肆拾壱
先に釘を刺す事は完了。
後はーー不本意だがーージャパニーズプリンスと協力して黒川さんを怒らせないために努めるしかない。
和宏さん、貴方は何も知らなくて良いから、ただ黙って座っておきなさい良いね?
ジャパニーズプリンスは、一応朝お父さんに「無駄口はたたかないで」とお願いしたらしいが、それが一体どれだけの効力を発揮するか...。
「大人は汚い生き物。俺の父親はそれの代表」と死んだ魚のような目で彼は言っていた。
人の親をどうこう言うのはあれだが、それならば黒川さんに媚びを売りに来ないとも限らない。
それによって黒川さんの怒りがオーバーヒートすれば、確実に私の命が失われる!!
まぁ喋るだけなら構わない。
私の名を出さなければ良いだけ。
しかしそれでも不安なので、昨日私達は屋上で作戦会議を行った。
屋上にいるのは、私、ジャパニーズプリンス、和宏さんの三人だ。まさかこの三人が揃って喋る事になるとは、入学当初の私は考えもしなかった。
「黒川、お前が学校休めば全て丸く収まるだろうが」
「私の兄に嘘は効きません。仮病なんて使ったら、あの人にイジメられる」
「命が危ないんだけどな...」
「ね、ねぇ二人共、僕何の話か全然分からないんだけど」
ジャパニーズプリンス、何故こいつを連れて来た。
そんな責めるような目で見れば、「連れてきてない。くっついてきた」という視線が返ってきた。しつこい男は嫌われるぞ。
「えーっとな...命の話だ」
「深いね」
「...何でこの人、クラスで七番の成績取れたの?」
「根本辿ればこれでも王子だからな。抜けてるけど王子だからな。一応教育はされてるんだ」
「そういえば、入学当日はサラッと無視したんですけど、この人何処の国の王子様なんですか?」
王族だって名乗っていたような気がする。
その後すぐに私は家業を聞かれたような気がする。
思ったんだけど、家の人の仕事を聞くのは若干失礼に値すると個人的には思う。
王子だから一般常識が少し抜けてるのかもしれないけど、和宏さんは人を不快にさせないトレーニングをするべきだ。
それは、親友であり幼馴染でもあるジャパニーズプリンスも理解しているようで、日々奮闘している事は十分私も知っている。
面倒な友人を持つと大変なんだね。
弟に世話焼くお兄さんみたいで、これはこれで微笑ましいのだけど。
「ヨーロッパの小国『パセムカル』の第三王子」
「僕は日本に留学に来てるんだ。おかげで『パセムカル語』を忘れちゃったけど」
「俺の父さんは『パセムカル』の王様と何故か知り合いでね。それで知り合ったわけだが...うん。まぁこの話は置いておいて...黒川が組長のご機嫌を取るというのは無理か?」
ジャパニーズプリンスの問いに、私は苦笑いを返す。
「出来ない事もないけれど、しつこく絡んでくるのをいつも無視してる分、何か企んでいるとバレます」
「バレないようにさりげなーく...」
「出来ない事もないけれど、黒川さんは『エスパーなのか?!』と思うほど人の心を読む宇宙人的な存在なのでバレます」
「何にも出来ないじゃねぇか」
「えぇ。貴方のお父さんと貴方の行動に、全てを委ねます。私も命も含めて」
「凄い重い荷物背負っちゃたよ」
という事で、全てはジャパニーズプリンスに一任する事にした。
そもそもお前の父親が婚約話なんて考えるから悪い。尻拭いくらいしなさい。
さて、次が最後の授業だ。
保護者の方々は午後昼休み辺りから来れるらしいが、
大方が職員によるご機嫌取りーーもとい校舎案内と宣伝。最後の授業になってやっと教室に入れるとの事。
これはありがたい。黒川さんとは、学校内では極力会いたくない。
なので、屋上でボッチ飯してました。
まぁいつもボッチだけどさ。
学食は美味しいんだけど、ワイワイガヤガヤな食堂で一人優雅にランチなんて寂しすぎる。まず周りの視線が冷たい。なので適当に売店で買ってボッチ飯です。
この間ジャパニーズプリンスが激怒して、皆を叱ったにでイジメは一旦なくなった。
だが、まだ私、友達一人もできてない。
ジャパニーズプリンスは苦笑しながら「俺等は苦労を分かち合う良い友人だろ?」と言って一緒に行動する事が多くなったけど、それってただ和宏さんの面倒を私に押し付けてるだけだよね?!
「黒川、そろそろ来るぞ」
「分かってますよジャパ...西園寺さん」
「ねぇジャパって何?! 俺を何て呼ぼうとしたの?!」
「ジャパニーズプリンス」
「真顔で言ったよこいつ!」
あ、言ってしまった。
私の中でのあだ名が私の口によって露見してしまった。
「ジャパニースプリンス? 聡が? ...凄い似合う」
和宏さんがニヤニヤ笑いながらジャパニーズプリンスを指差す。
おぉ、私と同じ感じ方を持った同士発見。和宏さん、馬鹿に見えて案外気が合いそうだ。女子連中が凄い睨んでくるけど。
そういえばジャパニーズプリンスは、私をイジメるなという事と、「もう俺とランスに付きまとうな。ウザい、マジ迷惑」と暴言を吐いていたな。
それで誰も近づかないのか。ナイスジャパニーズプリンス。君の活躍は素晴らしいよ。
イジメもなくなったし、友達(?)も出来たし、本当にナイスだプリンス。
「今度から僕も聡の事ジャパニーズプリンスって呼ぶね」
「嫌だわ! っておい黒川、お前陰で俺の事ジャパニーズプリンスなんて...」
「言ってないです。というか言う相手いないです」
「...悪い」
「「ジャパニーズプリ〜ンス!!」」
「おい!」
私と和宏さんの息ピッタリのコンビネーション呼びかけに怒ったのか、ジャパニーズプリンスが軽く頭を叩いてきた。
「だってねぇ、本当に日本の王子っぽいよね佐凜ちゃん」
「そうですよね。日本の王家と言えば皇族ですので、西園寺さんはジャパニーズプリンスモドキですね」
「ジャパニーズプリンスモドキ、ウェーイ」
「ウェーイ」
「二人揃ってやめろ!」
ジャパニーズプリンス改め、ジャパニーズプリンスモドキはもう一度怒鳴る。
長年付き合ってきた友人みたいだ。
こんなに気の合う人達、初めて出会ったな。
正直、この間の婚約話としつこい事と人の気持ちを分かってない言動で若干傷ついたが、何だかもうどうでも良くなってしまった。
やはり、持つべきものは友人というか。ウジウジしていた自分が馬鹿らしく思えた。
初めて出来た友達。これから三年間、大切にしていきたいな。




