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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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捌拾参

 


 ーー黒川 真人視点ーー


 だがまぁ、ランベルトの愛し方は俺にも理解出来る気がする。


 ずっと一緒にいたいから閉じ込め、自分を刻みつけたいから傷つけ、自分を拒絶するから殺す。


 そんな愛し方なら、理解出来る。俺にも分かる。


『俺は、サリンをどうやって愛せば良いのか分からない』


 無意識に、口からこぼれ出た言葉が、ランベルトの手を止めた。

 この男に聞いてもどうしようもないものを。けれど、それでも、聞いてしまった。人を愛した事のあるこの男だからこそ、分かるものもあるのかもしれないと思ってしまった。


『愛す、か...』

『あぁ...サリンを手に入れたあの瞬間、俺の世界は色を取り戻した。だというのに、何故だか、この心の渇きは一向に満たされない』

『...』


 無駄だったか。この男は、自分の愛した者さえも手にかけた奴だ。

 ...誰かに問いかけても仕方のない事なのかもしれない。愛し方なんて学校で学べるものなんかじゃないようだしな。

 度し難いと後藤に文句を言われそうだ。あぁ、こんなに悩むなんて、一体何年振りだろう。サリンが妹になってから、悩み事なんて何一つなかった...いや、そんなもの、四六時中サリンの事を想って、考える暇がなかったとも言って良いだろう。


『まぁ...何だ、愛し方なんざ人それぞれだろう。わしは彼女を殺した。それが、わしの愛し方だったというだけの話だ。それに、既にマコトはその妹を十分愛しているだろう。お前が妹にしている事、それがお前の愛し方だろう』

『そう...なのか?』


 俺の愛し方?

 サリンを妹にして、毎日抱き枕にして、腕に傷をつけて、必要ならばあの子のために人を殺して、見えないカゴに閉じ込める...これが、俺の愛し方?


『悩むという事は、その子を愛しているという証拠だ。どんな形であれ、相手が幸せで笑顔ならば...それは自分の愛し方といっても過言ではないかもしれん』

『それが、どんな非道な愛し方でも? それは正しいと言えるか?』

『言っただろう、”自分の愛し方”だと。愛に基準はない。正しいも間違っているも、それは自分達で決める事だ。妹は笑顔か? 幸せか?』


 ランベルトの言葉に乗せられ、俺は今日のサリンの様子を思い出す。この男の息子に絡まれて迷惑そうにはしていたが、それまでは、俺とイタリアにくる事を楽しみにしていてくれた。日本でもそうだ、毎日笑顔で俺の話を聞いてくれたし、寝る時は自分から抱きついてきてくれる事もあった。

 この俺の愛し方で、サリンは笑顔だ。幸せだ。...そうか、俺はこのままで良いのか。


『あぁ、あの子は...きっと幸せだ』

『なら良かった。さて、別の話でもしようじゃないか。近頃、マコトは表事業ばかりに目がいっているようだな』

『あの子は裏を嫌うからな、真っ当な方法で稼がなきゃならない気がする』

『それもまた、愛だ。だが、そんな事はバレなきゃ問題ない』


 彼はワイングラスを置き、近くのアタッシュケースを取り出して中身を俺に見せた。

 数丁の拳銃...ベレッタに、デザートイーグル、その他もろもろのスタンダードな自動拳銃が取り揃えられている。が、銃にあまり興味はない。現代日本では違法だし、そもそも組同士の抗争もほとんどない。「犬飼組」や「戦嶽組」とも良好な関係を維持している。

 今回俺とランベルトは、取引という名目であってはいるが、特に売買しようなんざ思ってはいない。単純に久しぶりに会って、話をしたかったというのもある。


『買うか? 護衛に持たせてやれ、上物だぞ』

『...後藤に聞いておこう』


 *


 それから、何時間か酒を飲んで駄弁っていたら、かなりの時間が過ぎてしまった。酒は恐ろしい。時間をいつの間にか早めてしまう。

 サリンも疲れている頃だろう...今日はもう部屋に戻らせて、ゆっくり寝させないと。

 かくゆう俺も、酒の飲み過ぎで少し眠気を感じてきた。酒は強い方だが、酒瓶を何本も飲むとなると話は別だ。それもこんなジジイと一緒だなんて、気分が悪い。


 ランベルトに一言述べて、俺は再び地下カジノへ戻った。

 あぁ、あの忌々しいレオ・フライアーノに、何か変な事をされていないか不安でたまらない。いざという時は後藤がいるから大丈夫だろうが、こっそり体を触られていたり、強引にキスをされていそうで心配だ。あの子は間違っている事は間違っていると言えるが、人に迷惑をかけたがらない。もしそんな目に遭っていても、我慢して、中々声を荒げようとはしないだろう。

 そのために後藤がいるわけだが、あの鈍感男はこういう時は役に立たない。


「おや...何の騒ぎだ?」


 会場に入ってみれば、ルーレットやブラックジャック等にゲームに人が見えなかった。代わりに、ポーカー台周辺に大勢の人が集まっている。一体何事だろうか。


「やった! また『ロイヤルストレートフラッシュ』!」

『くそ...何でそんなに良いカードが...!』


 観衆から感嘆の声が漏れる。その前にサリンの声がした。「ロイヤルストレートフラッシュ」...? 珍しいな。あの運の悪いサリンが最強のカードを出すだなんて。

 気になったので、人を掻き分けて前の方に進んでいると、見覚えのある富豪がポーカー台に座り、苦い顔をして手元のカードを持っているのが見えた。


「あ、組長、お帰りなさい」


 後藤がホクホクした顔をしながら言う。気持ち悪い。


「何の騒ぎだ、これは」

「いやぁ、組長が取引に行った途端、サリンが絶好調になり始めて...物凄いポーカーで稼いでるんですよね〜」


 後藤が顎でサリンを指す。確かに、笑顔のサリンの周りには、大量のチップが積まれている。レオ・ブランシャーノも驚いている様子。どうやら、賄賂を握らせたというわけではないようだ。

 ん? 待て、”俺が取引に行った途端”?


「おい、俺がサリンの幸運を吸い取っているとでも言うつもりか?」

「いえいえ、そういうわけではなくてですね。えーと...はい、まぁそうです」

「後で殺すから覚悟しておけ」


 遠慮のない奴め。

 だが、勝って嬉しそうなサリンの表情を見ていると、俺も自然と笑顔が綻んできた。

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