表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/109

伍拾弐

 金持ちという生き物は不思議なもので、見栄でも張りたいのかヤケに豪華な屋敷を建てる。背は低くとも横に長い...まさに肥えた奴だ。黒川邸も同様。いや、あれは業者を間違えただけだったな。

 大凡一年と半年間黒川さんの加護下に置かれてはいるが、平民生活十三年。簡単に思考が通常運転を終えるわけがない。今まで貧乏だった私にとっては、まるで世界が違うもの。

 当たり前だった日常はもう目の前に存在しなくって、また悲しくなってきた。


 だからこそこんな屋敷は見慣れていないし、こんな服装も違和感満載。誕生日パーティ兼社交な場も初めて。早く聡とランスに会いたい。


「どうしたサリンちゃん。屋敷コレに驚いているのか?」

「まぁ...そうですね」

「そうか...」


 後藤さんはきっと、色々やっているから見慣れているのだろうな。黒川さんと同じくらいの年齢で此処まで信用されているだなんて...幼馴染とかだったのかな?

 屋敷に一歩近づけば、待機していた執事らしき男性がこちらに一礼する。モノクルをつけた英国風の初老の男性だ。


「黒川様でございますね。私は西園寺家執事筆頭の、猿渡サルワタリと申します。聡様が今か今かと、二時間ほど前からソワソワしておりますので、どうぞこちらへ。あぁ、お連れの方もご一緒に」

「いや、俺はただの運転手。これ以上干渉するつもりはない。もう帰るな。楽しんでこいよ。あぁ、あれ・・渡すの忘れるな」

「...はい」


 あの”不思議な袋”の事か。出来る限り関わりたくない。執事の猿渡さんに渡しても良いだろうけど、直接渡さないと後が不安だからな。


「では黒川様、こちらへ」

「分かり、ました...」


 執事の方についていくも、やはり一人は心細い。しかしこのドキドキは何だろうか。久しぶりに許された自由。見慣れない景色。...とっても、楽しみだ。

 黒川さんなんて忘れても良い一日。邪魔されなければ良いのだけど。


「聡様は、大層黒川様の事を気にかけているご様子で。今まで異性のご友人はいらっしゃらなかったものですから。皆、とても喜んでおります」

「そうなんですか...聡には、本当に感謝してます」

「それはそれは」


 西園寺邸の門を抜け、大きな扉の中に入る。大勢の使用人達が一斉に頭を下げ、少々気分が悪い。人に敬われるのは好きじゃない。寧ろいないように扱われた方が動きやすい。これはもう、今まで蔑ろにされてきた故の性というか何というか。

 皆さん好奇と興奮の目を私に向けてくる。何だか居心地が悪いな。やはり、聡が異性を自ら招待するなんて珍しいようだ。


 黒川邸とさほど変わらぬ豪奢な廊下。忙しげに使用人の行き交うホールを抜ければ、そこにはたくさんの部屋へと繋がる左右対称のドアがあった。

 そのうちの一つを猿渡さんはノックする。


「聡様、黒川様がご到着されました」

『おぉ、来たか!』


 中から聡の嬉しそうな声が聞こえる。ドアが内開きが開くと、聡が顔を覗かせてきた。制服でもスーツでもない私服だ。こう見ると、普通に男の子だな。


「やぁサリン」

「う、うん...こんにちは」

「よーし、猿渡、下がって良いぞ」

「畏まりました聡様」


 猿渡さんは一礼すると、すぐさまその場から立ち去った。優秀な執事ですね。


「入れよサリン」


 聡が手招きをするので、私は笑顔で中に入った。本棚がたくさんある、広い部屋だ。机やベッドも置いてあり、どうやら聡の部屋のようだ。黒川さんの部屋よりも物が多い。これが普通の、高校男子の部屋というものか。

 壁にはいくらか芸術的なポスターや賞状が貼ってある。完全に優等生の部屋だ。間違いない。


「あれ、ランスはいないんだね」

「あぁ。あいつは、時間通りにくるだってさ。何かあるらしいぜ」

「そうなんだ」

「まぁ座れよ」


 そう言うと、座り心地の良さそうなソファを指差す。


「ありがとう聡」

「おうよ」


 ウキウキした様子で聡は私にお菓子を差し出してくる。香ばしい香りのクッキーだ。一つ口に放り込んで見れば、とても美味しい。


「うーん、おいひい」

「だろ? 俺もこれ好きなんだ」

「それで...何で私、早く呼ばれたの?」

「あ、うん。それな...まぁ、お前ウチに来るの初めてだし? 家族にも紹介したいし? 色々二人きりで話してみたかったしな」

「そうだね。ありがとう」


 *


 他愛のない会話が続く。いつもならこんなに長い時間二人きりで話す機会なんてない。学校でも一緒にいられる時間は長くないし、お喋りなら尚更。

 それにしても、聡ってかなりお喋りさんなんだね。マシンガントーク感パナいです。


「聡はいいなー、こんな大きなベッドで一人・・...」

「あぁそうか。お前の場合は...うん、あれか。抱き枕状態だったな」

「『普通に買えよ雑貨屋とかで』...っていつも思う」

「変態だな」

「うん、変態だよ」


 露出した至る所を愛撫してくるからねあの人は。昨日はファッションショーと称した数時間にも及ぶ記念撮影が行われたからね。

 それを聡に話せば、ニヤリと笑って「俺も見てみたいな」と言ってきた。よし、こいつも同類認定確定だ。お前は黒川さんと同類だ、異議は認めん。イケメンには碌な奴がいないって事が、これで立証された。


「じょ、冗談だからサリン...ジワジワ俺から離れるのだけは止めてくれ。地味に傷つく」

「えーだって変態さんなんでしょ聡も」

「いや違うって。ほんの冗談!」

「どうだかー!」


 私は笑いながらベッドに横たわり、そのままゴロゴロと何度も動き回った。聡は半笑いで言う。


「お前本当に警戒心ないのな」

「え?」

「いや...男と部屋で二人きりだぜ? それなのにベッドでくつろぐとか...」

「...聡は変な事とかしないでしょ? 黒川さんも、まぁ...。だからこうやってゴロゴロできるの」

そういう・・・・お年頃なんですがね」


 聡を信用しているからやってるんですから。確かに非常識だとは思うよ、人のベッドでくつろぐのは。でも、友人ができたからには一度はしてみたい事じゃないか。生憎女友達はいないから...はい。そういう事です。


「俺、今夜このベッドで寝るのか...」

「あーーごめん...聡。ちょっと調子に乗りすぎた。いくら何でも、異性だからね」

「いや、別に嫌じゃないから良いぜ。ただ、スカートが捲れそうだから気をつけてほしいくらい」

「ごめん...」



相も変わらずgdgdで申し訳ない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ