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ヤクザの組長に身売り的な事をしたが、どうやら立場は妹らしい【連載版】  作者: カドナ・リリィ
Bad Ending 〜暗闇から逃れる術を、もう彼女は知らない〜
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漆拾壱

 



 ーー黒川 真人視点ーー


「イタリアねぇ...」


 一週間程前に、イタリアから送られてきた招待状。白い便箋に赤いロウで封のしてある、小粋な代物だ。この頃は日本の裏社会に根を張るのに忙しかったせいか、久しくイタリアと取引なんてしていなかった。

 一体何事だろうかと手紙を見てみれば、「カジノをリニューアルしたので、是非遊びに来て欲しい」との事。正直賭け事は好きではないし、サリンを一人にしたくないが、イタリアとも良好な関係築き続けたい今、無闇に断るわけにもいかない。


「組長、サリンちゃんも連れていくんですか? 連れていくのなら、俺にも色々と準備があるんですが...」


 こちらの心情も知らず、ズカズカと切り出してくる後藤。こいつには何だか怒る気が起きない。怒っても今がないような気がするからだろうか。

 現在後藤にはサリンに関する多くの事柄を一任している故、もしサリンをイタリアに連れていくとなれば、勿論護衛という事で後藤も付いてくる。確かに準備も必要だろう。


「悩み所だ。もし連れて行ったとして、イタリアンマフィアの連中が、サリンを見て何を企むか分からん」


 良好な関係を築きつつあると言った。だが、こちらは完全にイタリアを信用しきっているわけでもない。相手方がどうかは知らないが。

 こういったマフィア同士の取引には、互いの信用というものが一番大事ではあるが、俺の信用の基準は「サリンに手出ししないかどうか」だ。中国のマフィアグループの錦濤は、古い付き合いだし俺の「相手の本性を見る」という能力を使わずとも信用出来ると確信出来る。

 だがイタリアはどうだろう、まだ確信は抱けない。本性を見てみた所、こちらに敵対心を向けているわけではないが、どうにか相手方を手中に収めようという気持ちがある。こんな奴等がいる場所に、あの可愛いサリンを放り込む事なんて出来ない。


「でも、あの子はただでさえずっと部屋に閉じ込められているんですよ。サリンちゃんはきっと、心が強いから精神的に病まないだけなんです」


 それは知っている。サリンの心が、過去の影響で人よりも強くなっている事くらい、知っている。俺がそれを都合良く利用して、逃げ出さないように部屋に閉じ込めているのも。


 好きな事が出来ても、日の光を浴びれない事の辛さを俺は分かっている・・・・・・・・。出来る事ならばサリンにはずっと笑顔でいて欲しい、なのに何故だろう、どんな形であれ、俺の腕の中にいればそれで良いと思っている自分がいる。

 少しくらいなら...楽しませてあげても...。

 イタリアは美しい場所だ。今まで旅行なんざ一度も行った事がなかっただろうから、きっと喜ぶに違いない。今まで二人で何処かに行きたいと思っていたから、良い機会かもしれない。


「分かった、サリンを連れていく。後藤、パスポートを用意させろ。イタリアには、個人用ジェットで向かう」

「分かりました。いやぁ、楽しみだなぁ」

「お前はあくまでも警護だからな。観光は出来んぞ」

「それが残念なんですよねー。言っちゃいますと、サリンちゃんの護衛は他に任せてピザ食べたいです。本場のピザは美味いですからね」


 俺相手に此処まで本音を言う奴は後藤かサリンくらいしかいまい。いや、サリンは自分の感情を押し殺すタイプだから、それはないか。

 さて...サリンがどんな反応をするのかが楽しみだ。


 *


「それはまた、どのようなご心境で」


 サリンに「イタリアに旅行に行きましょう」と言った所、そんな言葉を返された。この頃サリンの塩対応が多くなってきた気がする。最初はされるがまま状態だったのに、今は完全にスルーされる時だってある。心外だ。

 別に、ご心境も何もないんだがな。言えばサリンの笑顔が見たかった、というものだが、ついこんな事を口走ってしまった。


「実はイタリアンマフィアとも取引をしているんですがね、少し前に『カジノ』がリニューアルされて、招待されてるんですよ。今後のためにも足を運びたいのですが、サリンを一人でこの部屋に置いておくわけにはいかないし、快眠も出来なくなる。だから手っ取り早くサリンも一緒に連れてくんです」


 照れる必要なんぞないというのに、何故だか本音が言えなかった。いやまぁ、これも本音と言えば本音なのだが。

 サリンが「イタリアンマフィア」という単語に反応して苦笑いを浮かべる。ただでさえヤクザ関連では良い経験をした事がないというのに、歴史あるマフィア組織なんかと関わりたくないのだろう。イタリアに行く喜びよりも、マフィアと関わる恐ろしさの方が勝っているようだ、無念。イタリアもついにマフィアに負けたか。

 しかし、決して喜んでくれていないという訳でもなさそうだ。まだ見ぬ土地に想いを馳せながら少し笑みを見せている。本当に可愛い。


 サリンの可愛さを言葉で表せと?

 もう本当に可愛い。全てが可愛い。存在自体が可愛い。一喜一憂も何気ない仕草も言葉も全てが愛らしい。見ているだけで、誰にも渡したくないという気持ちが滲み出てくる。サリン相手に愛慾などは湧かない。

 人が古より美術品を愛で、守るように、俺にとってのサリンも重宝の対象だ。他の者が手を触れないように囲い、自分だけが吟味出来るように閉じ込める。物ではない事は分かっている。しかし、それ程までにサリンは美しい。


「組長、どうでした?」


 部屋から出ると、護衛の状態の後藤が聞いてきた。


「本に釣られて乗ってきた」

「組長、サリンに勉強と読書以外の趣味も見つけてあげてください。本を読了した時なんて、あの子ゾンビみたいになりますからね」


 ゾンビでも可愛いものは可愛いがな。


「でも、サリンが行く気になったのは良かったです。よしんば連れ去られても、俺が必ず助けますよ」

「そもそも連れ去られないようにしろ」


 イタリア旅行...久しぶりに楽しみが出来たな。

今日昼ごろ、マジで死にかけました。心臓とその周辺が物凄い痛くなって、立てなくなったんです(笑)

誰かがDEATH N◯TEに私の名前でも書いたのかと思いました。

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