表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/109

拾伍

 


「が、害虫...?!」


 フッと目が覚めた私は、目の前の男性を前に驚愕の声を上げる。

 右手に銃を持った黒川さん。しかも、その手は血に塗れている。真っ赤で、新鮮な血。

 この人は一体...何をしたの?


「えぇ、私の可愛いサリンに近づいて、ベッドの下に潜んでいた醜い虫ですよ」

「殺したんですか...?」

「この銃は殺傷性は、そこまで高くない。一発撃っただけですので、まだ死んでいませんよ。当たり所によっては、虫の息でしょうがね」

「そんな...」


 ベッドの下...水羽くんだ。黒川さんがシーツを上げると、鉄臭い血の匂いが鼻を刺激する。

 水羽くんが、銃で撃たれた。

 その事実に、私は目に涙を浮かべる他なかった。しかしそれは、黒川さんをより逆上させてしまうに過ぎない行為なわけて。

 彼は私に銃を向け、狂気染みた笑みでこう言った。


「ねぇサリン。私のサリン。私は貴女の事を想ってやっているのに、何故泣くのですか?」

「彼は何も悪くないのに!」

「私の妹に近づいた。約束は覚えていますよね? 殺すって、言いましたよね? 私は嘘はつきませんよ。約束は必ず守りますよ」


 黒川さんは無表情になり、銃を降ろした。


「ねぇサリン、貴女は私との約束を破りましたね。どんな罰を与えましょうか」

「っ...」


 水羽くんを助けたい。だが、今そんな事を言えば、もっと黒川さんを怒らせてしまう。もしかすると、まだかろうじてある息の根すら止めてしまうかもしれない。

 本当にごめんなさい...水羽くん。

 私は必死に涙を堪え、黒川さんをジッと見つめた。すると、彼の顔には優しい笑みが戻ってきた。


「嗚呼、物分かりが良いですねサリン。ベッドの下の奴は、一体誰でしょうか?」

「水羽くん...クラスメイト。先生に言われて、私の様子を見に来たらしいです...」

「よく部下が通したものですね。後藤が通したんですか?」

「さぁ? 多分、勝手に入ってきて...」

「そうですか」


 この人が何を考えているのかが分からない。

 でも、一言でも間違えれば、私と水羽くんは、仲良くあの世行きだ。


「怖がらなくても大丈夫ですよ。その水羽くんとやらは、サリンの態度次第では治療してあげても構いません」

「ほ、本当ですか?!」

「えぇ。ただその代わり...ちゃんとお仕置きを受けてくださいね?」

「はい...」


 しばらくすると、険しい表情の後藤さんが、部屋の中に入ってきた。

 またやらかしたか、と呆れているようにも見える。

 そしてベッドの下を見ると、一層顔をしかめた。死んでいなければ良いのだけど...無事でいてほしい。此処に来たばっかりに、死んでしまっただなんて...私のせいだ。

 後藤さんは、血だらけの水羽くんを抱えて部屋から出て行った。息はあるようだが、意識は飛んでいた。


「あぁ、汚れていますね。ちょっと洗ってきます」


 悪戯っぽく微笑む黒川さん。とても、ついさっき人を銃で撃ったようには見えない。

 洗面所まで行く背を見送ると、私は叫び出したい心臓をいなし、ゆっくりと深呼吸をした。鉄の匂いがまだ鼻を震わせる。だが、それはすぐに消えていった。ベッドのシーツは、心なしか血が滲んでいるようにも見える。

 戻ってきた黒川さんの手は、もう血に塗れてはいなかった。


「黒川さん、私...本当にすみませんでした」


 私はベッドから抜け出し、彼に向かって頭を下げる。

 非道な事をした...だが、それは私が約束を破ったせいだ。もし水羽くんを絶対に部屋に入れないという姿勢を見せたら、無理矢理にでも後藤さんに連れ出してもらうように頼んでいたら、黒川さんは、罪を重ねないで済んだのかもしれないというのに。

 黒川さんは微笑むと、頭をさげる私の髪を撫でた。


「ねぇサリン、謝って済む問題ではないんです」

「分かってます」

「...そう、ならお仕置きはそこまでたくさんはしなくても良いかもですね。頭を上げてください」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ