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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾伍

 



「黒川さんと後藤さんって、一体どんな関係なんですか?」


 黒川さんが戻ってきたので、そんな質問をしてみた。前々から気になっていた事だし、黒川さんも嫌そうな顔はしていない。

 温かいコーヒーを口に含むと、少し考えた様子で彼は答えた。


「後藤とは幼い頃からの友人です。彼の親もヤクザでね、黒川組の幹部だったんで、よく二人で遊んでいたんですよ」

「やっぱり、ヤクザの子はヤクザになるんですかね?」

「うーん...近頃のヤクザは自由ですからね」


 ヤクザが親でも、案外好きな事して良いと言われる事もあるんですよ、と付け加える。

 なら私にも好きな事をさせてください、と言いたいが、もし口に出したら銃を突きつけられる気がする。口が裂けても言えないセリフだ。


 まぁ、今の黒川さんはヤクザというより大企業の社長であり、裏世界のドンだから、私は逃れようにも逃れられない運命にあるんですけどね。


「サリンと後藤くらいですよ...私が本当に信じられるのは」

桜桃サクラさんはどうなんですか?」

「彼女は...中々腹黒いですから」


 もし桜桃サクラさんが今の言葉を聞いたら、貴方に言われたくありません、とバッサリ切り捨てるんだろう。私もそう思う。黒川さんに腹黒いとか言われたくない。


 それにしても、美味しいなぁこのサンドイッチ。

 黒川さんの手作りですか?と聞くと、嬉しそうな顔で頷かれた。黒川さんの料理は元々美味しいが、こんな一般的なものも作れるなんて。サンドイッチ程度なら誰でも作れるだろうけど。

 黒川さん、きっとヤクザじゃなかったら相当モテるんだろうな。顔も良くて、お金も持ってて、料理も出来て、身長も高くて、高学歴で...。性格はあれだけど、ヤクザでなくとも女を侍らせる悪い人になっているはずだ。きっとそう。

 私だったら絶対に逃げるわ、こんな人見かけたら。


「何考えてるんですか?」

「い、いえ...」


 今考えてみると、黒川さん...光源氏に似ている。女誑しではないが、何だか黒川さんと光源氏、私と紫の上が被る。

 いや、ダメだ。考えちゃダメだ。黒川さんは決してロリコンでは...ロリコン、では...。


 え、ロリコンなのかな?


 私と黒川さんが初めて会ったのは、中二の時だから...私は十三歳。それでも黒川さんは二十代。加えて妹にした癖に抱き枕...え。


「単刀直入に聞きます。黒川さんはロリコンですか?」

「サリンはこの頃、遠慮がなくなってきましたね...」


 だって黒川さんは私を殺さないって確信付いてきたもの。

 いや、確信付いたとは言いつつ絶対とも言えないのだけれど、黒川さんは別段自分から離れようとしなければ脅す程度だし、塩対応でも少し文句を言われる程度だし、お兄ちゃんだし。

 そのまま否定したって良いのに、黒川さんは少し困った様子を見せ、サンドイッチを口に含んだ。もしや、一番嫌な回答が返ってくるのではないかと思い、つい身構える。


「そこらがよく分からなくなってきたんです」

「分からない?」

「えぇ。サリンは妹ですが、可愛くて可愛くて仕方がないんです。だから離したくないし、独り占めしたいと思う。けれど、決して劣情があるわけでもありませんし。まぁ、言えばシスコンですね。だから大丈夫ですよ、襲ったりしませんから」


 まぁロリコンよりかマシか。

 こんなに年の差があるんだ、恋愛対象にはなるまい。あぁ、少しホッとした。光源氏計画とか立てられてなかったからホッとした。


「それにしても、何で私を妹にしようって思ったんですか? 別に妹じゃなくても良いでしょうに」

「おや、妹じゃない方が良かったですか? うーん...サリンが悶える程可愛かったというのもありますが...恋人や愛人なんかではなく、家族として一緒にいたいと思ったからですよ」


 初めて会った時は、何故私が抱き枕なのかと質問した。あの時彼は、何と答えたか...よく覚えていない。

 黒川さんは、笑ってはいるものの、その表情に何処か暗く悲しいものを感じてしまう。笑顔を取り繕っているような、そんな感じだ。本当は...家族が欲しかっただけなのかもしれないな。私以外に家族はいないと聞いた。もしかすると、一人が寂しかっただけなのかもしれない。


「...と、いうのは建前で、本当はサリンが物凄く可愛かったので、欲しくなったからです。ほら、ペットショップで動物に一目惚れしてつい買ってしまうのと同じ感覚です」


 ...。さっきの撤回。

 私はそんな軽い気持ちで妹にされたのか。まぁ、今はその気紛れに感謝するとして...。


「可愛がっているペットが他人に懐くのって、物凄くムカつきませんか? やっぱり自分だけに甘えて欲しいですよね」

「わ、私はペットですか...」

「はい」


 そんな満面の笑みで答えられても困ります。

 しかし、先ほどの辛気臭さは何処か宇宙の彼方へ飛んで行ってしまった。これで良い。黒川さんは、その優しい笑みの方がずっと似合ってます。


 少し話していたら、段々と眠気が体を襲ってきた。

 おかしいな、昨日はちゃんと寝たはずなのに...。


 眩む視界の最後に見えたのは、黒川さんの姿だった。

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