表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/109

拾弐

 


 明朝、黒川さんは仕事に出かけた。

 いつもながら、私は部屋に一人。

 学校に行けない。外出も出来ない。唯一の心の支えは本だけだ。

 そうそう、先ほど、宅配便の人が段ボール五箱にビッチリ詰めた大量の本を持ってきてくれたんだ、嬉しい。


 さて、相変わらず、黒川さんに反省の色はなかったな。

 私は洗面所の鏡で自身の首を痕を見ていた。


「うわ...黒川さん握力いくつなの?」


 クッキリと手を痕が残っている。これは酷いな。

 私は、茶色がかった自分の髪を見た。黒川さんと同じ匂いがする。まぁ、シャンプーが一緒だから当たり前なんだけどね。

 あの人は私の事を...愛してくれているんじゃないかと、此処数日で感じた。

 抱き枕としてだけじゃない、妹としても、私を大切にしてくれている。この首の痣だって、軟禁状態だって、愛故の行為なのかもしれない。でも...違う。


「これは愛なの? 黒川さんは、何を考えているの?」


 濁った自分の瞳を見つめる。

 曇り空のような瞳だ。悲しげな、儚い光しか持たない瞳からは、今にも涙が溢れてきそうだった。

 何処かあの人は歪んでいる。黒川さんは...愛の示し方を知らないのかな?


「私は...黒川さんの事...」


 良い人だとは思っている。嫌いじゃない。家族だ。

 嗚呼、何でこんな気持ちになるんだろう...やっぱり、ヤクザ組織の組長だからというのもあるんだろうけど...。複雑だ。


「分からないなあ」



夕方頃になると、外から声が聞こえた。後藤さんの声だ。面倒くさそうな、疲れていそうな声。


『サリン、何かお客さん』

「え...」

『眼鏡かけたガリ勉っぽいの。今此処にーー』

『黒川さん、いる?』


 鍵のかけられていたドアが開いた。

 外にいたのは、後藤さんと、眼鏡の制服少年ーークラスメイトと水羽ミズワくんだ。不味い、もしこんな所を黒川さんに見られたら...考えるだけで寒気がする。


「あ、水羽、くん...えと...」


 私は混乱して急いでドアを閉めようとしたが、目の前の少年はそれを許さなかった。

 足を隙間に入れられ、閉めようにも閉められない。


「水羽くん、君、殺されるよ!」

「大丈夫、先生の頼みで放課後、黒川さんの様子見てこいって。あと、父さんにもいってあるから」

「父さん?」

「僕の父さん、刑事だから。この組を追ってるから」

「そうなんだ...って、ちょーー」


 水羽くんは私の許可も得ずに、無理矢理部屋の中に入ってきた。

 それだけはどうか止めてほしい。

 色々とプライベートなものもたくさんあるし、それに...。


「お邪魔します...っと、随分綺麗な部屋だね」

「水羽くん!」


 後藤さんに、水羽くんを止めるような様子はなかった。ただ黙って見つめているだけ。

 でも、何で後藤さんはドアを開けたの? 殺されるよ...私と喋ったり、目を合わせたり、触れたりして良いのは黒川さん、後藤さん、桜桃サクラさんだけだ。

 見つかったら確実に、水羽くんは殺される。


「へぇ、このスーツは組長のか...」


 勝手に引き出しを開け、勝手にクローゼットを開け、勝手にベッドの匂いも嗅ぎ始めた。


「何? この部屋に二人で住んでるの?」

「このに二人で住んでます」


 多分この人、何言っても聞かないと思う。もう良いや。流石刑事の息子というべきか、メモ帳や手袋、カメラまで常備していたーーって、部屋の写真撮るな!


「止めてよ水羽くん!!」

「ねぇ黒川さん、可哀想だ。本当に可哀想」

「え...?」

「首に痣」


 水羽くんの言葉に、咄嗟に首元を隠す。


「DVか。それに、慰み者にされているんでしょ? ベッド、君と黒川の匂いがする」

「何で分かるの?」

「君は、バニラみたいな甘い香りがするからね」


 壮大過ぎる勘違いをしている水羽くんだったが、その嗅覚は褒めたい所だ。

 確かに私はシャンプーは黒川さんと同じだが、リンスやトリートメントは「Vanilla」というバニラの香りのを使っている。黒川さんと一緒に使っているシャンプーの方が匂いがするのに、凄いなぁ。


「その犬並の嗅覚には関心する。けど、早く出て行きなさい。お互いのため」

「何で? 組長は仕事でしょ?」


 途端、ドアの外から声が聞こえた。


『後藤、サリンは今何をしている?』

『く、組長?! 今日は、早いですね...』

『嫌な予感がしただけだ』


 これは本当に、非常事態だ...。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ