拾捌
私は石井先生の後を追った。
本来ならばこの後に、チャイムや朝の会、掃除もあるはずだが、それも気にしないで良いらしい。
まぁ、一応助けていただいたし...良いか。
校長室か生徒指導室にでも行くのかと思ったが、靴を履き、外に出た。何故わざわざ外に出る? 一体何処に行く気なんだ?
先生は何も言わない。
ただ、伸びをしながら私の前をダラダラ歩いているだけ。ついていくしかないな。このまま引き返しても、どうにもならない。
そして、先生の足が止まったのは学校裏倉庫だった。
「...先生、何でちょっと話すのに倉庫なんですか?」
「んー、何でだろうなー」
もう声を出さないわけにはいかない。
恐らく、今ならば大丈夫だ。
後藤さんは、いつも私の分からない所に隠れて見張ってくれているけれど、優しい人だから、きっと黒川さんには報告しないはずだ。
「ま、ちょっと見せたいもンがあるから、入れ」
「...見せたいものって何ですか?」
「それはお楽しみ、だ」
「じゃあ、持ってきてください」
私が倉庫の中に入ったら、もし何かあっても後藤さんは守る事が出来ない。
それに、二人きりで倉庫なんて...嫌な予感満載だ。ついてこなければ良かったな。
「強情な娘だなー、先生をパシるとか。...まぁ、流石ヤクザの妹というべきか」
「...」
「こんな時だけ黙りか」
彼はため息をつくと、倉庫の扉を全開にする。
すると、不意を掴んで私の手首を掴み、物凄い力で中へと引っ張り込んだ。成人男性の力に私が敵うはずもなく、私は倉庫の中に。
冷たい床に叩きつけられたか、左足を捻ってしまった。
嗚呼...何て事だ。先生は動けなくなった私を見て笑い、倉庫の中に入ってきて扉を閉めた。
途端に辺りは真っ暗になったが、先生が明かりをつけたので周りなら見る事が出来た。
窓はない。
カラーコーンやブルーシート、柵、バケツ、ボール等の備品が無造作に並べられている。
石井先生をチラリと見ると、内側から鍵を閉めていた。
「先生...何をする気ですか」
「...君は怖がっていないね。つまらないよ」
「質問に答えてください」
「そう...」
すると、石井先生はしゃがみ、私を抱きしめてきた。これはもう...本格的に犯罪の域だわ。
「良い香りだね...」
「教師が生徒に手を出すのは、犯罪ですよ先生」
「真面目に流されるし驚きもしないし...あぁ、君はあれか。黒川 真人の慰み者か。慣れているのか」
「妹です。離してください」
犯罪、犯罪だよ。捕まるよ先生、気色悪いですよ先生。
人の髪の匂いを嗅いで、首筋を撫でてくるなんて...あれ、でも、やっている事は黒川さんと変わらない。
私も最初はこんな風にやられて、物凄く気分が悪かった。でも、何で今は、甘んずる事が...もう慣れてきたのかな。慣れって怖いな。
「うるさいなぁ、あんまりうるさいと、口を口で塞いじゃうぞ」
「いや、それだけは止めてください。...貴方は、何がしたいんですか?」
「...『戦嶽組』、幹部の石井 恭二。何で俺がガキ達の子守しなきゃいけないのかだが...まぁ、目的は君だね」
先生はまだ強く抱きしめてくる。
黒川さん並みの腕力...どうにも振りほどけない。どうにかこの場所から退散しないと、色々危ない気がする。
「私...?」
「黒川 佐凜という名の妹を溺愛する、日本最大のヤクザグループ組長...その妹を人質に取ったら、黒川 真人はどんな事でもするだろうなぁ。
大好きな妹が、綺麗な髪を切られ、可愛い顔がグチャグチャになり、手足の爪が無残に剥がし取られ、餓死凍死寸前で、犯され、嬲られ、目も覆うような暴力を受けていると知ったら...全てを投げ出してでも助けに来るかもな」
「っ...」
「そんな怖がんないで。黒川組の妹様だ。丁重に扱わせてもらうさ」
全身に電気のような何かが走り、全身が痺れた頃には、私の意識は奪われていた。