参拾壱
投稿が遅れてしまい、申し訳ありません
一週間後に届いた合否通知表に書かれていた文字は「合格」だった。
安心したというか、失望したというか。いずれにしろ、学年トップで入学したのはまぎれもない事実だった。何しろ、校長先生直筆の祝福と賞賛の手紙が届いたんだもの。
余談だが、制服の可愛さに黒川さんが興奮し、かなり写真を撮られてしまった。
きっと、入学してからも、授業風景などを日常的に遠くから撮られるのだろう。後藤さんに。
「玲海堂学園」、高校一年生の入学式は、新規で入学する人だけでなく、エスカレーターの新入生、二年生、三年生の人も参加する。
その中でも、テストで一番の成績を修めた人間が、新入生代表の挨拶をする事になる。
つまり、満点を取った私が挨拶をしなければならないのか...。
考えに考え抜いた挨拶の言葉。
原稿用紙三枚分の私の底力は、もう尽きていた。目立つ事はしたくないのに、黒川さんは笑顔で推し進めてくる。
学校側としても、成績トップの私に挨拶をしてもらった方が、模範となるので良いらしい。
それの取り組みは素晴らしいとは思うが、もっと個人の意見を尊重してくれ。
中学も晴れて卒業。
そして一週間弱。
待ちに待ってなどいない高校の入学式は、桜舞う晴天の日だった。
雲一つなお青空は、反比例に私の心を暗く曇らせた。挨拶の内容は覚えている。人前で緊張はあまりしない。
ただ、目立ちたくない! 悪目立ちノー!
「サリン、来賓席から見ていますので、安心してくださいね」
何故黒川さんが来賓席にいるのかが分からない。
いや、もうこの人にツッコむのは止めよう。ストレスで死ぬ。
というか、制服が可愛い。黒川さんが悶絶するだけある。
一応、一着で二十万弱はするとの事らしいので、絶対に汚さないようにしよう。
髪の毛は自由との事なので、長い髪を腰まで伸ばし、同じ方向に跳ねた天然パーマをそのままにした髪型で行く事にした。
黒川さんに、
「サリンの綺麗な髪の毛を切る事なんて出来ませんよ。えぇそうです。もし切ってしまったら...その髪の毛、私食べますからね?」
と言われてしまった。髪の毛食べるとかどんな悪食だよ怖いです。
絶対に体に悪いので止めてください。
私のクラスは、A〜Eまであるうちの「1-A」のクラスだ。一番入学金と寄付金を支払っている特に金持ちな集団が入るクラスとの事。こりゃあ三年間が楽しみですね。
そして、遂に遂に入学式だ。
車の中で自らの不幸を嘆きつつ、神の残酷さを悟りながら、私は学校につくのを待った。
車は学園の中へとタイヤを転がせる。校則上、混雑と混乱を防ぐため、学校の外で車を降りる事が決まっている。
しかし、黒川さんは何やら学園の弱みでも握っているのか、それともコネを持っているのかーー様々な決まりが私の目の前で無効と化していった。
車の中で黒川さんに別れを告げ、私は車から出る。
たくさんの生徒達が校門から入ってくる。
小さく息をついて、昇降口から上靴に履き替え、三階の自分の教室を目指した。軽いカバンは筆記用具の微かな音を消し去り、張り裂けそうな心にそっと手を置いた。
1-Aの教室へとたどり着く。少し来るのが遅かったのか、かなりの人数が入っていた。渡された出席番号と同じ机にカバンを置く。一番後ろの席...安心。
椅子に座ると、私は本を取り出した。
黒川さんに買ってもらった「原子物理粒子法則」の本だ。もう私理系行きますハイ。
「おッ、誰かと思えばこの間の可愛い子ちゃん!」
本をスッと抜き取られ、顔を上げるとそこにはハーフ美形がいた。
一番会いたくないと思っていた奴ーー試験の日にしきりに私に絡んできた...確かランスフォードみたいな名前だったような気がする。あのジャパニーズプリンス的な人も隣に...うぅ、同じクラスとか泣いても良いですか?
その周りにはお嬢様達もきており、私は完全に鬼に囲まれたも等しい状態となっていた。まさに四面楚歌。
和宏さんは私の本を閉じて表紙を見、うーんと唸ってジャパニーズプリンスに渡した。
「『原子物理粒子法則』...随分と面白そうな本だな」
ジャパニーズプリンスはそう言うと、私に本を返した。
「ランス、もう一回自己紹介をした方が...」
「あぁそうだね。僕はランスフォード・フラット・和宏。君みたいな可愛い子には、聡みたいに”ランス”って呼んでもらいたいな」
是非和宏さんと呼ばせていただきますハイ。
「俺は西園寺 聡。ランスが絡んじまって悪いな。後で注意しておkーー」
「君の名前は?!」
和宏さんはキスせんばかりの勢いで、私に顔を近づけてきた。確かに触れなければ黒川さんの許容範囲となるが、此処まで接近されるとあの人も怒りかねない。
いつ何処で誰が見ているか分からないから、そういう行為は止めてほしい。
「黒川 佐凜です」
「サリン...? 珍しい名前だね。うーん、黒川財閥? 聞いた事ないなぁ...家はどんな仕事をしてるの?」
それを聞かれると、言葉に詰まるしかなくなってしまう。と、とりあえず...
「さ、先に貴方の方を」
「僕? 僕は王族だよ。あ、これ内緒だからね? サリンちゃんだけに特別に教えてあげる」
やっぱりイケメンは碌な奴がいない。...くそっ。




