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伍拾漆

 

 とりあえず聡にお礼だけ言って突き放し、自らの体制を整える。バランスない癖に無理しやがって...。

 彼は苦笑を浮かべながら手すりに掴まり、小さく息を吐いた。しかし、何故だか嬉しそうだ。


 それからコケる事もなく、私は長い長い階段を降りて一階のレッドカーペットを歩き始めた。今日はパーティがあるからか、玄関から大広間に繋がる道には真紅の布が立ち並んでいる。途中で慌ただしい様子のメイドや使用人達と出くわしたが、彼等は毎度毎度丁寧に立ち止まり、笑顔でお辞儀と挨拶をしてくれた。別に構わなくても良いのにね。

 曰く、ランスが来た時の対応は尋常ではないらしい。彼が王子である事は基本は内密だが、執事である猿渡さんやメイド長等は知っている。使用人達は真実を知らないながらも、金髪爽やかイケメンという事で反応が半端ないそうだ。容姿って恐ろしいね。


 まぁ人は見た目で判断する生き物だっていうけど、ランスは見た目と中身が同じだから。本人も別に気にしていない様子だし。

 もし自分がイケメンの立場だったらどうだろう。人にキャーキャーされるのは大して気にする問題ではないがーー私のようにーー自分が原因で人が傷ついていたとしたら...きっと物凄く辛いはずだ。それでも面倒事にならないようにと周りをいなしつつ、大半が逃げるだろう。

 しかし聡とランスは、違った・・・。今まで出会ってきた人達とは全く、違った・・・


「聡様、黒川様、大広間には”北条ホウジョウ様”がいらっしゃいます。行かれない方が...」


 歩いていると、執事の猿渡さんが冷や汗をかきながら声をかけてきた。”北条様”とは一体誰の事だろう。


「げッ、何であいつが来てるんだよ...」

「どうやら、巴様のご友人のご両親を経由して嗅ぎつけやがったようでして...」

「不味いな...これじゃあ安心して壁の花になれないじゃねぇか」

「一先ず今はご避難をしてくださいませ。黒川様は、最も危険・・です」


 えっ、そんな危ない人がきてるの?!


「サリン、北条はマジでヤバイ。例えるなら、メガネに突然足が生えだしてタップダンスを踊るくらいヤバイ」

「そ、それはヤバイね」

「あぁ。だから行くぞ」


 うん、全く意味が分からないよ。


 *


 急足で向かった先は、忙しい現在の時間帯では人目のない裏庭。此処ならば、その”北条様”とやらもこないと思ったのだろう。

 散りかけの紫陽花が並ぶ裏庭で、私達は適当なベンチに座った。少し湿った空気の中で、太陽は雲の隙間から静かに花々を照らしている。


「此処は、あまり人が来ない。春夏秋冬関係なしに花が咲く場所だ」

「良いね。...紫陽花って綺麗」

「そうだな」


 梅雨はもう終わる。あと数日もすれば夏に入るだろうが、まだ紫陽花の花は花弁を落とさない。


「知ってるか? 紫陽花の花言葉。『一家団欒』、『辛抱強い愛情』」

「仲の良い家族にぴったりだね」

「此処はそうでもないけどな。出来るならば、金に目の眩まない父親と兄を罵倒しない妹が欲しかった」

「ははー」


 十分恵まれた良い家族だと思います。私の兄だって変態だからね変態。

 ...でも、父子家庭だった頃の私も、幸せだったな。お母さんも兄弟もいなかったけれど、お父さんは優しくて私を愛してくれた。完璧とは言えなかったけれど、幸せな家庭だった。


「そういえば...さっき猿渡さんが言ってた”北条様”って?」

「あ、あぁ、あいつな...」


 聡は苦笑いを浮かべて視線を逸らす。


「良いかサリン、今日は絶対に俺の側を離れるなよ?」

「分かったけど、一体何者なのその人!」

「良く言うならロリコン。悪く言うなら犯罪者だ」

「本当にヤバイ奴だった...!!」


 今日は絶対に聡の側を離れません。黒川さんはロリコンではない多分。彼は私を性愛の対象としては見ていないし、至ってノーマルな人間だ。

 しかしロリコンとは何だ。


「良いか? あいつの好みは可愛い童顔の女子高生だ。しかも、丁度腕の中に収まる猫みたいな小柄な子が好きなんだ。つまり...サリンはドンピシャだ」

「困る。私に手でも出したら、黒川さんにその”北条様”とやら殺されるよ」

「んー、まぁあいつもヤクザだからな」

「何でだよ...」


 ヤクザ、という事は黒川組の人間だろうか。一応黒川の傘下なわけだから、敵とも取れる他の組の人間とは付き合いを持たないだろう。

 でも黒川さんと犬飼さん仲が良いようにも見えたし...案外組同士で争いばかりをしているわけでもないのかもしれない。


「巴にまでこの頃目をつけ始めてるから、逸そ殺されてくれないかな。組長に」

「止めなさい」


 そんな物騒な事を言って黒川さんが罪を重ねたらどうする。

 この頃彼は世界中の事業にも手を出し始めてきたから、犯罪行為が著しく減っているそうだ(後藤さん談)。マフィアとの太いパイプを持ち、現在は金儲けに力を入れている様子。いつかテロでも起こすんじゃないかな...。

 黒川さんを更生させようとは思わないけれど、麻薬や銃器を売って稼ぐよりかはマシだ。


「まぁともかく...あいつを見つけたら、速攻逃げるからな。会場にいたらお前は俺の後ろに隠れておけ」

「ワータヨリガイガアルナー、カッコイイナー」

「何だよその反応」

「折角黒川さんが今日だけは自由にして良いって言ってくれたのに、ロリコンに追いかけられるとか嫌だ」

「お前の人生って中々不憫だよな」

「人間は誰しも、不憫な人生を生きてるものだと思うけど」



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