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肆拾漆



 テスト勉強程、楽しく憂鬱なものは存在しないだろう。


 勉強は楽しい。

 習った所を一から復習し、ドリルの問題を解き、完璧に理解する。

 大半が嫌悪を抱くような行為ではあるが、今まで勉強と剣道と読書しかしてこなかった身なので、息をするのと同じようなものだ。


 私は基本、テスト期間になると夜の十二時くらいまで勉強を続ける。

 その間、黒川さんは眠れない眠れないと言って私の邪魔をしようとしてくる。

 時には睡眠薬をコーヒーに混ぜてくる時も。

 あまり構わないでいると、銃を突きつけながら脅し文句を言い、後ろから抱きついてくるんだよね。本当、私は麻薬かって。


「おや、共役無理数ですか。簡単ですね」

「黒川さん分かるんですか?」

「これでも東真大学、出てますからね。というより、そんなもの復習しなくて良いのでは?」

「備えあれば憂いなしですよ」

「そうですか。憂いあれども備えなしでも...以外とやれるものですけどね」

「それは運が良いだけです」


 黒川さん、東大出たんだ...ぶっちゃけると、まさか日本で一番頭の良い大学を出てるなんてね。驚きだ、

 いや、納得と言った方が良いかもしれない。


 此処まで地位を築き上げてきたんだ。

 適当な大学出のボンボンなんかがこんな事出来るわけがない。私も、大学行きたいな。


 贅沢な事は言っていられない。

 学園だって周りが必死で説得して行かせてもらっているんだから。


「サリンは将来、何になりたいですか?」

「将来...?」


 黒川さんは、突如変な事を聞いてくる。

 将来の夢? ...私に将来なんてあるんですか、黒川さん。私に未来なんてあるんですか、黒川さん。


「ないです。そんなもの」


 ずっと前にも、同じような事を聞かれた事があった。

 その時も私は何も答えられなかった。

 だって、そんなものを持つ意味がないから。そんなものを持った所で、きっと黒川さんは許してくれないから。


「そうですか。...しかし、卒業後もずっとこの部屋にいるのも暇でしょう? だから今の内に、色々と考えておいてくださいね」

「えっ...良いんですか? 仕事しても」

「当たり前です。まぁ、気が変わるかもしれませんがね。今の所は、私の目を届く範囲であれば構いませんよ」

「あ、ありがとうございます...」


 愕然とした。

 だってあの黒川さんが、独占欲の強いあの黒川さんが、仕事をする事を許可してくれるだなんて、思ってもみなかったから。


 とすれば、私は将来何をしよう。得意な科目...と言っても満遍なく点数も取れているし、大志や希望や目標はない。

 何をそれば良いんだ。OLか? 

 出来る事なら私と同じような目に遭う人を少しでも減らしたいけれど、警察は流石に無理だろう。

 警視庁以外の官僚を狙うのも良いかもしれないが、まず現在の家系的に落とされる。いや、案外コネでいけるかも。


「私の会社で働くのも良いですよ。あ、ヤクザ関係じゃないです。サリンに血みどろな仕事はさせたくありません」

「...黒川さんの会社って?」

「薬品、食品、医療、衣服、建築、自然資源その他諸々の幅広い分野で活躍しています。あ、オススメは薬品製造の仕事ですかね。サリンならいけるんじゃないですか? 生物兵器なんて作れそう」


 某グロホラー映画のような展開になりそうなのでそれは遠慮したいです...。

 しかし、薬を作るというのは中々楽しいかもしれない。新たな細胞を生み出し、研究するのも良さそうだ。まぁ、まだ決める事ではないだろうが。


 *


 若干将来の夢も考えつつ、私は試験勉強を続けた。


 そしてテスト当日。今回は入試と違ってちゃんと一科目一時間ずつ取られているようで、国語、英語、数学、化学、地理、フランス語、経済の七科目だ。

 この中で一番危ういのがフランス語だ。満点を取れるか自信がない。

 他は復習バッチリなので、恐らくケアミスさえしなければ大丈夫だろう。


 さて、問題はランスと聡だ。

 テスト期間中は日に日にランスが窶れているような気がしていたが、今日は目の下にクマが出来ている。

 きっと一夜漬けもしたのだろう。いつもと同じコンディションの方がやりやすいのにね。


「サリン、勉強はどうだ?」

「バッチリだけど...ランス大丈夫?」

「大丈夫だよ...眠い」

「聡、どんな扱き方したの?」

「扱いてない」


 嘘だ。

 こんな窶れて扱いてないなんて絶対嘘だ。


「サリンちゃん...僕は平気だよ...テストが終わったら、どうか抱きしめてHPを回復させてね...」

「減らず口叩けるんなら元気ね」

「そうだな。皆で抱き合いたいならテストを頑張れ」

「うわぁ無理難題だぁ...」

「まぁまぁ、頑張れランス」


 ランスは私の机に突っ伏してきたので、抱きつく代わりに彼のブロンドの髪を撫でた。

 思ったよりもサラサラで滑らか。シルクのような肌触りはとても心地が良い。


「お〜サリンちゃんが頭撫でてくれた〜。良いだろ聡」

「いやいや、頼めばやってくれるだろ」

「やらないよ。減るもんじゃないけど。ねーランス」

「ねー」

「ムカつくなお前等」



ご愛読ありがとうございます。

中々物語が進まなくて申し訳ない。現在新作書きだめ中の上、あまり書く時間がないのです。GW中は連続投稿が出来るかもしれないので、気長にお待ち下さい。

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