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「キャー! 黒川様ぁ、いらっしゃいませぇ」


 銀座の高級クラブが立ち並ぶ通りに、「チェリー」という店があった。

 その店は、外見はさほど派手ではないが、看板に埋め込まれた宝石のようなものからして、高尚な店のようにも感じられる。聞いた所、会員制ではないが、普通のクラブの数倍のお値段はするんだとか。

 黒川さんに誘われて中へ入ると、胸元をギリギリまで露出した女性達がすぐさま黒川さんに抱きつくのが見えた。

 どういうサービスなんだろう...まぁ、黒川さんも男という事か。


「違いますよサリン。勘違いしないでください。私は一途な人間ですからね?」

「もう〜それは私の事ですかぁ? 黒川様」

「私ですよねぇ?」

「もう、カッコイイ人!」


 黒川さんの容姿や権力にメロメロのホステス達は、彼のスーツの裾や腕を強く掴んで、店の中へと連行していった。

 私と後藤さんは、彼の後ろ姿を見ながら苦笑するしかない。というか、それ以外にどう反応しろと。


 クラブはまるで、お城の一角ような雰囲気だ。

 たくさんの赤いソファが様々な形で並び、高い天井からはシャンデリア、床は大理石。ホステスはあまり気品溢れるような方々ではないが...内装には拘っている模様。

 それもその筈。

 他のターブルでは、テレビや新聞で見た事のある何処かの大企業の社長やヤクザの幹部等ーー大勢の金持ち達がホステスと駄弁っていた。

 これがクラブか...と感嘆のため息を洩らしていると、誰かに肩を叩かれた。


「もしかして、貴女がサリンちゃんかしら?」


 紫色の着物を着た、上品そうな女性だ。

 おしとやかで妖艶な笑みを浮かべている。


「は、はい...そうです」

「あら...黒川さんに聞いた通りの子ね。私は桜桃サクラ。この店のママよ。よろしく」

「黒川 佐凜です。よ、よろしくお願いします」


 桜桃さんは、大きなソファに案内されている黒川さんに目をやった。

 ホステス達にベタベタされているが、あまり嬉しそうな顔をしていない。寧ろ眉を顰め、嫌がっているようにも見える。


「貴女のお兄様は、本当に面白い方よ。そして...本当にサリンちゃんに一途な方だわ」


 彼女は私を黒川さんと同じソファへ誘った。私がそのソファに座ると、桜桃さんも着いて来る。


「『黒川組』は勿論クスリの売買も行っているけども...組長である黒川さん自身は、一度も使った事がないそうよ」

「そうなんですか...」


 テッキリやってるものかと。でも、黒川さんは基本的に穏やかだからね。穏やか...いや、穏やかじゃありませんね。


「でも、一ヶ月くらい前に此処に来た時...クスリを始めたと言っていたわ」

「え?」

「サリンという名前のクスリだそうよ。貴女の身の上は、私も知ってるわ。犬飼さんがペラペラと話していたしね...本当、あの人はアルコールが入ると何でもペラペラ喋るんだから」

「私が、クスリ...」

「そうよ。あぁ、悪い意味じゃないのよ。もう...貴女無しでは生きていけないとまで言っていたわ。本当に愛されているのね」

「...そうですね」


 果たしてこれは、愛されていると言っても良いのだろうか。

 私だって、黒川さんの気持ちくらい分かっているつもりだ。

 少し前まで赤の他人だった少女を、すぐに愛せるわけがない。こうは言われても、私は所詮、日々のストレスの発散法の一つなだけで。

 あまり普通ではないが、毎晩私を抱きしめる事で、彼は疲れを忘れられると言う。意味が分からない。


 私が悩んでいる様子を見て、桜桃さんはクスリと笑う。

 ふと顔を上げると、向かいのソファで、黒川さんがホステスに囲まれているのが見えた。これで黒川さんが札束でも持って高笑いをしていたら、完全に悪役なんですけどね...。


「黒川さん、サリンちゃんは本当に可愛い子ですね」

「あぁ、当たり前だ。俺の妹なのだからな」

「え...?」

「どうしたんですか? サリン」


 少し前から気がついていたが、黒川さんの態度が、私と別の人間では打って変わっている。これは...私が妹、なのだからかな?

 それに、黒川さんが他人を見る目が怖い。警戒心なんかの現れかもしれないが、正直寒気がする。まぁ、私と目を合わせる時はいつもの優しい視線なんだけど...。


「ねぇ黒川さぁん、あの子がサリンちゃん?」

「そうだが」

「やだ可愛い〜、さっすが黒川さんの妹さんねん」


 ホステス達は、若干薄ら笑うような目を私に向けてきた。

 邪魔だ、どっか行ってろ。

 そんな事を言っているようにも見えた。

 この店の中で私に微笑みかけてくれるのは、黒川さんと桜桃さんだけか。私の来た意味は何だろう。完全に除け者扱いなんですが如何に。


「貴女達、犬飼さんは何処に行ったのかしら? さっきまで此処にいたはずだけど...」

「はいは〜い! みんな大好き犬飼だよぉ!」

『キャー♡』


 何か黒いものが私の横を通り、ホステス達の群れに飛び込んだ。

 一体どんな生き物の仕業だと目を凝らして見ると、そこには顔を高揚させた犬飼さんがいた。お酒を飲んでいるのか、顔が真っ赤だ。


「あいっかわらず君達は美しいですね! 黒川さんもそう思うでしょう?」

「まぁ...一応同意しておくが」

「兄さん...何やってんだよ...」


 すると、店の奥から修くんがやってきた。



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