馴れているのだろう、ほら、後藤さんも笑いを堪えているじゃないか。


 でも、レオって何だか...


「ワンちゃんみたいで可愛い」

「えっ...?」


 呆然とするレオの頭を、私は撫でた。彼の赤毛が物凄く触り心地が良くて、モフモフしている。

 つい思った事を口走ってしまった...いや、もう良いや。

 口説き文句を囁きながらも、レオは子供のような純粋な目をしていた。ランスにそっくり。でも、それよりももっと仔犬に似ていた。「ワンちゃん」なんて小学生みたいな呼び方をしてしまったけれど、本当に可愛く見えた。イケメンなのに。


「さ、サリン...いや、ちょっと...あ...」


 頭を撫でていると、レオは見る見るうちに顔を赤らめさせた。自分でするのは慣れているようだけど、されるのはそうでもないみたい。

 ランスも、「愛でられるより、愛でる方が好き」と言っていた。彼も同じタイプだろう。

 いや...ランスとレオを重ねちゃダメか。ランスはランス、レオはレオだ。同じ風に見てしまったら失礼だろう。


『ごめん、本当、僕...』


 恥ずかしかったのか、両手で顔を覆ってしまった。あら可愛い。

 後藤さんが「もう止めてやれや」という目をしていたので、仕方なく私は手を引っ込めた。周りの目があったのをすっかり忘れていた。

 ごめんねレオ。

 小さな声で謝ったら、「良いんだよ」と返された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ