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伍拾肆

 西園寺 聡さん? 私の自慢話とは一体どういう事だね?

 確かに新しく出来た友人ならば、ぼっち(笑)の聡が家族に自慢するのも無理はない。よほど嬉しかったのかは分からないが、何だか可愛らしい一面もあるようだ。

 しかしながら、巴ちゃんが私と聡を恋仲だと勘違いしているとは思わなかった。端から見れば勘違いしそうなものだが...。一体どんな話を聞かされたのだろう。聞きたいような、聞きたくないような。


「巴ェ...それ以上言ったら、お前割と本気マジで殺すぞ」

「ワーコワイナー」

「聡、少しは落ち着け。...黒川さん、息子と娘がすまない」


 聡のお父さんが頭を下げる。金の亡者やら何やら聞いていたけど、普通に良い優しそうなお父さんじゃないか。


「いえ...大丈夫です」

「では雅、私達は席を外そう」

「そうね」


 聡のお父さんと雅さんは立ち上がり、こちらに会釈をしながら談話室を去ろうと扉の方へと歩き始めた。途端に私はある事を思い出し、聡のお父さんを止める。


「西園寺さん、これ...よく分からないんですけど、後藤 謙次さんが」


 そう言うと、私は後藤さんに渡せと言われた袋を彼に渡した。聡のお父さんは訝しげな表情をするも、すぐさま「ありがとう」と言って去ってしまった。一体、あの袋の中身は何だったのだろうか。後で後藤さんに聞こう。


「愚兄、どうなさったのですか? 顔がユデダコみたいですわ...キモい」

「ユデダコ...キモい...?!」

「顔を真っ赤にして息を切らし、おまけにキレているだなんてキモスの極みですわ」

「何でお前いつにも増して兄いじめを...」


 こういうのを見ていると、聡のギャップに驚いてしまう。いつもは完全にいじる立場に回り、女子にとっては高嶺の花に等しい存在だというのに、家では妹に貶されてショックを受けているだなんて...可愛い。あ、これが所謂「ギャップ萌え」って奴か。


「でも、お姉さまが愚兄のパートナーになってくれたら安心できますわ。愚兄、今回は私、ロマンティックな展開を期待しておりますわ!」

「だから、そういうのじゃないんだな...」


 パートナー...何方かと言うとトリオ? いつも三人だからね。でもそれが配偶者という意味でのパートナーだったとしたら、まだ巴ちゃんは勘違いをしておられる。

 私は物語の主人公みたいに鈍感じゃないので、「え? 何の話?」とは言わない。普通に色々と察しているつもりです。

 さぁ、聡の新しいあだ名が追加されましたね。

「ジャパニーズプリンス」

「ジャパニーズプリンスモドキ」

「愚兄 new!!」

「ぼっち new!!」

「ユデダコ new!!」

「ギャップ萌え new!!」

 凄く不名誉。今度何か嫌味を言われたら、この四つの言葉を高らかに叫んでやろう。「西園寺 聡はユデダコ症候群ーー!!」と皆の前で叫んでやろう。


「そうだ巴ちゃん、実はプレゼントがあるの」

「え、何ですかお姉さま!」


 巴ちゃんは目を輝かせ、先ほどにも増して笑顔になった。私は懐に隠していた『Vuistand』の袋を取り出し、巴ちゃんに渡す。


「これまさか...『ヴィスタンド』か?!」


 聡は驚きのあまり声が裏返ってしまった。おい君も金持ちだろボンボンだろ。何でそんなに驚く必要があるんですか。

 いやまぁ、確かに百万単位のお買い物はいたしましたが...君達はこのくらいの出資は当たり前じゃないの?


「うん、そうだよ」

「凄い! 勿体ないですわお姉さま!」

「そ、そう...? 巴ちゃんとかも結構行ったりするんじゃないの?」

「あんな超高級店行きませんわ。流石に七桁単位のお買い物はいたしませんもの...」

「あれ黒川さんの傘下」

「マジか」


 お金持ちのイメージと少しかけ離れてはいるが...これが普通なのか。キラキラでゴージャスなアクセサリーうあドレスを買い込んでいるイメージがあったけれど、実際着る機会は少ないだろうしね。

 巴ちゃんは私に確認を取ると、袋を丁寧に開け始める。爆発物でも取り扱うかのような手つきだ。恐る恐る包みを開き、中のプレゼントを覗く。


「わぁ! 素敵!!」


 先ほどまで驚きに満ちていた巴ちゃんの顔は、一気に笑顔に包まれた。これだ、これが見たかったんだ。

 彼女は震える手でネックレスを取り出し、聡にドヤ顔をする。


「お兄さま、私お姉さまにこんな素敵なプレゼントを頂きましたわ。羨ましいでしょ〜?」

「俺はネックレス貰ってもなぁ」

「お姉さま、本当にありがとうございます。こんな綺麗なネックレス...私には勿体ないですわ」

「ううん、巴ちゃんに似合うと思うよ。ほら」


 私はネックレスを巴ちゃんの首にかけてあげた。ピンク色の宝石が灯りに照らされてキラキラと光り、ドレスによく合っている。

 女の子はやはりこういう物が好きなようで、その宝石と同じような輝きを持つ目を私に向けてきた。


「私、一生大事にいたしますわ! 是非嫁入り道具に...。愚弟は結婚なんて、一生無理でしょうがね!」

「おい止めろ」

「そういえばお兄さま、お誕生日いつでしたっけ?」

「お前妹だよなー? 来月の九日です」

「聡も誕生日パーティとか開くの?」

「いや、呼ぶような奴少ないし」


 すると、巴ちゃんはニヤリと口角をあげ、可愛らしい顔をしているのに勿体ないゲス顔をみせる。


「ぼっち兄は惨めですわねー」

「ぼっちー」

「ぼっちー」

「違う、俺はぼっちじゃない。一緒にいる人間を選んでいるだけだ」

「それはぼっちの言い訳ですわ」

「まぁ、その気持ちは分からなくもないけれど」


 聡は家柄が高いから、それを目当てにすり寄ってくる人や顔が良いからとキャーキャー言ってくる女子がいる。ランスが王子だという事は私や聡以外知らないため、利己的な目的で近寄ってくる人間は少ない。可愛い子が好きなようだし。

 人付き合いをしようとしない聡でも、ランスっていう素敵な優しい親友がいたから、今があるのかな。もし彼がいなかったら、今頃聡はどうなっていた事だろう。


「そ、そういえば...サリンは誕生日いつなんだ?」

「ん? 私は一月の...」


 あれ、私の誕生日何日だっけ。今まで色々とありすぎて誕生日とか祝ってる暇なかったから忘れてしまった? 早生まれな事は確かなのだけど...。


「忘れた」

「お前なぁ...」

「黒川さんに聞いておく」

「自分の誕生日くらい把握しておけ。年齢が分からなくなるのはあるだろうが、誕生日が分からなくなる奴はレアだ」

「確か、十五日だよ」

「という事は、まだお前十五歳か」


 ソーデスヨソーデスヨ。齢十五のピチピチJKですが何か。

 そういえば、黒川さんは一体いくつなのだろう。あの見た目からして三十路は考えられないとして、二十代前半か少しいったくらいだとは思っている。それより、黒川さんは初めて会った時よりも、少し身長が伸びているような気がする。まだ成長期が終わっていないなんて羨ましい。正直私はこれ以上身長が伸びる自信がない。

 ただでさえ上から頭を叩かれ続ける系スポーツをしているわけだから、身長が伸びないのも無理はないかもしれないけど、剣道はそこまで影響出ないし、先輩方は皆背が高い。

 実際に練習試合等をする時の劣等感が半端ないのだ。そして、竹刀で上からボコっとやられる時の悔しさ。私も身長が欲しい。


「そういえば聞いてなかったけど、巴ちゃんは何歳になったの?」

「まぁ、お兄さま。お教えしていなかったのですか?」

「あぁ、そういえば言ってなかったな」

「私、今日で十三歳ですの。『玲海堂学園』の中等二年生ですわ。改めて宜しくお願いいたします」

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