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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾肆

 


「ポーカー...ですか?」

「えぇ」


 ポーカーは、トランプを五枚揃え、その強さを揃えるゲーム。ほとんど運を競うものだが、少々頭も使うよう。どのカードを捨てるか、どのタイミングでカードを出すか。

 トランプを取り出して配り始める黒川さんの目は、何か企んでいるように見えた。ポーカーか...お父さんが好きだったからよくやっていたけど、私は運が全然ないからいつも負けてばかりだったんだよな。ある意味の心理戦でもあるから、経験不足という事もあったんだろうけど...。


「私が親ですね」


 黒川さんの手元を見ると、ジャックのカードが置かれている。はは...負けますな。

 生まれながらにして、とてつもない運を持っていそうな黒川さん相手じゃ、私なんかが勝てるわけがない。第一、数年前にやった切りだからルールもうろ覚えだし、イカサマしてきそうだし。


「イカサマなんてしませんよ。私は基本、嘘はつきませんし」

「そ、そうですか...」

「賭け金は...まぁ良いでしょう。そうだ、どうせなら何か特典でもつけましょう」

「特典、ですか?」

「はい」


 黒川さんの顔にダークスマイルが浮かんだと同時に、機体が動き始めた。エンジン音なんて聞こえなかったのに...流石最新型、防音設備もバッチリなようだ。

 五枚カードを配り終わると、残りの札を真ん中に置く。自分の札を見てみると、思わずため息が漏れてしまった。弱っ、しかもバラバラ!

 壊滅的な状態だ。黒川さんの策略ですか? 怖いです。


「サリンが負けたら、私にキスしてくださいね。私が負けたら...イタリアでも本を買ってあげます」

「が、頑張ります」

「サリン、ポーカーフェイスは大事ですよ?」


 そう言うと黒川さんはニコニコといつもの笑顔を見せつける。良いカードが揃ってたんだな、分かるぞ。

 キスかぁ...頬くらいなら良いですよ。ファーストキスはーー希望は全く見えないけどーー最愛の人に差し上げる予定なので。あぁ、私結婚出来るのかな。出来ても完全に監視付きの新婚生活になりそうだな。就職は出来そうだが、下手すると万年未婚もあり得る。...と、今はポーカーに集中集中。


 *


「はい、これで二十六回目の私の勝利です」

「な、何で勝てないの...?!」

「貴女の運は一体何処に吸い取られているのですか?」


 あれから何時間もポーカーをし続けたというのに、一向に私に勝機が向く気配はなかった。これで二十六回目の敗北。私は黒川さんに二十六回もキスをしなければならないのか。...私に死ねと申すか。

 嫌ではない。けれど、私も一応年頃の女の子だからさ...そんな恋人ごっこみたい事はお兄ちゃんとあんまりしたくないわけよ、分かる? しかし、お兄ちゃんは恋人ごっこがしたい様子。嬉しそうにまたトランプをシャッフルし始めた。これはもう運云々ではなく、イカサマではないかと疑ってしまう。


「別にキスでなくても構わないんですよ。混浴でも心中でも全然おー「キスの方向でお願いします」


 何怖い事言ってるんですか。たかがトランプゲーム如きでそんな事出来ません。

 私のイタリア本がぁ...絶対に勝てる!なんて一回も思えなかった。何故だか良いカードが黒川さんの下ばかりに行ってしまう。

 運に関しては...あれだ、暗殺者に毒盛られた一件で使い切りました。もう今年の運はゼロです。


「黒川さん、もうポーカーは止めにしませんか? 私、少しお腹が減ってきました」

「そうですね。...では、昼食を取ってきますので、サリンは待っていてください」

「お手伝いします」

「大丈夫ですよ」


 そう言うと黒川さんは立ち上がり、機内の後ろの方に消えた。よし、敗北増加回避。このまま話を違う方向に持っていければ、どうにかキスの件は誤魔化せる。

 まぁ...身売りした立場からしてみれば、私が凄く恵まれているのは分かっている。だが、全てを容認してしまうと、黒川さんあいつはトコトン付け上がる。少し抑え気味が丁度良い。


 黒川さんが戻って来るまでしばらくかかりそうなので、私は立ち上がって外の景色を見た。外の景色とは言っても、映像を映し出しているだけなのだけれど、とても綺麗だ。まるで本物のガラス越しに見ているようで。

 今は何処の上空を飛んでいるんだろう。青い空、白い雲、そしてその下にある緑の地上。ビルや建物の立ち並ぶ都会的な風景とは打って変わり、山脈のようなものが見えた。風景画とはまた違った上空からの景色は、作り物のように美しい。現在技術万歳。

 初めての飛行機だが、私は案外高い所は平気なようだ。

 しばらくすると、黒川さんがお盆を抱えて戻って来た。


「すみません、少し手間取ってしまいまして...」

「いえ。ありがとうございます」


 片付けられたテーブルの上に二人分のサンドイッチとコーヒーを置くと、今度は操縦席の方に行ってしまった。後藤さんの分も準備してたんだ...何だかんだ言っても優しい人だな。後藤さんと私に対しては。

 そういえば、後藤さんと黒川さんの関係ってどんな感じなのかな?



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