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佰伍

 


 生贄となったランスは、私と聡の手により、女子の群れに放り込まれた。

 仕方がない、我々は目立ちたくないのですから。


「おいサリン、あれ」


 聡が小突いてきたので、視線を同じ方向へ向けると、そこには”黒川さんがいた”。

 うわ、入ってきた時点で既に注目の的だよ。

 そりゃそうですよね、神様に愛され尽くした容姿をされておりますから。


 いつもと同じ、適当な高級店で買ったスーツに、数百万はする腕時計。新品の革靴。

 見るからにエリート仕事人。

 おまけに顔の良さが際立って、何処かの国の王子のようにも見える。いや、本当は王子なんじゃないかな、あの人。


 誰かを探しているのか、周りの視線など気にもせず、キョロキョロと辺りを見回している。

 だが、残念ながら大広間は広い。無駄に広い。

 簡単に探し人は見つけられまい。

 うーん、探し人って誰だろうなー。


 私が遠い目をしていると、聡に頭を叩かれた。


「お前を探してんだろ。行け」

「嫌だ。本当に来るとは思わなかったよ...ねぇ、何処か隠れる場所ない? テーブルの下って大丈夫かな?」

「止めろ。掃除してるとはいえ汚いぞ」

「そういう問題なの?」

「そういう問題だ」


 とりあえず、隠れられる場所隠れられる場所...うーん、こういう時に猿渡さんがいてくれたら良いんだけどな。

 NOと言わない執事さーん、何処ですかー?


「あ、こんな所にいたんですね、サリン」


 見 つ か っ た。


 精一杯の笑みを取り繕って振り返ると、そこには相変わらず麗しい黒川さんがいた。

 聡は苦笑を浮かべ、私から若干距離を置いている。こいつ、分かってるな。


 周りの視線を少しも気にする様子もなく、黒川さんは蕩けるような表情で私の頭を撫でる。


「あぁ、今日も可愛いですよ。それで、例の誕生日の娘は何処ですか?」

「と、巴ちゃんは今、化粧直しに」

「化粧? 確か中学生だと聞いていましたが...サリンは化粧なんてしなくても、可愛いですよねー」

「巴ちゃんも可愛いです」


 ここで自分の容姿も否定すると、それはそれで怒り出しそうだ、この男は。

 というか、こんな公の場でそんなことを言わないで頂きたい。恥ずかしい、というか...視線が痛いというか。

 おい聡、そんな顔をするな。


 すると、黒川さんが、私から二メートルも距離を取っている聡に目を向けた。

 ギクリと身構える聡に対し、黒川さんはいつもの調子で話しかける。


「お前が西園寺 聡か」

「え、えぇ...父が、いつもお世話になっています」

「あぁ。お前の父親は、相変わらず金に目がないが、息子はどうだろうな?」

「俺は、父みたいに資本主義ではないんで」

「度胸はあるようだ」


 ふぁ、ファーストコンタクトは悪くない、のか?

 悪くないということにしておこう。

 黒川さんの目は冷たいし、聡も警戒態勢を緩めていないけれど。

 ごめんなさい、うちの兄が。


 ランスが女子に囲まれてここにいないのが、唯一の救いか。

 きっと黒川さんのことだから、私の周辺人物くらいは把握しているだろうけど、実際に接触されないのならばまだ良い。


「まぁ、今日は折角の誕生日会ですから、楽しんでくださいね。余程のことがない限り、私も口は挟みませんので」


 余程のことって、一体どういう基準だ?


「そうだサリン、帰る時は一緒ですからね? 泊まりは許しませんから。とりあえず、家に帰りたくなったら声をかけてください。後藤は外にいるんで」

「分かりました」


 流石に泊まりはしませんよ。

 黒川さんは満足そうに微笑むと、私の頭を数回撫で、そのまま踵を返して何処かに行ってしまった。ありがたい。

 ずっと近くにいられたんじゃ、安心してお喋りも出来ない。


「行ったな。......ハァ、ったく、組長がいると息が詰まるぜ」

「コラ、そういうことは口に出しちゃダメだよ。あれ、ランス、もう逃げてきちゃったの?」

「だって僕はサリンちゃんと一緒にいたいもん」


 困憊した様子のランスが戻ってきた。

 可愛いものが大好きなランスも、肉食系女子に囲まれたら疲れるんだね。

 でも君は生贄だからね、行きなさい。


「え、何で無言で背中を押すの? え、ねぇ! 何で?!」

「行けランス。俺等を巻き込むな」

「そういって僕を囮にしないでよ」

「囮云々じゃなくて、お前に寄ってくるんだよ、女共は。俺達のために行け」

「そうだ行け。後でギュッとしてあげるから」

「くっ......仕方ないな。約束だからね!」


 単純な。

 小さくため息をついたと思えば、ランスは肩を落として女子の方へトボトボと歩いて行った。歩いていくというか、周りから寄ってきているよね。

 うん、少々申し訳ない。


 けれど、ランスは近くにいなくて正解かもしれない。

 聡曰く、ランスは良く言って「天然」、物凄く悪く言って「KY」である。そう、あの子はあまり空気が読めないのだ。


 黒川さんは、自分以外の人間が私を「サリン」と呼ぶのを嫌う。

 だから聡も出来る限り口を開かないようにしたし、若干の距離も置いた。

 だがランスではどうだろう。申し訳ないけど、察してくれるか分からない。

 ごめんねランス、私も聡も君のことが大好きなんだ。けれど、けれど今は女子達ハイエナへの生贄となってくれ。


「あ、巴ちゃんが戻ってきた」


 大広間に、巴ちゃんが入ってくるのが見えた。

 キョロキョロと辺りを見回し、私達を見つけるとすぐさま足早にやってくる巴ちゃん。

 先ほどよりも少々化粧が濃くなっているが、元が良いからやっぱり可愛いね。化粧なんてする必要ないと思うんだけどな。

 あの美人なお母さんの遺伝子を受け継いでるんだし......。


「お姉さま、黒川さまはいらしました?」

「うん。さっき入ってきたよ」

「まぁ! 何処にいらっしゃるかしら!」

「あぁ......今、お父さんと話をしてるね。言っておいで。主役は巴ちゃんでしょ?」

「はい!」


 巴ちゃんに、嘘はつけないや。

 ”余程のことをしない限り”、黒川さんは今日は怒りはしないだろう。

 折角のパーティなんだ。イケメンの所へ行っておいで。


 巴ちゃんと言えば......マッツーはいるのかな? 黒川さん来ちゃったけど、鉢合わせたりなんかーーいや、するよな普通。

 いくら広いとは言え、此処は一つの部屋だ。

 いずれ二人は出会う。


 そしてそのまま恋に落ちてくれないものか。

 全国の腐女子歓喜、変態から解放されて私も歓喜。

 絶対に有り得ないけど、そんな結末が欲しいな。


 とりあえず、此処に集まった紳士淑女の皆様、どうにか私の兄を落としてくれないか?

「【番外編】黒川 真人の往古」を投稿しました。

黒川さんの生い立ちとかを、ザックリ書いたものです。暇だったら見てやってください。

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