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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾漆

 



「後藤さーん、ちょっと、後藤っすわァーん! 行かないで! 私を見捨てないで!」


 私の悲痛の叫びを無視し、後藤さんは一瞥もせずに部屋を出てしまった。取り残されたのは、獣のような目をした黒川さんと、孤立無援な私。

 唯一の常識人で味方である後藤さんは無残にも部屋を出て行ってしまった。これからは一人で戦うしか生き延びる術はないのだ。


 ...と、地の文で少し遊んでみたが、状況はどうにも一変しない。

 それ所か、黒川さんは、私がこれ以上抵抗しないのを良い事に、この大きなソファに押し倒してきた。


「折角二人きりなんですから、私以外の名前を呼ばないでください」

「すみません...」


 二人きりの機会なんて腐る程あるだろうが!とも言えず。機嫌が悪い時恒例の黒笑を浮かべちゃうんだから、それまた恐ろしいのなんのって。

 スーツの癖に無駄に色気があるし、何か良い香りもするし、痛くない程度に抱きついてくるし...何なんだこの人は。


「サリン、好い加減苗字で呼ぶの、止めましょうよ。サリンも黒川さんですし」

「でも、慣れてるんですよね...」

「真人さん、とか、お兄ちゃん、とか呼ばれたいです」

「勝手に妄想しててください」


 真人さんならまだしも、お兄ちゃん呼びは...私が恥ずかしい。

 まぁ、兄妹になって数年は経っているのに、まだお互い他人行儀だなんておかしな話だ。黒川さんに至っては、私にだけしか敬語使わないし。

 私も、兄妹だし? 出来れば敬語は使いたくないよ、心の距離感が生まれるし。


「酷いですねぇ、心外です」

「んぁ...そ、そんな今にも食らいつきそうな表情で覆い被さらないでください」


 物理的な距離感は0に等しいのだけれど。


「誘ってるんですか? 本当に食べてあげても良いんですよ?」

「止めてください、後藤さん呼びますよ」

「...ら」

「え?」

「...だから、俺以外の名前を口にするな!」

「ッ...」


 後藤さんの名前を出した途端、黒川さんが突然叫んだ。ビクッとして顔を見上げるが、黒川さんの顔は、垂れる彼の前髪でよく見えない。ただ、歯ぎしりをし、苦しそうに両拳を強く握りしめているのだけは分かる。

 嗚呼、さっき後藤さんの名前を呼んだ時の彼の様子を考えて言葉を発するべきだったか。何て声をかければ良いかな。

 謝っても逆上されそうだけど、このまま何も言わないよりかはまだマシか。よし、サリン頑張る。


「ごめんなさい...お兄ちゃん」

「...サリン、今のもう一回。語尾に『♡』をつけて、もっと愛おしげに涙目で、上目遣いで」


 いや、そんなビデオカメラ突きつけながら言わないでください。

 しかし、この羞恥プレイで死が免れるのならば安いものだ。捨て身作戦で、兎に角自分を捨てるんだサリン。


「...ごめんなさい、お兄ちゃん♡」

「こちらこそ、恐い思いをさせてすみません...」


 ビデオカメラを置くと、黒川さんは優しい笑みを作って私を抱きしめた。もう怒っていないようだ、さりげないタメ口と「お兄ちゃん」が効いた。

 黒川さんは私の服の布を掴み、強く握りしめている。そして、何度も何度も「すみません」と、耳元で囁いてくる。私は怒ってなんていないのに。寧ろ、怒られて当然だというのに。


「この頃、独占欲が強くなっている気がするんです。心なしか、段々サリンが私から離れていっているような気がしてならないんです。ただ、二人きりなのに後藤の名前が出るのが嫌で、つい...」

「わ、私こそすみません。黒川さんは、私と二人だけの時間を大切にしたかっただけなんですよね?」


 珍しい、黒川さんがこんなに謝ってくるなんて。でも、そんな彼の気持ちを察する事の出来なかった私にこそ非がある。


「サリン、サリンは・・・・...私から離れていったりなんて、しませんよね?」

「はい、勿論です。ずっと一緒にいますよ」

「良かった...」


 何だか、いつもと様子が違う気がする。いつもより甘えん坊、というか...子供みたい。

 人肌恋しくなっているのか、いつにも増して強く抱きしめ始めた。これだけは絶対に離さない、とそんな声が聞こえてきた気がした。...少し自意識過剰か。

 でも、こんな黒川さんも悪くない。人から強く欲されるのも、悪くない。


 それから黒川さんは抱きつくのを止めて、この間のように私を着せ替え人形にし始めた。

 数多のドレスを着せ、写真に収める黒川さんはとても楽しそうだ。私は全くもって楽しくないけれど。まぁ...普段仕事詰めで休む事なんてないんだ、今日も仕事でずっと一緒にはいられない。

 ならば少しくらい、黒川さんの喜ぶような事をしてあげても良いかもしれない。だって一応、妹だし。


「あぁサリン、可愛い! 可愛いですよ!」

「黒川さん、これちょっと露出多すぎじゃないですか?」


 峰だか不二だか、そんな感じの名前の女性が着こなすような胸元パックリのセクシードレスや、生足が完全に丸見えなチャイナドレス等々ーー私にはハードルが高すぎる。私、まだ十五歳なんですけど。

 しかし、そういう物は着せて撮るだけのようであって、本題のカジノの着ていくドレスはまた別に用意されていた。この何十着とあるドレスの合計金額は、一体どれ程高くつく事だろう。知りたくない。

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