佰漆
「大体、何で貴女みたいな醜女が、聡様とランスフォード様のご友人なのですか? 恥ずかしくないのですか? あんな美形に挟まれて」
いや、恥ずかしいですよ。
相変わらず、栗山さんのマシンガン悪口攻撃は続く。
うぅ......メンタルは比較的強い方だが、これはキツイな。
というか、凄いこの人容姿の事貶してくるんですけど。これでも私、結構顔は良い方だって自負してたんですけど。
壊れていたのは私の目? それとも鏡?
「ほら、勝手に着替えてください。一々決めるの面倒なんで」
勿体無いな、可愛い顔してんのに。
悪態付きながら、栗山さんは幾つかドレスを出し、ベッドの上に並べた。
この人である意味を問いたい。
猿渡さーん、チェンジ希望です。
「栗山さんが決めてくれませんか? 私、こういうの疎くて」
「あぁ、そんな感じの顔してますもんね。その服はあれ、黒川様が選ばれたんでしょう? 貴女には到底無理そうですし」
敬語で罵倒とか、一部の人だったら歓喜モノなんでしょうね。ははっ......。
”そんな感じの顔”って何ですか。私、そんなにファッションセンス無さそうな顔してますか?
しょうがないじゃない。
おしゃれなんてした事なかったんだから。
私は見た目より実用性で選ぶタイプだから、どうしてもセンスが......ねぇ? こらそこ、お前の才能の問題だとか言うな。
良いの。
黒川さんが全部用意してくれるから良いの。
まぁ、完全に用意されるのはあの人の好み寄りの物なんですけど、自分で選ぶよりかはずっと良いの。
「言っておきますけどね、私、貴女みたいな勘違いブスは嫌いなんです。ただお金を持ってるだけであんな方々と一緒にいれるなんて......羨まーーいえ、厚かましいです」
すみません、勘違いブスで。
すると、栗山さんは今度は高圧的な態度を覆し、少し頬を赤らめながら言った。
「だ、だから......私の方が可愛いんで、まぁまぁ引き立て役レベルまでには可愛くしてあげます。ブスは見苦しいですから。さぁ、とりあえずこれを着てください!!」
ーーん?
これは......「ツンデレ」なのか? 果たして。
ええと、下げて上げるスタイルですかね?
いや、下げられてばかりで一切上げられてはいないんですが......まぁ、服選んでくれるんだったら良いや。
というわけで、栗山さんの用意してくれたドレスを着てみた。
淡いピンク色のロングドレス。
露出は控えめだが、足の部分に切れ込みが入っている。
そして、ダイアモンドの飾られたネックレスをつけられた。
「ちょーーこんなのつけられませんよ!」
「ハァ? 普通ですよこんなの。この程度の装飾品さえも、マトモに身につけられないんですか?」
えぇそうですよ!
ダイアモンドってあれ......ダイアだよ?! モンドだよ?!
私みたいな庶民がそう気軽に身につけて良い代物じゃないんだよ?!
これ、一体何カラットですか......? 手の甲くらいの大きさはあるんですけど、一体幾らするんですか......?
怖い。
超怖い。
炭素の塊が怖い。
「こんなのにビビってダっさ。折角選んでやったのに」
「すみません......」
しかし、栗山さんの威圧が凄かったので、仕方なくダイアモンドのネックレスをつける事にした。
残念ながら断れなかった。
私、意思の弱い子なの。ごめんなさい。
すると、今度は椅子に座らされ、髪を触られたのですが、
「貴女、髪の毛無駄に長いですね。まぁ、手入れはちゃんとされてるようですけど......腰まで伸びてるなんて、邪魔以外の何物でもないじゃないですか。ちょっと結びますよ」
と言って、栗山さんに髪をアップにされた。
我ながら髪の量は人の倍はあるのだが、月並みに見える。素晴らしい。
うわぁ......うなじ出すの久しぶりだなぁ。
うなじに色気を感じるのは日本人だけ、って言うけど、本当だろうか? 確かにセクシーですけども。
......怒られそうだ。
まぁ良いや。
見られなければ問題ない。
***
事を済ませ、私は栗山さんの案内で大広間に戻ってきた。
もう音楽は鳴っておらず、社交の時間になっている。
さて、誰にも見つからない内に黒川さんを探すかと大広間に入った途端、中にいた人間全員の視線がこちらに集まった。
な、何ですか。
私は美味しくないですよ皆さん。
「おやおや、随分と可愛いカッコになってもうて。オレ様、感激やわぁ」
つい先ほど聞いた声が、後ろから聞こえて来る。
「嬢ちゃん、さっき女の子が恋愛対象言いよったけど、まぁ嘘やろ? オレ様、人の嘘見抜けますの」
「ま、マッツー......さん」
「”さん”なんてつけんといて。他人行儀は、オレ様は嫌いや」
「戦嶽組」の時期組長ーー北条 末斗......通称マッツー。
あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー。
来てしまった。
この男が大広間に来てしまった。
そう、この大広間には我が兄上もいらっしゃるのだ。
混ぜるな危険。
私の頭が警報を鳴らしている。
これは、すぐにでもこの男を大広間から出さないとーー
「一体、誰と話しているんですか? サリン」
「ヒッ.....く、黒川さん......」
あ、黒川さん来た......うわぁ、あんまり挑発しないでくださいよ、お二人とも......。
すると、マッツーは笑顔を見せてこう言った。
「あれ、やっぱり知り合いやったんか。お久、黒川〜」
「......お前か。一体何の用だ。さっさと帰れ」
「酷い事言いよるなぁ。幼馴染にそれはないやろ」
「お、幼馴染......?!」
あ、聡も駆け寄ってきた。
というかあの、周りの方々がジワジワと距離を離しているので......一旦、出て話しませんか? 無理? あ、ハイ......。
「この男とは、玲海堂で同じだっただけの人間です」
「えーずっと、一緒やったやろ?」
そうか。黒川さんも玲海堂出身か。
なるほどね。金持ちは大体彼処に行くから、同い年なら会った事もある、と。
「そうや黒川。この嬢ちゃん、俺にくれひん? 組同士の結束を深めるっちゅー意味も込めて......」
「下衆が」
「うわ、拳銃向けんなや」
あぁぁ......ダメですよマッツー、そんな事言ったら。
黒川さんは青筋立てて、マッツーに銃を向けた。
使用人の方々は、慣れているのかどうかは知らないが、特に驚いた様子もなく、淡々と此方の様子を窺ってくる。
「お、お兄ちゃん、喧嘩は止めよ? 私、お兄ちゃんから離れたりしないから」
「サリン、ここでそれは反則ですよ」
よし、とりあえず今はこれで落ち着かせよう。