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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾弐

 



 ーー後藤 謙次視点ーー


「面倒な事になっちまったなァ...」


 組長に呼び出され、何事かと思いきやイタリア旅行の件だった。まぁ俺が警護についたら大丈夫だろうけど、結構前に一度誘拐されちゃったからな...助けたけど。サリンちゃんの警護ねぇ...あの子は大人しいから楽だが、いつ誘拐されるか分からないから大変だ。


 この頃、組長のサリンちゃんに対する愛情が大きいなと感じる。確かにサリンちゃんは、超絶イノセントで悶える程可愛らしい俺の癒しだ。しかし組長...大好き過ぎですよ。シスコンでは済ませられない程重症になってきた。

 例えば、衣服の中にたくさん写真を隠し持っていたり、ロケットの中に顔写真と切った爪を入れていたり、偶に写真見ながら鼻血垂らしてハァハァ言ってたりする。ちょっとッつーか...結構引きます、組長。


「あ、後藤さん、組長は何と?」

「あぁ...うん、サリンちゃんもイタリアに連れていく事になったから、パスポートとジェットの準備宜しくな」

「畏まりました!」


 とりあえず部下に指示を出しておいて、俺はあらかじめ買っておいた缶コーヒーを飲む。あぁ...この頃何かストレス溜まるんだよなぁ...組長みたいにサリンちゃんを抱きしめて癒されてぇなぁ...。


 というかさぁ、大丈夫なのかな? 法律的に。いやね、ヤクザが法律云々言っちゃダメだとは思うんだけどね。

 サリンちゃんは、組長の妹になって何年か経ったが、かなり綺麗になった。髪に艶が出来、整いに整った顔立ちに、白い肌...きっと、組長の妹になって環境が変わったからこその美しさだと思う。大和撫子? 天照大神? いや、女神というより天使なんだけど...。

 サリンちゃんも年頃の娘だし、体付きだって大人の女性に近づいてきた。そんなサリンちゃんを組長は毎日のように抱き枕にしているが...大丈夫だろうか。その、組長の理性的な意味で。


 俺がそういう目でサリンちゃんを見ている訳ではないが、結構大人の色気を持ってるからねあの子! 一緒に寝てたらいつ理性がはち切れてもおかしくないよ!


「組長の妹様、中々お綺麗になりましたよね」

「そうだな。サリンちゃんが組長の実妹じゃなくて良かった。もし実妹でも綺麗だったろうが...性格がな、絶対酷いはずだ。組長の実妹だったら」

「分かります。絶対キツイ性格になってましたよね、実妹だったら」


 組長の旧友だからあんまり悪くは言えないが、あの人は本当に腹黒い。加えて近年稀に見るか見ないかのサディストで、ヤンデレだ。もし実妹がいたら...あれが...うん、怖い、超怖い。


「サリンちゃんが...サリンちゃんで良かった...!」

「えぇ、後藤さんが羨ましいです。組長に睨まれる事なく妹様といられるのですから」

「俺だってなァ...サリンちゃんに笑いかけられたら凄い組長に睨まれるんだぞ? 癒しと恐怖に板ばさみにされてるんだぞ?」

「妹様の警護はしたいですが、組長に睨まれるのだけは御免です」


 サリンちゃんは、普通のヤクザ連中でも時折姿を見る機会がある。組長の妹見たさに皆疼いているが、若い衆ではサリンちゃんに一目惚れする奴も珍しくはない。可愛いしな。

 ...っと、俺も少し組長のように思考を侵されているようだ。サリンちゃんはただ、身の上の可哀想な組長の妹、ただそれだけ。


 流石に俺はサリンちゃんに手ェ出すなんて事はしないが、他の連中は分からない。だからこそ組長は、俺を信用してサリンちゃんの警護を一任してくれているのだろう。これでも幹部なわけで、本当は警護なんざ下っ端のするものだが、それだけは別物らしい。

 サリンちゃんは時々「嫌じゃないんですか? 警護」と心配そうな顔で聞いてくるが、別に苦じゃない。寧ろこんな楽な仕事でお金ガッポリ貰えるのは嬉しいもんだ。それに、「お仕事頑張ってくださいね」とサリンちゃんに笑顔で言われるのも悪くない。この頃機会は減ってきているけれど...。


 それにしても、このまま組長を放置して大丈夫なものか。下手したらサリンちゃんの事監禁しかねないぞ。折角サリンちゃんの笑顔が見れるようになったのに、涙なんざ見たくないぜ俺は。

 まぁ...組長なら分かってるから大丈夫だろうけどさ。


「全く大変さ、サリンちゃんも...組長も」

「そうですね」


 あの二人が、愛し愛されの関係にあるかなんざどうでも良い。ただ...昔と比べりゃあ、その距離は少しずつ縮まってきている。親の仇をサリンちゃんが心から愛せるとは思えない。今でも父親を想い、友人を想い、自己犠牲しか考えていないのだから。


 もし自分が死ぬ事で誰かを守れるのならば、あの子はきっと、喜んで命なぞ投げ打つだろう。


 もし自分が組長を愛する事で誰かを守れるのならば、あの子はきっと、喜んで身も心も捧げるだろう。


 あの子が全てを失うのが先か、あの子の心が壊れてしまうのが先か、俺には皆目検討がつかねェ。

 外野の俺が口を突っ込める領域じゃなくなっちまった。だから俺はもう一心にーーサリンちゃんが幸せになれる事を祈るしか出来ないんだよな...。


 組長を愛する事でサリンちゃんが幸せになれるならそれで良い。仮に俺が手を汚す羽目になっても、サリンちゃんが幸せになれるならそれで良い。

 あぁ、いつから俺も、こんなに歪んじまったんだろうな...ただあの笑顔を、守りたいだけなのになぁ...。




ただ幸せになって欲しい、それだけなのに...幸せならばどんな形でも良いと思ってしまう。

後藤は今まで、ずっとサリンと黒川さんを見てきました。後藤は今まで、サリンの心の叫びを黒川さん以上に感じ取っていました。それでも何も出来なかった。

罪悪感をも超越した感情は、心の中で「どんな形でも笑顔でいさせたい」という、愛欲でも物欲でもない、歪んだ願望に変わってしまったのです。





...みたいな感じで、カッコよくまとめてみました。

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