表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/109

佰睦

 


 先に言っておくが、別に私は、大層な身分じゃない。


 生まれが特別に金持ちだったり、実は何処かの国の王族だったり、はたまた親が偉人だったりーーそんな事を夢見た時期もあったけれど、それはあくまでも、遠い遠い幻想世界。

 私の手の届く場所ではなかった。


 そう、数年前までは。



 ヤクザ、というと思い浮かべるのは、社会の暗部である。

 現代のヤクザは昔と比べて困窮し、数も減ってきているというが、一部は違う。

 裏の裏で行き、自らの手を汚す事なく闇を歩く。


 そんな”一部”であり、「闇の支配者」なんて厨二臭いコードネームのようなもので呼ばれている男が一人、今、私に跪いている。


「ーー私と踊ってくださいますか? お嬢さん」


 おい、何が”お嬢さん”だ。


 あ、これも言っておく。

 別に私は、イケメンを傅かせて喜ぶ性癖は持っていない。寧ろお断りしたい。

 いくら兄と言えど、周りの視線が痛いのだ。辛いのだ。冷たいのだ。



 巴ちゃんの誕生日パーティ。

 そんな名目はあくまでも建前。

 今日の客人の目的は、巴ちゃんを祝う事も勿論であるが、現代版舞踏会に参加する事である。


 金持ち共の社交の場ーーそれが舞踏会。

 豪奢な服で身を包み、友人関係を広げ、稀に婚約者さえもそこで見つける。

 まだ舞踏会なんてものが残っていたなんて......と小さく私はため息をついた。


 舞踏会は、その名の通り、舞踏の会である。

 そう、踊るのだ。


 そこで、冒頭の台詞に戻る。


「ダメですか? サリン」

「いや、私踊れませんし」


 黒川さんの笑顔が眩しい。

 何だこの美貌は。

 殴りたい、この笑顔。


「踊ってこいよ......頼むから」


 聡は私から数メートル距離を置き、明後日の方向を向いていた。

 どうやら黒川さんの威圧感に耐えられないようだ。


 そもそも、黒川さんは先ほどまではあっちにいる金持ち達に、しつこく話しかけられていたわけで。

 それに飽きたのか疲れたのか、愛想を尽かしたのかは知らないが、すぐさま戻ってきた。おい、お嬢さん方、もう少し黒川さんを引き止める苦労を負ってください。


「あぁ、オーケストラまで。随分と本格的ですね」

「そーですね......」


 すると、続々と大広間に楽器が運び込まれ、”如何にも音楽家です”といった格好をした老若男女が入ってきた。

 おお、生オーケストラは初めてだ。

 しかし何故だろう、純粋に喜べない。今目の前のいる眉目秀麗男が原因か? あまりの美しさに私の心が拒否反応でも起こしているのか?


「サリン、どうしましたか?」

「いや......やっぱり、踊るのは無理かなって」


 よくよく大広間を見てみれは、男性はスーツ。女性は舞踏会でよく着ていそうな、プリンセス風のドレスばかり。

 対して私はーーそんな事を全く意識していなかったフォーマルな衣装。

 こんな格好で踊れば逆に目立つぞ。私は視線を集めたくないってのに......。


「ほーら、だからドレスに着替えろって言ったのに」

「うぅ......うるさい」

「今からでも着替えてくるか? 猿渡も今は忙しくないと思うぞ」

「そうですよ。絶対ドレス似合いますって。露出控え目のドレスで頼む」

「畏まりました、っと。んじゃ、猿渡呼ぶからな」


 か、勝手に話を進めないでくださいよ......ハァ、仕方ないな。

 着替えるか。



 ***



「メイドに準備をさせましょう。栗山クリヤマ

「はい!」


 大広間を出ると、猿渡さんがいた。

 何故だか事情を知っている猿渡さんは、ドレスを用意させるためか、すぐにメイドさんを呼んでくれた。

 黒川さんも、私のドレスチェンジには意外と乗り気で、若干嬉しそうだった。まぁ、機嫌を直してくれたようで何よりだ。


 猿渡さんが呼んだのは、少しそばかすのある可愛らしい少女のメイド。

 前髪をパッツンにして長い髪を後ろでくくっており、その色は茶色い。どうやらハーフ系の子のようで、目の色も黄色に近い茶色だった。

 私と同い年か、少し下くらいに見える。


「彼女は下働きなのですが、とても服のセンスが良いのです。栗山、黒川様を奥様に部屋にご案内しなさい。既に何十着か用意してあります」

「はい! この栗山、全身全霊をかけて黒川様を可愛くしちゃいます!」


 あら可愛い。

 一体この人幾つだ? 女性に年齢を聞くのは失礼だというが、二十歳以下なら問題ないものなのだろうか?

 いやぁ、本当に幾つだろう。


 猿渡さんと別れ、私達は雅さんの部屋に向かう事になった。

 その道すがら、栗山さんはこんな事を言い出した。


「黒川様って、本当にお綺麗ですよね」

「あ、え、そう? ありがとう」

「いや、私、お兄さんの事を言ってるんです。誰も貴女の事なんて言ってませんよ」


 あ、すみません。

 勘違いですか恥ずかしい。


 ーーって、普通この流れだったら自分の事だって思うよね?

 .....思うよ、ね?

 えっ、思わないんだったら大分恥ずかしいんだけど。

 ナルシスト乙、とか思われてんのかな? 栗山さんの表情が怖くて見れないよ。


「というか貴女、調子乗りすぎですよ? 聡様とフラット様と親しいからって、自分が可愛いとでも思ってるんですか? とんだ勘違い女ですね」


 ......あぁ、色々とまずい人に捕まっちゃったな。

 猿渡さん、チェンジ出来ますか......?

「【番外編】後藤 謙次の往古」を投稿しました。

こちらは後藤さんの過去編ですね。良かったら見ていってください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ