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弐拾弐

 


 それから私は、警戒しながら道を進んだ。

 これより先にも人がいる。あの人が嘘をついているとは考えにくい。嘘をついていたとしても、必ず、三人以上の人間はいるはずだ。

 銃も何丁かあるが...本物のヤクザ相手だったら、敵うかどうか分からない。

 誰か人質を取って突破するのも策の一つだが、それはあまりに無謀すぎる。それに、あまり騒ぎ立てたくない。もしこの事が黒川さんの耳に入れば、逃げ出せても誰かが死ぬ。


 ...これは私のせいではないから、黒川さんは私を傷つける事はしないだろう。

 だが、後藤さんが危ない。きっと彼ならどんな仕打ちにも耐えられるだろうが...後藤さんが罰されるなんて事になったら私は泣くぞ。

 

 あぁ、こんな事を黒川さんの前に言ったら、問答無用で後藤さんは殺されるんだろうな。

 そんな事を考えながら、私は左腕の印を触った。

 私が黒川さんのものである証。

 かなり深く彫られていたから、傷はなくなっても、痕はクッキリと残るだろう。


 適当に進んでいると、行き止まりに差し掛かった。

 行き止まりには、重そうな鉄のドアがある。他の道も散策してみたいけど、今は進むしかない。

 すぐにドアに耳を当て、外の音を聞く。しかし、鉄故か何も聞こえない。

 

 よし、腹を括ろう。

 私は棒を構えてドアを開けた。鍵はかかっていない。

 ドアの向こうは、上へ上へと続く長い階段。上るのはかなり骨が折れそうだ。


「いや...これ、行くの?」


 まぁ、今までもアルバイトなんかで引っ越しの手伝いをした事だってあるから、このくらい余裕...だ。きっと。

 しっかし、この施設は凄く複雑な作りになっているな。

 どんなに逃がしたくないのなら、もっと見張りを入れれば良いのに。まぁ、私的にはありがたいけどさ。

 それに、何故わざわざ箱に入れられて、あの逃げやすい牢屋の中に放置されていたのだろう。石井先生なら、私の力くらい把握しているはずだし、何より、箱に入れる必要性はあるのか?


 やっと一番上についたかと思えば、また鉄のドアがあった。

 耳を当てても何も聞こえず。

 もう誰と会っても構わないと心に決め、一思いにドアを開けた。

 途端、冷や汗が頬を伝う。


「おや...もう麻酔が切れたのか?」


 そこには、あの男がいた。

 咄嗟に銃を構え、今すぐにでも引き金を引けるようにと身構えた。安全装置も外してある。

 目の前には、三人の男。

 一人は石井先生、もう一人は無精髭の怪しい外国人、そして最後の一人は、スーツを着た若い男だった。先生以外は、驚いた顔で私を凝視している。


『この娘は誰だ!』

「落ち着きな、トール」

「おーい黒川、そんな物騒なもん捨てて、大人しく箱に戻ってくれると嬉しいんだがなぁ」


 慌てふためく外国人を無視し、先生は淡々とした口調でそう言う。

 近づいてくる様子はない。


「そこを退いてください。手を挙げて、伏せて」

「わぁ怖い。...まぁ、どうせ撃てないんだろ? ヤクザの妹だけど」

「...無駄口を叩かないで。伏せてください。足を撃ちますよ」


 外国人は私の言葉を理解しているようで、すぐに両手を上げた。

 しかし、他の二人はピクリとも動かない。私の脅しも聞かず、笑顔でこちらを見つめる石井と、無表情で立ち尽くす男。

 この知らない二人も、ヤクザ関係者なのか。もしかすると、あの子供達を買いに来た客かもしれない。


 気がつけば、何かが自分の中から全てが抜け出たような気がして、無意識に引き金を引いていた。

 大きな破裂音が響き、赤い華が床に咲く。


「へぇ...中々、覚悟はできているようだ...」


 どうやら石井の足を撃っていたようで、彼は自分の傷んだ足を庇うようにしゃがんだ。スーツの男はそれでも表情一つ変えない。


「...手を頭の後ろに回して、伏せてください。私は...貴方を殺せます」


 この手にある鉄の棒で、気絶させても良いが、それで大丈夫だろうか。



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