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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾玖

 


 不穏な空気はまだ止まず。

 それから二人は大人気なく言い争っている。「止めて! 私のために争わないで!」とボケをかましても良いが、私にそんな勇気はない。

 まだ真夜中ではないものの、カジノには多くの人がいる。見覚えのある裏社会の首領と次期首領が火花を散らしているのだ、何を話しているのか気になって見てしまうのも無理はない。あちらこちらから視線が飛んでくる。


『首から下をコンクリート詰めにしてカリブ海に放り投げるぞ』

『おやおや、日本のマフィアは随分と野蛮だ。薬漬けにして売り飛ばしますよ』

『お前も人の事は言えない』


 何を言っているのか、知りたくない。周囲の人の反応からして、あまり良い事は言っていない事だけは確かだ。


『では、貴方を殺してサリンを薬漬けにします。観賞用に人形にしておくのも良いですね。僕だけの玩具にするのもアリです』

『本気で殺すぞ』


 黒川さんは怒りに顔を歪めて銃を取り出し、レオの腹に突きつけた。

 レオめ、私を引き合いに出すと黒川さんが怒るのに...。寧ろそれが狙いかもしれない。黒川さんを止めたいけれど、どうやってこれ以上怒りを増幅させる事なく諌められるか...。

 すると、ポンと優しく、後ろから頭に手が乗せられた。温かい、大きな手だ。持ち主を見上げると、呆れ顔の後藤さんがいた。傍には大量にチップを抱えたボーイが控えている。彼は、


『おーい、お二人さん。こんな場所で言い争いは止めましょうや。此処はカジノ。ギャンブルと運の聖地ですぜ。サリンちゃんも怖がってるって。そんなに余所見してると、サリンちゃん、俺が貰っちゃうぞ?』

『『あ゛?』』

『あ、すんません』


 しかし、後藤さんの言葉に少し居心地の悪さを感じたのか、両者矛を収めてくれた。


「すみませんサリン、不快な思いをさせてしまいましたね」

『僕...どうしても君と一緒にいたくて。すみません』


 そして、口々に謝罪の言葉を述べてくる。互いにまだ睨み合ってはいるが、反省はしている様子。えらいえらい。


「『さて、そういうわけで...』」

「ん?」


 二人は後藤さんを押しのけ、我先にと腕を組んできた。右に黒川さん、左にレオ。あら両手に花...的な楽観的な考え方は私には出来ません。イケメンめ、離せ、怖い...主に周りの目が。

 黒川さんはまだ良い。問題はレオだ。まだ出会って数十分だというのに酷く馴れ馴れしい。既に疲れている私を放り、二人は再び毒を吐き始める。


『その汚らしい手をサリンから離せ』

『嫌ですね〜。ミスター・クロカワ、貴方こそサリンから手を離しなさい』

『サリンは俺と回る』

『僕とです。貴方は取引があるでしょう?』


 あのー、私に拒否権はないのでしょうか...? このままじゃラチが明かない。そうだ、こういう時は、


「わ、私、後藤さんと行きますね?」


 そう言って後藤さんの方を向く。


「ちょ、俺を巻き込むなよサリンちゃん...」

「喧嘩を仲裁した時点で後藤さんは当事者です。一緒に行きましょう」

「ま、良いけどさ...」


 後藤さんは別段嫌そうな顔はしていない。私とカジノを回るのも悪くないと思ってくれたのだろう。しかし問題は脇の二人だ。先ほどから吹き飛ばさんばかりの殺気を後藤さんにぶつけている。可哀想に。

 矛先が後藤さんに向いてしまった。後で謝るべきだろう。


「後藤、お前後で殺す」

『ブラックリストに載せておきます』

「サリンちゃーん、やっぱ俺パスの方向で」

「後藤さーんッ?!」

「サリン、というわけで一緒に行きましょう?」

『いえ、僕と...』

「あぁもう...それなら、三人で一緒に行きましょうよ。それなら、良いですよね?」


 *


「離れろ腐れマフィア」

『そちらこそ離しなさいマフィアもどき』


 お前等が離せよ犯罪者共。


『レオ様のお隣にいる子は、一体誰かしら』

『私、あの黒髪の方を見た事があるわ』

『なるほど、日本のマフィアの首領か...あの娘は、その妹というわけか』

『レオ君も日本のマフィアも、随分と彼女に馴れ馴れしくしているな...』


 何を言っているのかは定かではないが、確実に皆、こちらを見ている。私達(主に両脇)の事を噂している。白い目で見られているッ...。

 一緒に回ると決めても、まだ二人は手を離してくれない。後数分この状態でいたら、私は胃潰瘍で死ぬ。ストレスマッハで死す。適当に豪華なカジノをブラブラと回っていると、両脇組は淡々とゲームを吟味し始めた。まぁ、何だろうな...人の目を気にしないのは良い事だ。きっと。


「サリン、ポーカーに行きましょう。確実に勝ちに導きますから」

『いいえ、ルーレットに行きましょうよ。僕と一緒にいれば、一攫千金間違いなしですよ』


 あ、これ、何方か選ばなきゃいけない奴だ。

 少し後ろに目を向けると、後藤さんが諦めの表情を浮かべている。逃げ道はないようだ。レオは...ルーレットに誘っているのか。レオはディーラーにいくらか握らせる気だろう。ディーラーは、自由自在に玉を操れるという。それならば、一攫千金は簡単だろう。

 しかし、折角カジノに来たんだ。ズルして遊んでも楽しくない。ならばとりあえず、慣れているゲームの...


「ポーカーが良いです。黒川さんとしてましたし」

「フッ...ですよね〜」

『チッ』


 黒川さんは勝ち誇った顔でレオの小突き始めた。対してレオは舌打ちをして私と組む手を強める。子供が二人、両脇にいる...そして痛い。心も体も。



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